産地ウンチク探検隊 生産者が語る花に対する熱き思いをご紹介します。

2018年02月07日

vol.121 ㈱クロカワストック様:千葉県 育種・ストック


今回は、2005年にスタートした当コーナー、産地ウンチク探検隊史上初めての品目に迫ります。

その品目こそ「ストック」!!
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初めてなんてナンダカ意外ですが、本当です。

ストックといえばこの方をおいて語ることはできません。
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株式会社クロカワストックの代表取締役黒川幹(くろかわ・みき)さん。

ストックの育成は67品種、更に黒川さんのお父様は65品種、親子二代にわたって130品種以上ものストックをマーケットに作出。業界を牽引される日本が世界に誇る育種家さんです。

黒川さんは育種家さんなので、大田花きへ直接のご出荷はありませんが、少なくとも日本に流通するストックの7割以上の品種は黒川さんの育成品種と試算されます。つまりストックを目にしたことがあれば、それは黒川さんの品種である「可能性大の大」なのです。

ストックの生産者さんは全国にたくさんいらっしゃいますが、生産現場を拝見する前にストック事始めとして育種家のクロカワストックさまにお邪魔したワケでございます。
ここで念のため確認ですが、クロカワストックさまの主なお取引先は種苗会社さんです。
生産者さんたちは、種苗会社を通してクロカワストックさまの種苗をタネの状態で仕入れて、栽培します。つまり図式化すると次の通り。
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さて、クロカワストックさまは館山市伊戸にあります。

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房総半島の突端で太平洋を臨む傾斜地に燦々と降り注ぐ太陽を浴びながら、育種に取り組まれています。
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クロカワストックさまから臨む太平洋。
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クロカワストックさまから臨む太平洋の右手にうっすら見えるのは伊豆大島。産地ウンチク探検隊vol.115でお邪魔致しました。大島ではストックの生産もございます。
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クロカワストックさまは育種圃場400坪、採種圃場1,600坪の合計2,000坪。このほかに、採種用に国内委託生産者さんとご契約されています。



◆タネカラー
さて早速ですがみなさま、ストックのタネをご覧になったことはございますか?
ウン探も含め、初めて目にされる方も多いのでは?

せっかく育種の現場にお邪魔したからには拝見せずにはいられません。ここでお見せしちゃいます!
じゃじゃーん!

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こちらがストックのタネ!

こーーーんなにちっちゃいんですよ。直径1mmから2mm未満。レンズ豆かおせんべいかのような平たい円盤状なのが特徴です。

「面白いことに、タネの色と花色には関連性が見られます」と黒川さん。

タネと花色に関連性??どのような?

「これを見てみてください」


黒川さんはタネ1粒落とさないよう丁寧に袋から白い小皿に出してくださいます。

「白い花をつけるアイアンホワイトは白っぽいタネ。
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アイアンイエローは黄味が強くなる。

淡いパープルのアイアンマリンはほんのり青味が強くなるし、濃い紫のアイアンパープルは、タネ色もさらに濃くなります」

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うんわ~!ホントです!ヽ(*’0’*)ツ ワァオォ!!

「更にはアイアンチェリーとアイアンローズをみると、ちょっと赤味を帯びていますよね」


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なんだかタネの音階(ドレニファソラシド)を拝見しているような気分です。


ここで・・・!

ウン探は感動してしまいました!!号(┳◇┳)泣
タネと花色との関連性ばかりにではなく、このようにウン探に説明してくださるために小皿に品種別にタネを入れて、且つ付箋に品種名まで書いて、また開花した品種サンプルも隣に置いて、すべて用意周到にご準備くださった黒川さんにです!!

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しかも、最初からそこにタネが置かれていたのではなく、植物の不思議について驚きと感激を与えつつ、わかりやすくデモンストレーションを行ってくださったのです!
このような黒川さんのご対応を以って、ウン探はタネの説明をいただいた最初の3分で、育種という仕事の緻密さと繊細さに触れることになりました。

黒川さんはウン探と初対面。どこのだれが取材に来るかもわからない中、(恐らくは)前日から準備を始めて、タネを購入するわけでもない相手に“真摯に”、“紳士に”、且つ“丁寧に”対応してくださる誠実さに、頭の下がる思いでございます。

ひとつの品目をほぼ独占的に育種改良し、世界に認められる育種家になるための天資と素養を垣間見た気持ちでございました。このように黒川さんに初めてお会いして3分で心を打たれてしまったウン探ではございますが、いつまでも感動していると先に進まないので、とりあえず次に行かせていただきます。ハイ。


「タネはこのようにストックの下から花が終わってタネの鞘(さや)ができます」
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「ひとつの鞘におよそ50粒のタネができます」
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とおっしゃりながら、鞘を開いてくださった黒川さん。拝見いたしますと、その中にこのようにタネが並んでいました!!
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目視できるタネを数えてみると・・・1,2,3,4,5・・・
count

あら?ところどころタネがあったのだろうというところはありますが、19粒では50粒には程遠いように思いますが・・・?

「この20-25粒の列が裏にもあります。だからひと鞘50粒。
小さいタネにしてはそんなに多くはありません。
それをこのようなプラグに撒いて、発芽させます」
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ところがッ! ハイ、みなさん、ここまで読み飛ばしていらした方も、ここからはぜひご注目くださいませ。
1つの鞘に約50粒、その50粒すべてから同じ花が咲くわけではないのです!

ええぇぇぇーーーー!
( ゜Д゜;)!?( ゜Д゜;)!?( ゜Д゜;)!?
黒川さん、どういうことですか??

「1本から採れたタネを撒いても、開花してみるとだいたい八重が55%一重が45%なんです
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え??チョッ、ちょっと待ってください、黒川さん。
タネを撒いても、すべて八重が咲くわけではないのですか?(・・?))アレ((?・・)アレレ・・・

はーい、ではここで今回の最大の山場トピック「八重鑑別」についてご紹介いたします。

◆“八重鑑別(やえかんべつ)”

タネを撒いてもすべて八重が咲くわけではないとなると生産者さんはチョット大変です。
なぜなら、ストックは基本的には八重咲きの方が市場評価が高く単価が高いので、生産者さんは(一重ではなく)八重咲きを栽培されることがほとんど。
ですから一生懸命育てて開花したら相対的に市場評価の低い一重でした・・・なんてことになると、非常に生産効率が効率悪いですよね。生産者さんはどうされるのですかσ(・・)??

発芽してから3週間くらいの間に、八重と一重とを判別して、一重の苗は間引いてしまいます
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と説明されつつ、育苗中のトレーがある圃場にご案内くださった黒川さん。
いや、ちょっと待ってσ(゚・゚*)
黒川さん、今、「苗の段階で」とおっしゃいました??

「そうです。
このトレーを見てください。
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これを見て八重と一重を判別します」

これを“八重鑑別”といいます。

いや、でも・・・あ??えー?(‘-‘;A エーット,,アノォ..ソノォ…
何か違いが??
この状態を見て、花の一重か八重かがわかるのですか??

「わかります。
日本の生産者さんの場合は、この時点で丁寧に八重鑑別ができるんです。日本人の気質かもしれませんが。
ここでよく鑑別しておかないと、“咲いてから一重でした”ではロスが出て生産効率が悪くなってしまいます」

なるほどー。出荷するのは八重。一重は出来るだけ早い段階で処理しておく。
いや、でもどうやって見分けるのですか??
全部同じに見えますけど・・・?!o(´^`)o ウー

「じゃあ、ウン探さんだけに教えてあげましょう!」
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お願いします!神様、仏様、黒川様!!(*・人・*) オ・ネ・ガ・イ♪

「この小さな苗を見ると、本葉と子葉があります」
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どれどれ(ΘΘ )ジィー
「この子葉の方で判断します」

はい。わかりました・・・って、えーーー???(゚д゚;) !!
全部同じに見えますが・・・?

「よく見ると、色と形が違います。
八重は子葉の色が淡くて、形が楕円。
一重は色が濃くて、正円により近い」

どれどれ~(◎_-)
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う″~。。。わがんぬぁい・・・( ´△`)ムズカシーーー!!

「そう、この判断がストックの生産過程の中で一つネックでありながら、メイン業務の一つでもあります」
なるほど・・・
いや、ちょっと待ってください。
黒川さんに教えていただきながら、いくつかトレーニングをすると、何となくわかってきたかも。

これは八重ですね?
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「そう、正解です」
やったー!ヽ(^◇^*)/ ワーイ!!


一重が咲く芽の方が、子葉の形が正円に近く緑が濃い。八重の方が楕円で緑が薄い。生長も八重の方が少し早いでしょうか。
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これでウン探読者のみなさまも八重鑑別マイスターですね♪

「一重は40-45%。生産者さんは一重を間引いて、残りの八重55-60%を生かす」
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「精度の高い八重鑑別ができるのは、やはり日本の生産者さん。例えば、この辺りの館山の生産者さんもすごく選別の精度が高いです」

ストックを生産する限り、八重鑑別があらゆる意味において主要なプロセスなのです。


◆タネ採り圃場
いざ、育種の中枢部、タネ採り圃場へご案内いただきました。
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タネ採り圃場内はこんな様子!!

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うんわーーーー☆。。(*∀*。)色鮮やかでメチャメチャキレイなストック畑が眼前に広がります。キラキラストックの宝石箱や~ *+:。.。.。:+* ゚ ゜゚ *+:。.。:+*+゜゜+*:.。.*:+☆
このハッピーカラーに包まれたストック畑を見ているだけでなんだかシアワセ~❤な気分になります(*´∇`*)♪

ん?あら??
いや、ちょっと待って。
あれ、黒川さん、これ全部一重では?(*゚。゚)??
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あれも、これも・・・??
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一重ばかりなのはなぜですか??
「タネは一重から採るからです」

え??
八重のタネを一重のストックから?
一重のストックからタネを採って、育った苗を見て八重と一重に選別して、生産者さんは八重を栽培してご出荷、黒川さんは一重を残してまたタネを採る??

ややこしすぎて混乱中のウン探(@Д@; 

「そういうことです。
ここはタネ採り圃場だから八重鑑別の際に一重だけを残して育てています」
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クロカワストックさまはタネを種苗会社に販売するので、タネが採れる一重だけを圃場に残すわけです。
いかに八重の鑑別というのがストックの育種でも生産でも重要な業務であるかがわかります。

それにしても、ここに広がるこの一面ほぼ間違いなく一重で揃えられるというのは、八重鑑別の精度が相当高いということ。スゴイことですね。
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◆品種紹介!
さて、ここで黒川さんが育種された品種をいくつかご紹介いただきましょう。

代表選手は「アイアン●●●●」という品種。アイアンホワイト、チェリー、マリン、パープル、イエローなど。
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でもどうして「アイアン」と付いているのですか?
「アイアンは鉄(iron)のこと。
このシリーズは茎が鉄のようにしっかりして、立ち姿がきれいなことが特長です」

なるほど、人でいえば、いまどきの言葉で「体幹が鍛えられている」ということですね。茎を触ってみると、確かにアイアンと付かない品種より硬くてしっかりしています!
鋼(はがね)の茎軸を持つストックだからアイアンシリーズ。
大田市場内には「黒川さんがゴルフが好きだから」と思っていらした業界歴の長いおじさまたちも多いと伺いましたが、そうではありません!くれぐれもお間違いのないようお願いしたいと思います。

「アイアンは茎が丈夫な分、水揚げ、花持ちもいいです」

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「これはオールダブル
と指を差されたのは‘アローホワイト’と‘アーリーアローホワイト’。
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オ、オールダブル?(゚ー゚*?)

「オールダブルとは、発芽したときの八重鑑別が不要な性質のこと。
約95%くらいは八重が咲きます」

ええーーー!スゴイ!w( ̄Д ̄;)wワオッ!!
生産業務のボトルネックにもなりえる八重鑑別の必要がないなんて、画期的な品種ですね。
(ほぼ)全て(オール)八重(ダブル)が咲くからオールダブル。
そんな魔法のような品種があるのですね。

う~ん、ではすべての品種がオールダブルだったら生産者さんも八重鑑別の手間がなくて負担が減るのでは?

「そうなのですが、オールダブルは鑑別種と比べると白色の純度が下がってしまいます。遺伝子の関係で」
つまり??
「例えば’アイアンホワイト‘と’アローホワイト’の白の色を比べてみてください」

↓手前のストックがアイアンホワイトで奥がオールダブルのアローホワイト。微妙ですが、白の透明感が違うのです。
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写真ではさらにわかりにくいのですが、実際に太陽光の下で見ると、明らかにアイアンホワイトの方がピュアホワイトに近いことがわかりました。(ウン探が証言します)

八重鑑別をしたアイアンホワイトの方が白の純度が高く、オールダブルのアローホワイトの方がオフホワイトに近い。
でも「よく見ると」ですよ。言われなければ気付かないかもしれませんが、言われれば確かにそうです。

「日本の生産者さんは、八重鑑別をしてでもアイアンホワイトを出荷しています。
その方がバイヤーのみなさんに好まれるから」

そーかぁ。すごいな。マーケットの目の厳しさと、その期待に応えようとご自身の作業負担も顧みず、八重鑑別をしてでもアイアンホワイトを出荷されるという生産者さんのスピリット。
脱帽です。

よく市場で拝見する「カルテット」というのも黒川さんの品種ですか?

「そうです。
スプレータイプのストックにこの名前を付けています」

なんと、ストックのスプレータイプを世に出したのも、黒川さんなのです!
スプレータイプのストックの代名詞ともいえるカルテットシリーズ。カルテットホワイト、チェリー、マリン、イエロー、ピンク、ローズ、レッド、ブルー、ラベンダー、レインボーなどいろいろありますが、どうしてカルテットなのですか?
「カルテットって“四重奏”という意味ですよね。

ストックの主茎のツボミをこうやってピンチすると・・・
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4-5本の分枝がきれいにバランス良く立ってきます。
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四重奏のようにきれいに調和がとれた立ち姿だからカルテットと名付けました」  
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なるほど~!これは確かに1本ながらストックの四重奏が奏でられているようです!

「これは私の父が育種した“雪波”。1990年代の主力品種です。
(↓左が雪波、右がアイアンホワイト)
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見た目で何が違うかわかりますか?」

う~ん、難問σ(゚・゚*)ンー
わかりません。早めに降参\(・_・)/

「葉を見てください」
アイアンの方が葉が上を向いて、全体的に整って立ち姿がきれいですね。

「それに、雪波は葉が大きく、茎の硬さは中くらい。
一方、アイアンホワイトは葉が小さめで、茎が非常に硬く、花房がコンパクトでぎっしり詰まっている。これが大きな差です」


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一見、花姿は変わらないようであっても、実は性質がかなり改良された品種が流通しているのですね。


◆育種圃場拝見! ~育種の方向性は?~
こちらが黒川さんの育種圃場。
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お父上から引き継がれた何十年ものストックの育種の歴史がここに詰まっている秘密の大部屋といった感じでしょうか。

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「大きな面積でいろいろ見ることが大切。突然変異からイイモノが採れることもあります。
交配してから市場にデビューするまではなんと10年かかるので、ちゃんと性質を見極めないといけません」

じゅ、じゅ、10年て、えーΣ(・ω・;)!
そんなに?

1年目、育種目標に適した父親の花粉を、母親の雌しべに交配します。
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すると6月頃にタネができるから播種します。

2年目、どのような性質を持っているかチェックする。
この花はF1といって交配された雑種の1代目。ほとんどすべてが草姿も色も均一な株となります。

3年目、F1から採れたタネを撒いて開花した様子を見る。均一にならずバラバラの性質の花が咲いてくるので、この年に育種目標に合う八重に相当する一重を選抜します」

↓このように八重と一重が咲くので、八重の花を見て良さそうならタネを採るために一重を選ぶということですね。
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4年目、育種ハウスに2-3列に播種。開花状況を確認して固定したかどうかを見る」
本当にどの品種もビシーっとキレイに整列しています。このような緻密なお仕事も特徴や性質、突然変異を見逃さないために重要なのでしょう。
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5-6年目、「これだ!」と思った系統で、例えば色が固定されても、サイズ(長さ)や開花のタイミングが均一でなかったりするので、それを確認。

7年目以降、個体選別したタネをまいて、均一になるまで繰り返す。ばらつきが少なくなってきたら、原種を確保する。

そして最終チェック。サンプルを出荷して種苗会社や生産者さん、マーケットの意見を聞きます」
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市場デビューまでなんと長い道のりなんでしょう!

「まだ終わりではなくて、サンプル出荷と同時にタネが充分に採れるかどうかも確認する必要があります。どんなに良い品種が固定できたとしても、採種量が少なければNGです」

では10年ではきかない品種もあるということですね。気の長いお仕事です。

長い道のりですが、どのようなことを重視しているのか、育成品種の方向性を伺いました。
1. 早生を増やす
「アイアン系の品種は年内出荷が比較的少ないです。昨今の日照不足によって開花が遅れてきているので、今後は育種によってこれをクリアできるといいなと思っています。」

2. 小花の密着度が高い
花序の中で小花同士が密接に付いていること。花丙(かへい;小花の首)が短いこと。
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3. 葉と茎と花序のバランスがいいこと
葉が大きすぎるとバランスがイマイチになる。花穂、茎、葉の調和が取れていることが重要。
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4. 茎が硬くしっかりと締まっていること
“体幹が強いストック”ということですね。
「これがやはり大事。柔らかいと生育中に倒れてしまうことだってありうる。
も硬くてしっかりした茎は、ストックの育種が進化した証」
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5. 草丈は80-90cm程度がベスト
「80-90cmがベストで、最低でも70cmは確保できる品種であることが重要」
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6. 花色が鮮明であること、とりわけ白には強いこだわり
「特に白は混じり気のない純白であることを重視して育種しています。ストックにとって“白の追究”は長期戦のテーマ」
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7. 高い採種性
ヒット品種になった場合でも採種性が低いとニーズに応えることができないので、採種性が高いことは他の条件と並びとても重要なのです。

これらのようなことを見ながら育種を進めていくのです。


◆世界へ
そんなストックですが、黒川さん、タネの販売というのは伸びていると思っていいのでしょうか。

「ストックの出荷量は近年伸び悩んでいるんだ」


こちらのグラフをご覧ください。
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これは1991年から2017年までの大田花きにおけるストック取扱い数量推移です。赤線は推移の傾向値を示した回帰直線です。
91年を起点にすれば伸びているように見えるかもしれません。

しかし、こちらをご覧ください。

こちらは最近10年間に限った場合のデータです。回帰直線を見ると緩やかな減少傾向であることがわかります。
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最近の流通は減少傾向なのに、なぜ採種圃場を拡大されていらっしゃるのですか?

「ここ5年くらいの間に海外の需要が急増しているからです」
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海外ですかぁ・・・(*゚.゚)
例えばどのような国や地域でしょう??

「最大のお客様はコロンビア。ほかの花と一緒にパック商品として北米などで販売されています。
日本で1年1作のところ、コロンビアならその気象条件を生かして4作(4回転)できるんです。ほぼ周年栽培。だから同じ面積ならコロンビアの方が4倍タネが売れています」
なるほど(‘ε’) ホー!!
バラやカーネーション生産で盛んで日本にもたくさんコロンビア産の花が入ってきますが、コロンビアではストックも作っているのですね。

「それに、日本は季節の変わり目などに天候が不安定になります。
残暑が長かったり、逆に秋が早く到来したり。ストックの栽培にとって大切な時期である夏から晩秋にかけての気候は、その年によって全然異なる。

一方、コロンビアは1年中天候も安定しているし、高地なら日照や気温の環境も栽培条件としてばっちり。
ストックのタネもよく売れます」

人気品種の違いもありますか?

「国内も海外も白の取引量が多いですが、国内なら八重鑑別が必要であってもより純白といえるアイアンホワイトが人気。
逆に海外では、オールダブルのアローホワイトが人気です。白は少し濁るけど、八重鑑別が不要で、花のボリュームがありますからね」
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なるほど、国内と海外のマーケットでは要求されるものが異なるのですね。

「日本は白のほかに薄いピンク、薄い紫など、流通時期である早春のイメージのせいか、淡い色の需要が高い。
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一方、海外は白のほかは濃い紫や濃い赤、濃いピンクなど、発色の良いビビッドカラーが特に人気です。
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コロンビアならアイアンパープルが主力品種。このような違いもおもしろいです」
↓アイアンパープル
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「ある種苗会社さんが、海外用のカタログで表紙に使ってくれてから大人気になりました。
それからオールダブルで八重鑑別の必要がないものも人気の秘訣。生産者さんの手間が省けるからです。」

このように、黒川さんのストックは、ここ数年で海外での人気に火が点き、需要が急増しました。
黒川さんにとっては海外は成長マーケットで、あらゆる可能性を感じていらっしゃるようです。


◆先導者の重圧
世界の中でも長年にわたりストックの育種を牽引されていらっしゃる黒川さんに、育種の上で最もご苦労されている点について伺いました。

「品種というのは世に出した瞬間に育種家の手を離れる。
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すると、種苗会社やマーケットからは“次のある??”なんて早速聞かれてしまう。
だから少しでもいいものを絞り出そうとするわけですが、もちろんそう簡単には新しいものは生まれません。

例えば、育種の初期段階では改善ポイントや課題が見えるので、1年1年やっていくうちに改良に向かっている実感がありますが、ストックは品目として成熟段階に入ってきて、伸びしろが少ない。画期的な品種が生まれにくいということなんです。
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ストックのあらゆる点は、随分改良してきました。品目として完全になったと言っているわけではないけれども、伸びしろが少ない分、生みの苦しみが大きいのも実情です。

20年、30年、育種に時間がかかる分、どのような品種が喜ばれるか、新品種の創出も慎重になります。その間はずっと生みの苦しみが続く。 最終的には高い育種技術が必要とされるし、それでも尚、簡単にタネが採れるわけではない」

コロコロと変わるマーケットニーズを見据えながら、時間のかかる育種と対峙するのは、足元を確認しながら出口の見えないトンネルをひたすら歩み続けるような苦しさに似ているでしょうか。成熟期を迎えた品目の育種家としての苦悩を垣間見ることができます。  




◆クロカワストックさまの格言!◆ koduti

・ストックといえば通常八重!しかし、実は八重も一重のストックから採種される!一重があるから八重がある!

・黒川さんの功績と生産者さんのご尽力を以って、ひょっとして日本のストックは世界一純白?そんなまぶしいほど美しいストックを惜しみなく使える喜びを享受せよ!
八重鑑別の精度なら日本の生産者さんは世界随一。大変な手間も厭わずニーズに合った品種をご出荷くださる生産者さんにも改めて感謝。

・“アイアンシリーズ”は茎が鉄のように丈夫だから“アイアン!”
指で茎を軽く挟んでみるとわかります!
“アイアン”の理由は黒川さんがゴルフ好きだからちゃいますよー。

・ストックの育種は1品種10年以上!目の前にあるストックと当然と思うこと勿れ!

・世界のストックはクロカワストックさまに通じる!

 黒川さんのストック品種が世界のストックマーケットを席巻中!

・ストック(STOCK)とは?
Superior Technology Of stock breeding Created by Mr.Kurokawa
by ウン探
 

更に詳しくストック育種の歴史を学びたい方は、『花の品種改良の日本史』(柴田道夫先生編;悠書館)をご覧ください。
book219
355ページから黒川さんがストックの育種の歴史について詳細を著しています。


ちなみに、大変僭越ながら、こちらの本のオススメコラムを日本農業新聞でウン探が担当させていただきました♪
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こんなところにもご縁があるもので嬉しく思いました。(“無理にご縁を感じているだけでは?”という声も聞こえてきそうですが、馬耳東風ということで聞こえないふり~|( ̄3 ̄)|キコエマシェーン)

知られざるストックの採種方法、独特な性質・難しさ、将来性など、たくさんの驚きがあったストックの育種現場。
マーケットシェアはほぼ独占状態ながらも、常にニーズに応えようとご尽力される黒川さんのような育種家・篤農家は日本の至宝と感じながら、夕日を背に帰路に着いたウンチク探検隊なのでした。



【コラム】(お)名前の由来について“ストック”ד黒川幹さま”編

1. “ストック”の名前はどこから?
ストックの和名をアラセイトウ(紫羅欄花)と言いますが、アラセイトウは元々英語圏でジリフラワー(gillyflower; “丁子のような匂いのする草”の意味)と呼ばれていました。
実は、そのジリフラワーも昔はセキチク(カーネーションの先祖)を指しましたが、のちにニオイアラセイトウとアラセイトウにも使われるようになりました。

そこで、この3つの花を区別するため、
・「丁子のような香りのするセキチク」を「ジリフラワー」
・「ニオイアラセイトウ」を「壁のジリフラワー」
・「アラセイトウ」を「ストック・ジリフラワー」
と呼ぶようになりました。

ストック(stock)には「幹」や「茎」という意味があり、ジリフラワーの種類の中でも茎が丈夫なグループをストック・ジリフラワーと呼んだというわけです。次第にジリフラワーが取れてストックと呼ばれるようになりました。
そこで気付きました^^!
黒川様が育成されたストックの中でも茎の強いアイアン系のストックは、本来のストックの特徴を強化したストックの王道を行く品種といえるでしょう。the King of Kingsならぬ、
まさにthe Stock of Stocksなのですね!
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2. 黒川幹さんのお名前について
“stock”について調べているうちに、英語でstockといえばその意味のひとつに「幹」があることに気付きました。
黒川さん、もしかしてご両親が我が子のようにこよなく愛されるストックにちなみ、幹さまと命名されたのでしょうか??

「私の名前の由来は、“枝ではなく木の幹のように中心的な人間になってほしい”という希望からと聞いております」

さようでございましたか。

「“stock”が『幹』の意味を持つことは、私も中学生以降に辞書で調べて偶然知りました。私の名前と関わっている花が同じであることは、偶然だと思っております」

まさにストックの申し子ともいえる黒川さん。もし“stock”の意味が持つ“幹”からの命名なのかもと勝手ながら思ってしまったのですが、偶然でいらっしゃいましたか。いえ、もしかするとこの偶然も必然なのかもしれません。黒川さんとストックとの深いご縁といいましょうか、運命的な巡り合わせを感じました。
しかし、偶然であろうと必然であろうと、黒川さんがストックの育種開発において重要な役割を果たしていらっしゃることに変わりありません。ご両親の願いの通り、世界のストックの主幹を担う黒川幹さんなのでした。


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写真・文責:ikuko naito@大田花き花の生活研究所