産地ウンチク探検隊 生産者が語る花に対する熱き思いをご紹介します。

2023年05月08日

Vol.139 うず潮洋蘭園様&佐藤蘭園様:徳島県 切花シンビジウム/パフィオペディルム


徳島名物といえば、阿波踊りに鳴門海峡の渦潮にお遍路さん。
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そして、包丁研ぎ200円!やッスΣ(OωO )ッ!?
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アイヤ、これは徳島名物ではありませんでした。

それらに加えて、花業界であればなんといってもこの品目が有名です。

それは・・・

シンビジウム!
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こちらをご覧ください。これは2022年度大田花きにおける切花シンビジウムの県別取扱い本数を示したものです。
徳島のシンビジウム、すごいでしょ‧˚₊*̥(∗︎*⁰͈꒨⁰͈)‧˚₊*̥ ナンバーワンです。
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しかもー、シンビジウムの出荷はこんな風に12月にほぼ一極集中しているなか↓
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徳島県のシンビジウムは、母の日前後の5-6月に焦点を当てて出荷し、この時期の国内出荷シェアナンバーワン!
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なんで?
シンビジウムといえば、夏場に避暑対策として標高の高い地域に山上げをして、秋に下ろして12月にドドーンと出荷するのが国内産地の定石。夏場の暑いときは輸入頼み的なところがりますが、徳島県のシンビジウムは4-6月にも出荷できる。特に6月の出荷データを見ますと、輸入と二強を張っているではありませんか!
おそるべし徳島シンビ。なんで?そしてどうやって??
今回はその秘密に迫りました。

徳島阿波おどり空港から車でおよそ1時間のところにある小松島市。海沿いの爽やかな風が吹く、とても気持ちが良いところ。ここにシンビジウムで名高い「うず潮洋蘭園」さまがあります。
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うず潮洋蘭園代表取締役の小脇充普(こわき・みつひろ)さん
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■基本情報:うず潮洋蘭園さま
生産品目:シンビジウム(切花)
生産面積:ハウス延べ面積 約9反(約9,000平方メートル)
     全部で24棟
出荷本数:目標めやす年間15万本
労働力:小脇さんとご両親、パートさん常勤3人、臨時雇用
シンビジウムの原産地:東南アジアの標高の高い所
小脇さんち月別出荷推移↓2022年度大田花き
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出荷箱の様子
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年間ピークは確かに12月ですが、5-6月においても尚こんなにご出荷くださっている。シンビジウムの全体出荷量の動きとまあまあ違うことがお分かりいただけると思います。
いや、それにしても小脇さんちの圃場、大きいですね。すごッ(⊙⊙;)/
この中央に走る道は、小脇さんちの私道↓ IMG_1043
道を挟んで右側にハウス、左側に出荷場があります。

何を隠そう、小脇さんはざっくりと20年ほど前、大田花きの従業員として同じ事務所で仕事させていただいた同僚でした。ひょろーッと背が高くて優しいお兄さんに見ていましたが、まさかこんなにすごいおうちの御曹司だったとは!しかも、全国屈指の大産地の社長さんになられて頼もしい雰囲気がにじみ出ています。

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「開墾したのは曾祖父の時代。開墾するのに苦心して、病院に行くお金もなかったと言っていたくらい。
開墾を生かしてビジネスの才を発揮したのは、私の祖父。シンビジウムの前にミカンを作っていたんだけど、その時は日本経済も成長基調で、ミカンもよく売れて、小松島市内の高額納税者にカウントされたらしいよ」

やはりね。どうりで圃場が大きいと思いました。
ミカンからシンビジウムに転作されたのは、小脇さんのお父様。初代うず潮洋蘭園代表さんです。後ろ姿のこちらのお方↓
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「昭和40年代シンビジウムは1鉢10万円していたらしいよ(笑)
英国から数十鉢ほど持ってきた友だちが徳島県内にいて、その方から3鉢もらい受けたところがスタート」

3鉢から!
「当時はまだメリクロン(組織培養)の技術がなくて、父は地道に生産に勤しんだみたいだよ。大田花きから実家に戻った私は、設備投資を重視して、より信頼性の高い品質で出荷できるよう、生産環境を整えることを重視してやってきたんだ」
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そう、シンビジウムの生産にはお金がかかるのです。さすがのウン探もその投資額の単位に驚愕!
小脇さんが就農して、うず潮洋蘭園シンビジウム生産革命を起こすべく、最初の4-5年で設備投資2,000万円くらい(維持管理費を除く) Σ( ˙꒳˙ ;)ビク!

「毎年毎年が投資にお金とられて、生活大変やったくらい。最近やっと5-6月にきれいに咲くようになってきたよ」
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例えば、どんなことにお金をかけたのでしょうか。
・シンビジウムの頭上灌水をしていたところ、株元に点滴潅水型設備を導入
→花に水滴が付かないため、品質向上に直結。株元潅水トータル300万円Σ(OωO )
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↑こういう感じ。以前は株の上から頭上灌水だったのを、株本に直接潅水するシステムに変更。

・ハウス内の湿度は厳禁!ハウス内の循環扇やハウス内の湿度を外に逃がす換気扇を充分に設置して風通しを改善。
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→業務用の循環扇1台およそ10万円✕50台ほど設置Σ(OωO )、トータルで500万円くらい

→こちらが換気扇。こちらもお高くで1台30万円くらい。
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↑こういう感じでめちゃおっきいのを1棟に幾つも設置しています。

・ハウス内の湿度は厳禁。水はけが悪いと湿度が高くなってしまうので、谷底にあるハウスはユンボを使って排水改善

・年間水道代(約100万円)がかさむので、井戸水が出ないかと井戸掘りでウン百万円

・その他諸々×諸々・・・

「お金はかかったけど、これをやって花シミが激減した。製品率が高くなったよ」
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シンビジウムは潅水が重要だけど、湿度が高いのは苦手なんですね。なんだか矛盾しているようで矛盾していない。


■シンビジウムは水がポイント
こちらが圃場全体にポンプを使って水をいきわたらせる水槽。本邦初公開。

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特別にタンクを見せていただきました。こんな風に足場にのらせていただいて・・・
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ギュインと背伸びをして見せていただきますと、こんな感じ!

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「水深3メートルくらいだよ」
うわー、落ちたらアタシャ確実に溺れるわ~(´・ᴗ・`;)

「240立米(リューベ)あるんだよ」

標準的な25メートルプールが約600立米くらいらしいので、プールの40%くらいがここに入っているというわけですね。

「夏場はこのタンクが1日で空になる」

1日で使い果たしちゃうのですかヽ(◎Д◎)なぬッ!!!

「雨がふればタンクに水が貯まるけど、雨が降らなければ水道代は毎日毎日2万円パタパタと飛んでいくんだ」

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うんわ~、全然知らなんだ~。シンビジウムの生産ってそんなにお金のかかることだったのですね。
水が好きで、1日240立米を飲み干すというのに、湿度が高いのは厳禁。顔に水が当たるのも、湿度が高いのもNG。シンビジウムは「注文の多い料理店」ならぬ、「注文の多い花生産」で大変ですな(•́ו̀ ; )

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湿度コントロールは、そこでこのぞろりならんだ循環扇の設置で強化しています。
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「気温も40度以上になってしまうといけないからね、温度センサーを設置して15分おきにラインに温度の履歴が届くようにしているんだ。それでも気づかないと致命的だから、警報機を付けて40度オーバーでBEEEEP!!と高温警報なるようにしています」


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↑このように、小脇さんのラインに15分おきに温度記録が届く。
少人数で広い面積を管理されていますから、このような仕組みがマストなんですね。でも、湿度を管理する必要があるのに、温度だけでいいのですか?

「40度超えるということは、換気扇が止まっている可能性があるんだよ。
農業資材は何でも高価だよね。この循環扇も高いから、通常は寿命ギリギリまで使うでしょ。寿命が尽きて止まってしまう可能性もある。止まるということは漏電していることもあるからね。それに気づかないでいると、1棟丸ごとシンビジウムがあっという間にダメになってしまう。この高温警報は生命線ともいえる重要なシステムなんだ」
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というお話を伺いつつ、小脇さんの背中を追って後についていきますと・・・
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あいや、ちょっと待って。こんな花き生産ハウス、見たことないんですど・・・岩の上に建っているハウス。
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もはやまるで空中ハウスですよ、コレ。
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よくこんなふうにハウスを作り上げて、すごいことですね。

「空中ハウスを作ったのは父です。ハウスの基礎的なところは父が作ったんだ」
おまけに、こちらをご覧ください!!
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身長180cmの小脇さんがちっちゃく見える~!
ん?
が、がけ崩れおこしとるやないかーい!!ナンダッテー!=͟͟͞͞(꒪ᗜ꒪ ‧̣̥̇) アウッ!!

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巨大な岩が剥がれ落ちてハウスを直撃。
「人が下にいたら確実に生命の危機に直面していただろうね。もうここまで岩が大きいとのけるにのけられないんです」
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じゃあ、このまま?

「一部潰れているけど、態勢に影響ないので現状維持」


はい、ではここからが本題。これまでも本題。

■5-6月に暑い徳島からたくさん出荷できる理由は?
通常、シンビジウム自体、季咲きは2月か3月。それを早めて年末に咲かせて出荷するか、遅れさせるか出荷のどちらかが出荷者さまの選択肢。一般的には暖房を焚いて、年末の大きな需要を狙って12月に出荷するのが定石。(冒頭グラフご参照)
もちろん小脇さんも半分くらいは12月を狙って出荷されています。
でも、ほとんどのシンビ生産者さんが出荷をやめる5-6月にも出荷できるのはどのような秘密が隠されているのでしょうか。

「このエリザベスという品種がポイントなんだ」
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エリザベス??(´・ω・)?(・ω・`)??
エリザベスとは、このピンク色の素敵なシンビジウムの品種名です。



「この品種の季咲きは3-4月。山上げをせずに3月下旬から加温をして、4月から母の日を挟み6月くらいまで出荷できるように開花調整しているんだ」
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ほかの品種ではそれが難しいのですか?
「通常4-5月まで咲かせて出荷していると、翌年花をつけるはずバルブの成長が遅くなって、翌年の出荷の出荷に間に合わなくなってしまうんだ。すると2年に1回しか開花しなくなってしまうでしょ。そうなるとかなり生産効率が悪いよね。だけど、エリザベス(及びハスキーハニー)だけは6月まで出荷しても翌年また順調に花芽が付く。つまり毎年出荷できる。
そのような品種特性を生かして、ほかの産地の出荷が終わる5月にあえてエリザベスをたくさん生産しているんだ」
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なるほど、5-6月に栽培コントロールで出荷できる品種を選んでいるということですね。
ではエリザベスに似たような性質のものをもっと育種したらいいのでは?
「それがすぐにはうまくいかないかないものなんだ。
例えばシンビジウムの種苗会社とすれば、切花よりもバルブごと販売する鉢物商品の方が回転がいいから、どちらかといえば鉢物品種開発に力を入れるよね。そうなるとなかなか切花のシンビジウムの育種は後ろ手に回るから新品種誕生は期待しづらい。そこでわたしの父も自らエリザベスに次ぐ春用の品種の開発を手掛けてみたけど、なかなか難しかったみたい」

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なるほど、シンビジウムという品目の構造的な問題、および生理的な性質がボトルネックとなっているのですね。
そもそもなぜ5-6月を目指して出荷されているのですか?
「わたしが就農した約20年前、5月後半から6月のシンビジウムの平均単価が品薄だったせいもあり、卸値で1本1,000円と異様に高かったんだ。しかも、ほとんど輸入で、数量的にマーケットのニーズを満たしていないと思ったんだよ。そこで、この時期に出荷できる品種にチャレンジした。いろいろやってみたけど、安定的に出荷できるのは結果的にエリザベスだけだったってわけ」

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なるほど、他産地が出荷しない時期にあえて出荷して、ナンバーワンを取るという産地ブランド戦略!
エリザベスがあってこその戦略ですし、この時期に女王として君臨するにふさわしい性質を持った品種ですね。恐らくエリザベスという名前も英国女王に因んでつけられたのだと思いますが、英国女王エリザベス二世のように、長きにわたり活躍する品種となりますよう期待します。Long live the Queen!ですね。
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ついでにいまはうず潮洋蘭園さまから出荷される染め品種も人気。 英国のロイヤルブルーを思わせる深くて美しい「ブルー」
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パントン発表のトレンドカラー“ビバマゼンタ”を思わせる「ルビー」などがあります。
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※念のため補足※
説明される小脇さんの横に映り込む、この黒い車輪のようなヨーヨーのようなものはナニ?と思われた方へ。
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産地ウンチク探検隊で過去に取材させていただいた生産者さまのところでご紹介させていただいていますが、切花シンビジウム特集はだいぶ久しぶりなので念のため補足いたします。花首にフックをかけて上から通称「ヨーヨー」で吊っているのは、茎がまっすぐに生長するよう誘引するためのものです。
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このような光景は↓切花シンビジウムの生産者さまのところでは定番なのです。
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■ダイナマイトで開拓した圃場?
小脇産地の圃場の礎としてある、この城壁を思わせる石づくりの壁をご覧ください!身長180cmの小脇さんが立つとこんな感じ!
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この辺りの土地を開墾するときに削り出した石を積んでいるようです。
「ダイナマイトを使って開墾したらしいよ」

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ダ、ダイナマイト!?(o;TωT)o” ビクッ!
なんだか日ごろ私たちの生活とはなかなか接点がないような響きですが・・・
「だよね。でも私が小さいころは、錠前がかかった倉庫があって、たいそうな宝物が入っているのだろうと子供心に思ったものだったけど、そこでダイナマイトを管理していたんだよね。もちろん資格と許可をとってですよ。曾祖父はミカン畑づくりのためにだいぶ頑張ったみたいで、地域のみなが石碑を作ってくれたんだ」

せ、石碑!?
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ほんまや。圃場の入り口に石碑建っとるやないかい~!
裏面を見ると、功績と石碑を建てた面々のお名前が書いてあります。
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拝見しますと、「多くの困難を克服して、現在の隆盛の礎を築いた」とあります。「町議会員や民生議員をして福祉の重任を全うし、その徳は柑橘業界の隆盛とともに永遠に御恩がある云々~」地元の人望を集め功績を作った立派なひいおじい様だったのですね。
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「ここに名前のある地域の人が石碑を建ててくださったんやなぁ~」
と感慨深そうにお話しされる小脇さん。
このように先代が築き上げた礎の上に、小脇さんが現代農業に見合った投資を行い、消費も生産も減少する中、産地ブランド化を図っていたのですね。
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うず潮洋蘭園様からのご出荷品種一例
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品種名:ブラックシャワー
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品種名:トワイライト
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さて、もう1軒お訪ねしたのは、もう少し標高の高いところでシンビジウムを生産されている佐藤蘭園の佐藤重樹(さとう・しげき)さん
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佐藤さんは俳優さんのように身長もお高く、誰もが認めるイケメンでいらっしゃるのですが、ご本人曰く「魂を抜かれるので」という大変プライベートなご事情により、ズームのばっちりショットはナシ。引きぎみのショットや横顔、後ろ姿などからその雰囲気をご想像いただけますと幸いです。


■佐藤蘭園様 基本情報
所在地:徳島県名西郡神山町
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標高:約190メートル
生産品目:シンビジウム9割、パフィオペディルム(以下「パフィオ」)1割
生産面積;約6反=6,000平米
労働力:約2.5-3人(佐藤さんとお母様を含む)


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出荷箱の様子
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標高190メートルというと、山の中というほど標高が高いわけではありませんが、車を降りるとやはり少しひんやり。小脇さんのところとは標高が異なることが分かります。
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こちらは佐藤さんのお母さま。明るいお方でご挨拶を一言交わしただけで元気をいただけるようです!佐藤蘭園さまでは出荷作業の戦力です。
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佐藤さんのところでもやはり、小脇さんと同様に、シンビジウムの多い12月のレッドオーシャンに突入していくのではなく、地の利を生かした生産をされているのが特徴です。
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「シンビジウムの出荷は、いかに売れる12月に押し込むかを全国の生産者さんが競うように行っている。 うちは平地より一段気温も低いので、12月に合わせて暖房を焚いて促成栽培するには経費が掛かりすぎるんだ。ほかの生産地と競うのは、ディスアドバンテージが大きすぎる」
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それなら、むしろこのこの環境を生かして、棲み分けができないかと考え、徳島県内でリレー出荷を計画。11月から出荷が始まる切花シンビジウムでは、佐藤さんがアンカーです。
アンカー重要。なぜなら、一般的に品目によってはその生産地の季節の終盤では品質が落ちやすいとされているからです。「端境期は生産地の見極めが重要」なのです。しかし、徳島のシンビジウムは佐藤さんがいらっしゃるから大丈夫!!
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こちらの品種は「愛子さま」。今上天皇のお嬢様である愛子さまのお誕生に因んで付けられた品種名だったかと記憶しております。
愛子さまの微笑とともに上品な淡いピンクの頬を思わせる、とても素敵な品種ですね。
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佐藤さんをアンカーとして、徳島県内の標高差、気象条件の差を生かして、愛子さまが半年以上もリレー出荷されるのです。お陰で最後まで品質が落ちることがありません。信頼の徳島シンビジウムです!
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重責を担う佐藤さんが最も心を砕くのは病気と害虫(ダニ、青虫など)の防除です。
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「シンビジウムの株は意外と強く、病気になっても即枯れるわけではない。
それがまた困ったもので、病気を持ったままどんどん周りの株に蔓延させてしまう。これをいかに抑えるかということがポイント」

1鉢ずつ独立していても、蔓延してしまうのですか?
↓ほかの切花と異なり、通常、このように1鉢ずつで管理しています。
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「潅水したときなど水しぶきがお互い飛ぶでしょう。そういうタイミングで蔓延してしまうんだ」
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そして虫でもウイルスでも小さい方が厄介。大きい方が対処しやすい。

Size5★例えばアオムシやヨトウムシは、植物に害を与える範囲はそのムシがいるところだけ。食害だけだよね。アオムシを除去すれば、それで終了する。

Size4★さらに小さくなると、例えばアブラムシがある。アブラムシが広がっていくと、葉から栄養を吸われていく。

Size3★さらに小さくなるとカイガラムシやダニがいる。それが葉につくとかなり厄介。これらも葉から栄養を吸い上げ、成長を阻害してしまう。
でもムシの被害はそこまで。

Size2★そこからさらに小さくなると、今度は細菌になる。つまり病気。病気にかかったら生育も悪くなるし、株も腐っていく。現実問題として、そのあたりが一番手を焼くところかな。

Size1★さらに小さくなるとウイルスがいるよね。もうこれに罹患したら、さようならです(´;ω;`)
処分するしか対策はなくなる。治療はないので、元には戻らないので、捨てるしかないんだ。
だから事前に防除して罹患しないようにするしかない。」

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さらに厄介なのは、Size1-2の小さめサイズに罹患した場合でも、株は一見大丈夫そうに見えて気づきにくいのだとか。
株立ちが悪かったり、ひょっとすると病気にかかっていることに気づかずに処置が遅れてしまったりすることが問題で、慢性的に花立ちが悪くなったりして、結果的に経営を圧迫することになってしまうのです!コワイヨ(꒪⌑꒪.)‎!!!
おぞろじぃ~(;´◦ω◦`;)
小さいものほど厄介、目に見えないものはさらに厄介というわけです。

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そして、佐藤さんは日照量が少ないハウスでは、生産品目をシンビジウムからパフィオに転換しています。
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「基本はシンビジウム生産。だけど、このハウスは南側が山で、日照を遮られたこの場所で何ができるかを考えたらパフィオだった。シンビジウムの生産はできない」

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こちらがパフィオの圃場。確かに、入ってみると日陰でさらにひんやり。
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それにしてもご覧ください、この一面のパフィオ。うお~、パフィオがここまで揃うと圧巻です!
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「基本シンビジウムなんだけど、シンビジウムには極めて条件が適さない圃場、例えば日照量が不足しているところとか、湿度が滞りやすい所とか、そういう場所を有効活用するためにパフィオを導入しているんだよ」

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↓み~んなこちらを向いて、圧巻の光景を構成しているのは「ストライプ」という品種。
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恐らく、その名の由来はストライプ模様が印象だから、かな?
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「適した品目品種を、適した場所で、適した時期に出荷するのが一番。気温も低く日照量も少ない圃場で促成栽培は経費が掛かりすぎるんだ。適地適作こそSDGsに繋がる農業だよね。景気が良くて売れるときは、限界農業でいけるところまでどんどん圃場を拡大してしまうでしょ。でもそれだと限られた人材では手が回らなくなってしまう。継続ということが難しいんだ」

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佐藤さん&小脇さん曰く、通常1人1.5反が管理できる圃場範囲の最大値。佐藤さんの生産面積を鑑みるに6反を2.5人ですから、通常の2倍の広さを1人が担当していることになります。かなり少人数で広い範囲をカバーされて、日々ご無理が重なっていらっしゃることが想像されます。

「ところが台風で減反してむしろ手が回るようになった。今の目標は現状維持をいかに確保するか。拡大云々よりも、いかに継続的な農業を実現するかということだね」

こちらをご覧ください。
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巨大な草食恐竜のあばら骨のようにむき出しになった鉄骨は、昨年の台風被害によって被害を受けたハウスの残骸。それまであのハウスでパフィオを栽培していましたが、もうはや修繕せずに、恐竜博ばりに一応展示したままに。
「台風の遺産は修繕せずに、片づけるだけ」
台風でハウスが倒壊し、7反→6反に減反しましたが、修繕予定はありません。直しても生産面積が大きすぎてもはや手が回らないからだとおっしゃいます。
そんな佐藤さんの10年後の目標は?

一言でいえばSDGs。 永続的な農業生産の実現ということかな。適地適作、出荷期も出荷面積も、出荷品目もすべてにおいて、ベストパフォーマンスを出せる選択を行うということ。日本は100年以上継続している企業が最も多いらしいね。日本には創業1000年を超えた企業が9社ほどあるのだとか。
うちも今すでに50年以上継続しているし、小脇さんも55年以上でしょ。仲間内で3代以上シンビジウム生産が続いているところがあって、そこはそろそろシンビジウム生産で60年経つ。100年経ったころでも尚、徳島がシンビジウム一大産地であることを目指したい」
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すばらしいことでございます!よくサステイナブルな農業を目指すといいますか、日本には「継続は力なり」という慣用句があるように、既に継続することが素晴らしい成果をもたらすことを知っていて、そのスピリットが刷り込まれているように思います。ウンチク探検隊コーナーもその精神に則って、継続に努めねば!

徳島がシンビジウムが一大産地として、日本の花き産業の形成に大きく携わっていることが伝われば幸いです。

品種名:レジェンド
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品種名:アリスロマン
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★徳島県シンビジウム うず潮洋蘭園さま&佐藤蘭園様の格言
・シンビジウムの品種特性を生かして、他産地が出荷しない時期を狙って出荷せよ。

・特定のセグメント(部分)で一位になることで、産地ブランドを高めよ。
 徳島の場合は、国産がほとんどない5-6月をあえて取りに行き、シェアナンバーワンの地位を確立。でも徳島は、全体でも切花シンビジウムの大産地なのでした!

・適した品目品種を、適した場所で、適した時期に出荷して、ベストパフォーマンス発揮せよ。
 促成栽培は経費がべらぼーにかかるからね。レッドオーシャンに突っ込んで競争するの大変だし。

・100年後も一大産地であるよう継続的な農業を実現せよ。


★おまけ 佐藤さんのご出荷場を出たすぐ目の前に所に苔むした石垣が。
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あまりにも情緒があり、素敵だったので思わず立ち止まって、石垣の前にしばし佇んでしまいました。
すると、
「なんでそんなもん見とるん?」
と佐藤さん。
なんだか雰囲気あって素敵だなと思いまして・・・
「それはわたしの父が積んでいった石垣だよ。わたしも手伝ったけどね!」

えっ?佐藤さんのお父様が積んだ石垣?ご苦労の賜物だったのですね。とてもきれいに、かつ丁寧に積まれたことが伝わってきます。
「ついでにこちらも」
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ぎょえー!どうやって??これまた半端ない高さと広さですが・・・
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「がけ崩れせんように山を開拓して、ハウスを建てるためには、こうやって石垣を作る作業がマストなんだよ」

そういえば、小脇さんのところもすんごい大きい石で、城壁を思わせるような石垣ができていましたもんね。
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私たちは完成した生産圃場を拝見するのみですが、山を開拓して生産圃場をゼロから創り上げるというのは、地面にハウスと畝を作るだけではなく、人知れず並々ならぬご苦労があるのですね。その一部を垣間見た気がいたしました。


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文責・写真:ないとういくこ@大田花き花の生活研究所