2017年12月29日
vol.120 JA岡山西船穂町花き部会様:岡山県 スイートピー【前編】
2017年最後を締めくくるウンチク探検隊!降り立ったのは“晴れの国、岡山!”!
※“晴れの国、岡山”=岡山県のキャッチコピー。晴れの日が多い、降水量1mm未満の日が多い、温暖な気候で災害が少ないなどの理由から。
岡山県の名物といえば、きびだんご、ブドウ、モモ、そして・・・!
え??
その次が出てこないって?
ぷぷ、ダメウーマン!(ブルゾンちえみ風←岡山出身)
岡山の名産品がこれ以上出てこない?
じゃあ、質問です。
みなさんは、1月の流通でキク、バラに続いて出荷量の多い花をご存知ですか?
その花こそ・・・
スイートピー!!
※大田花きの流通量(2017,2016)、カーネーションをスタンダードとスプレーに分けた場合。2015年、2014年1月においては、バラを上回る出荷量。
是非、今回のウン探の記事で岡山の名物を覚えてください!
そのスイートピーの生産者さまでかなり卓越した方がいらっしゃると伺い、JA岡山西船穂町花き部会さまにお邪魔致しました。
おっと、ここで念のためですが船穂は「ふなお」と読みます。
取材にご対応くださったのは、船穂町花き部会前部会長の木下良一(きのした・りょういち)さん。
木下さんは新規で農業を始め、ゼロから“ぜ~んぶ自分で作っちゃた人”。さて、ではどこまで自分で作ってしまったか、お話を伺ってみたいと思います。
◆驚異の自家製圃場
ハウス広い!\(◎o◎)/!
ハウスの中一面に広がるスイートピー畑。
広いハウス25アール(2,500平方メートル)。連棟25アールって、ウン探がお邪魔した中では結構珍しい。
広さに驚かされるのは単棟ではなく連棟のためなおさら。
「連棟なのは雪が降らないことが前提になっているから」
と木下さん。
「このハウスは2000年に就農するときにスイートピー生産者の皆さんに指導・協力してもらいながら作ったんだよ」
え?自作のハウス?こんな広くて立派なものをご自身で作ってしまうなんて。
「この銀筒は自作の強制通風筒。
直射日光が直接当たらないように筒で覆って作ったハウス内の環境を測定するセンサーの入れ物だよ。むき出しになっていると正確な数値は測定できないんだ」
デジタル百葉箱のようなイメージでしょうか。
「そう、近いね。24時間循環させているファンに繋がっているんだけど、市販品は高価なので自作。
これはwebカメラ。
スイートピーを播種したときからずっと追っています」
日夜通して1時間に1回パシャ!
「そうすると夜間にどのような動きをするかがわかるんだよ。ライトも付いていて、写真を撮る時だけ点灯するんだ」
webカメラを使った撮影システムもmade by 木下さん。
「このケーブルの先はセンサーになっていて、地面の中に挿してあって、
土壌水分や栄養分を確認する」
こちらのシステムも木下さんの自作。
「これは風向風速計と日射計↓」海外から部品を取り寄せ、個別に接続。
「そしてこれは安価なマイクロコンピューター。これを使ってハウス内の環境データを集めて、パソコンに送られるんだ」
配電盤の蓋に貼られた宇宙人らしきシールが意味するものは?
「地球からのお客様ばかりでなく、宇宙からのお客様も歓迎しますという意味だよ」
なんと寛大なお方なのでしょう!!
「今のところ、見学の申し込みはないけどね^^ここは素晴らしい星空が見えるんだ。宇宙からだけ見える休憩所の案内を出して、お迎えできるように検討しているところだよ」
そのほか、木下さんは通信教育で資格を取って炭酸ガス発生装置や暖房もご自身で配線&設置。
木下さんの自作は、ご自身で工夫して仕組みを考えるところから始まります。
例えば、こちらのハウスを覆うビニール。
「燃料の節約のために二重にしているんだよ。
二重になっているため空気層を作って、熱の損失を抑えるというしくみになっている。これも自家製。
ここにはトイレの煙突を使っているんだけど、
トイレに付けるときは内側の臭いを外に放出する役割として使うよね。でも煙突の先を逆さに付けることによって、空気の流れが逆になる。
このハウスはビニールを2重にしていて、夜間、気温が下がると煙突からビニールの間に空気が送り込まれ、このように↑膨らんでピタッと壁に密着し、隙間風を防ぐんだ」
隙間風による室内温度低下を防止できるため暖房費の大幅な節約に繋がります。何というアイデアでしょう!!
「これはLED電球」
何用ですか?
「日長調整をするためだよ。LEDライトでも違う波長を組み合わせたオリジナル」
落蕾(らくらい:ツボミが落ちること。日照不足などで引き起こされることが多い)を防ぐための補光ではありません。
「これは細霧(さいむ)冷房」
細かい霧状の水が出て気化熱で圃場内温度を下げるもの。9-10月ころ、播種後はまだ暑い日もあります。しかも岡山のハウスの中となれば真夏の陽気ですからコレ必要。
このようにして栽培環境を整えるのですね。
「これが加温機のダクト」
「私は危ないから通路にはダクトを通さないんだよ」
ここに加温機の風が通ると膨らんで、この穴から真上に温風が上がる。すると花に直接風が当たらない。それがこのダクトのいいところ。これに循環扇をつけて、ハウスの中の方まで温風が回るようにしています。
これらのツールはすべて木下さんの自作。
「それに5%の傾斜がウチのポイント」
ん??傾斜??
圃場の入口から反対側まで30m。入り口側の方が1.5m高い。 歩きながら平らに感じていた圃場内は、実は南向きに5%の緩やかな傾斜になっていたのです。
5%くらいですと外から拝見してもわからないくらいですが、上の写真ですと右側が南で太陽が当たるようになっているので、左側がわずかに上がるように傾斜しているのです。
それだけ南向きになっているので、日照を確保しやすくなります。スイートピーばかりでなく、他の農産物でもこの傾斜をうまく利用してハウスが建てられています。
「スイートピー農家にとって何よりのごちそうは青空です」とおっしゃる木下さん。できるものならプレゼントして差し上げたいくらいですが・・・生産者さまが“晴れの国、岡山”でごちそうをたっぷりと享受するための設計がされているのです。
太陽光の教授ばかりでなく傾斜になっている分、風が抜けやすいのもポイントです。柔らかな風があればハウスの中央部分でも空気がこもらず湿度対策・温度対策ができるのです。
「スイートピー生産には“頬に風を感じるくらい”がいいって言われるんだよ。」
アタクシのガサガサボロボロの頬では風を感じることができませんでしたが、スイートピーを見るとどれもずっと揺れているではありませんか!写真ではお伝えできないのですが、これらのスイートピーは実はゆらゆらと振り子のように揺れているのです。
「傾斜に作られていて換気がいいので、船穂のスイートピー圃場ならどこででもこの揺れを見られるよ。これが理想的と言われているんだ」
今度スイートピーの圃場をご覧になる機会があったら、是非スイートピーの首が揺れているかどうか、ご注目ください♪
そよとゆれるそのスイートピーをよく見ると気付いたことが・・・
ん?
あれ??
畝(うね)の片方にしか花が付いていない?
以前、お邪魔したスイートピーの生産者さまは通路を挟むように両面にスイートピーが咲いていたような気がしますが・・・
↓こんな感じでした
それぞれに別の生産者様の写真ですが、どちらの圃場でも通路を挟むように花が付いています。
どーゆーコト??(。´・ω・)ん?
「私のところでは花がぜ~んぶ南向きになるよう設計しているんだよ。太いワイヤーを背にして太陽側にネットを張って、そこにスイートピーのツルを誘因するんだ。」
どれどれ?(◎_◎)
あ、ホントだ。ワイヤーを背にしてネットが付けられていて、圃場内の花の向きはすべて同じです。
「全て南側を向ければ5%の傾斜もうまく活用して、スイートピーに不可欠な日照量を効率的に確保することができる」
ごちそう、ごちそう!!( ∩_∩):*+゜*:.。.*:+☆
“晴れの国、岡山”の地の利を120%生かす!
「それからね、1本のツルは最大で6メートルにまで伸びる。それをこのように誘因するわけだけど、
昔、私がスイートピー生産を始めたころは、これを留めるときに畳表(たたみおもて)のダメになったものを20cm位に切って紐にして、それで一つ一つ縛っていたんだ。切って外して縛り直しての繰り返し」
うわ~ッ・・・この数を一つ一つ紐でですか??気が遠くなるようなおシゴトΣ(゚Д`;)?!!
「もちろん大変だし、人によってはギュッと縛って茎が傷んだりするでしょ。力加減はその人によってマチマチ。 そこで作ったんですよ、コレ、自分で」
え??(((ʘ ʘ;)))
つ、作った?
これを?この洗濯バサミのような洗濯バサミっぽいものを?
いやいや、ウン探をご覧いただいているみなさま。これをただの洗濯バサミと侮ること勿れ。この見た目に騙されてはいけません!
「図面を自分で引いて、樹脂加工してくれる会社に持って行って型を作ってもらうところから作ったんだよ。
材質はエンジニアリングプラスチック(強度・耐熱性に優れている素材)という樹脂を指定。生産スタート当初から使っているから今年で17年目になるけど、まだ一つもダメになっていないんだ」
え!?ちょ、木下さん??
就農以来17年以上一つもダメになっていない??(|||ʘΣʘ|||)ホントデスカ?
このような太陽をガンガン浴びる条件下で使っていながら?
「紫外線で劣化しにくい素材なんだよ」
うんわ~、既に耐用年数17年以上の洗濯バサミっ“ぽいもの”。この条件なら普通1年から3年でパキーンと折れてしまうと思うところです。
そう、この洗濯バサミっ“ぽいもの”はただの“ぽいもの”ではないのです。
スイートピー生産用に開発された様々なポイントが詰まっています。
【その1】誰でも等しく作業クオリティが可能に
ひとつは、作業する人の理解や能力に関係なく、誰でも南に花を向けて留めることができる。
「スイートピーの株に対し、ここに立ってこのように留めてください」とお願いすると、誰でも自動的に花が南向きになるしくみになっている。
【その2】きちんと留まる
ここに三角があるのがポイントで、この3点でしっかり固定されるためにきちんと留まる。4点では固定されないこともある。
【その3】スリム設計
2つのハネの角度が広くならないよう設計。
つまむのにできるだけ力を入れずに作業できるようスリムに設計。圃場内25,000株分の洗濯バサミ何万個を外して留めての作業をするため、一つの力は小さいように思えても、それが重なれば大変な力になる。すこしでも手に負担がないように弱い力でも開閉できるよう設計。普通の通常バサミと比べるとこんなにも差が。
実際に“つまむ力”を比べてみると全然違います。
【その4】すべり止めが効力を発揮
朝露などで濡れる機会も多いので、落としたりしないよう(落とせば拾うのも大変)すべり止めを付ける。
【その5】耐用年数が長い材質を使用
エンジニアプラスチック(通称:エンプラ)は、強度があり熱に強いばかりではない。洗濯バサミのプラスチックは低温脆化といって、温度が下がると樹脂が結晶化して割れやすくなるが、このエンプラはそれがない。耐薬品性も高い。耐光性も高い。価格も高い(;゚д゚)!
【その6】L字設計
あえて隙間を作るためL字を組み合わせた設計に。
ぴったり合わさるとそこに何か挟まった場合ハサミ自体が挟まなくなってしまうから。隙間が空いていてもここから抜けないようになっている。
【その7】青色
青色であることに何かポイントがあるのかと思ってしまいますが、大アリです!
「黄色にしようと思ったけど黄色は虫が寄ってくるし、緑は葉や茎と同系色で視認性が悪くなる。黒なら耐光性はいいが熱を持ってしまうと手で作業するからよろしくない。そこで青なのです!」
こちらが最初に型を作ってもらったときの模型。
よく見るとRK Pinch(りょういち・きのした・ツマミ)と刻印されているではありませんか!
現在は”PA66″に置き換わっていますが・・・?
「PA66とは材質のことだよ。材質名がわかる方がリサイクルしやすいかなーと思って」
どこまでも利他的なお考えに基づいています。
「当初はウチの奥さんの名前を入れようかなとも思ったんだけど」
なーんて、愛妻家の一面も見せる木下さん。
小さなモノにたくさんのノウハウが詰まっています。きっと特許商品に違いない!
と思いきや??
「特許は取っていないよ。
こんな市場性のないもの、特許取っても仕方ないって(笑)」
えーーー(・д・`*)
そうでしたか。
スイートピーと作業性に特化してスイートピーの生産者さんによって開発されたスイートピー生産のためのスイートピー専用クリップ!もはや“洗濯バサミ”ではぬぁーい!
何という名前なんですか?
「“ピーホルダー”だよ」
なるほど、スイートピーをホールドするからピーホルダーですね。 もしこの“ピーホルダー”をご希望の生産者さまがいらっしゃいましたら、JA岡山西船穂町花き部会さまかJA全農おかやまさままでご一報くださいませ~。
決してコマーシャルではありませんよ。
これが売れても木下さんには何のメリットがあるわけでもありません。しかし、スイートピー生産のために開発したので、是非皆様に使っていただきたいという木下さんのお気持ちがあるのです。
木下さんの手作りは細部にまで至ります。
例えばこのスピーカー。圃場のちょうど中央の天井付近に取り付けられています。
「これは“むしこうせいスピーカー”なんだよ」
虫光線スピーカー??虫に光線を当てるスピーカーとか??
「無指向性スピーカー。
普通はスピーカーは一方に向いていて、その方向にしか音が場飛ばないでしょ。でもこれは360度音が飛ぶようになっていて、圃場のどこからも音楽を聴けるようになっているんだよ。これも私の手作り。買うと高いからね」
さきほどから光GENJIの「STAR LIGHT」や千昌夫の「北国の春」など懐かしメロディーが頭を占領してしています^^;
でも間近にいてもそれほど賑やかに聞こえないのがこの無指向性スピーカーの特徴です。
こちらの誘蛾灯も木下さんの手作り。
「誘蛾灯も市販されているんだけど、2万円もするから作ったんだ。
洗面器と自宅の電灯をLEDに交換して不要になった電灯を使って紫外線ランプを付けて、お風呂用の換気扇をセット。できあがり!」
うんわ、めっちゃ蛾が引っかかっている!蛾の墓場やね、これ。
Σ(O_O;) キョエー【*;+スゴスギィイィ!!!+;*】!!!!
「お金を節約せにゃいけんのんで、自分でできることは自分でする」
ぬぁんと、このようなことまで「自分でできる」範囲になってしまうことが木下さんの能力の高さを示しているではありませんか。
「すべて自己資金でやるためには、業者さんにお願いするわけにはいかんのんで・・・。もう就職してから独立を目指してコツコツとお金を貯めてきたんだ。農業をするとはわからなかったけどね。」
お陰でこれまで無借金経営。
木下さん史上、これまで借り入れゼロ!!w((‘Д’))wワァオ!!
農業経営されていてそのような方っていらっしゃるんですか?
はい、こちらに。
くどくてすみません。JA岡山西船穂町花き部会の木下良一さん。 農業に限らず事業を始めるときには一般的には借り入れが発生するもの。
新規就農の際に借り入れゼロなんて、かなりレアケースです。
◆木下さん流水揚げ方式
自家製事務所に入った途端に目に飛び込んでくる謎の光景。
ずらりと並ぶ水入りカップ。
木製の什器に一つ一つセットされています。
よく見ると、下には番号が振ってあります・・・コ、コ、コレは?
「水揚げ用だよ」
え?この什器で・・・ですか?ナンダカ意外。
「STS処理済みの選別したスイートピー50本ずつを1カップに入れて水揚げをするんだよ。」
このカップに50本も入ってしまうんですね!
「一つの枠が200本、それが2枠で例えばこの5の枠が400本。
1-5の枠が前とその奥と2列あるので、全部埋まると4,000本。実は下にもあるので、全て足すとこの部屋でスイートピー20,000本を同時に水揚げできるんだ」
20,000本も!Σ(゚Д゚ υ) ォ!!
この什器は水揚げだけでなく本数を数えるカウンター機能もあったのですね。
20,000本この事務所にあれば相当良い香りに満たされるでしょうに!
「限られたスペースを有効に使うという意味合いが大きいよ。
もう一つの意味は節水。ここは水道水が来ていないので、わが家からタンクに水を入れて持ってくるんだよ。
その方がバケツやプランターに入れて水揚げをするよりも水を節約できるんだ。その分労働力も少なくて済むしね」
えっと、つまりまとめると次のような機能を備えているわけですね。
① 水揚げ
② カウンター
③ 省スペース
④ 節水・省力
⑤ 芳香
あ、⑤はウン探の想像です。木下さんにとっては日常のことで芳香はあまり感じないのだそう。
この水揚げ方法もこれも木下さんのアイデアですし、もちろん自家製です。生産を始めた2000年当初からのものです。
「毎回洗うんだよ。コレで」
とおっしゃった瞬間にどこかでウィーンッ!!!とドリルのようなものが鳴る音。
あれ?この音はどこから?(・ェ・^ )( ^・ェ・)キョロキョロ(・ェ・^ )( ^・ェ・)
木下さんが視界から消えた・・・と思って振り返った瞬間木下さんがそこに!!
ウィーーーーーンと洗浄ドリルを回していらっしゃるではないか!!
きょえーー!これで毎回カップを洗っていらっしゃるのですね!(๑ʘ∆ʘ๑)
「手で洗うの大変なんで^^
できればプランターで水揚げしたいんだよ。ひとつずつ洗うの手がかかるしね。
だけど、スペースと水の都合からこういうやり方をしているんだ。
チョーめんどクサイ(笑)」
木下さんのアイデアが至る所に散りばめられています。
JA岡山西船穂町花き部会・木下良一さまの前編ここまで。 引き続き後編もご覧くださいませ♪
写真・文責:ikuko naito@大田花き花の生活研究所