社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2023年08月07日

8月お盆に突入。暑いから小売では良いものを割安に提供して欲しい


 8月に入り、いよいよお盆の需要期だ。団塊ジュニア世代を中心に久しぶりの里帰りで、お孫さんと会うのを楽しみにしているおじいちゃん、おばあちゃんも多いことだろう。コロナが5類感染症に移行した今夏、4年ぶりに地方の花市場も、専門店も、スーパーの花売り場もしっかり品揃えをしようと考えている。本年はこの暑さから、暑さに強い菊類が多く使われるだろう。ただ、8月6日の広島・平和記念式典の映像を拝見すると、設置されていた花輪は菊で作られたものだったが、一般の方々の献花は、トルコギキョウやユリ等、多岐にわたっていた。暑いのもあって例年通りの菊類中心の相場展開にはなっているが、「誰が買うか」、その主体は団塊世代ではなく、団塊ジュニアに移っている。

 昨年は早い梅雨明け宣言で(実際は7月20日過ぎだったが)、菊類をはじめお盆商材のダメージが大きく、予定していた出荷量の80%しか出荷出来ないものも多かったため相場が高騰した。また、暑さのため開花が遅れて、需要期に間に合わなかったのも高値の要因だった。一方、本年は大雨と暑さで品質は今一つ、需要も暑さで減退した。しかも「前進開花に高値無し」で、お代わりする前にお代わりが来てしまうから価格は昨年と比べてかなり安くなっている。このような市況展開が、本年の8月上旬に展開されている。更にここにきて台風が来襲し、沖縄・沖永良部のような“花の島”からも荷が届かない。そうでなくても生産者は苦労しながら良い花を生産されているのに、生活者へ届けられない現状が出てきているのだ。そして、市況は去年よりも一割、地域によっては二割安い。このような展開の中、小売では、本年は11日、12日、お盆需要に入る。生活者がお墓参りをしたり、ご仏壇に花を供えたり、おじいちゃん、おばあちゃんのいる家で一緒に食事をしたりして過ごすお盆。一家団欒の時に花が役立ってもらえれば良いと思う。

 以前このコラムでも、実質値上げではなく、小売価格を上げないで花束の入り数を少なくすることをやめてもらいたいとお話した。しかし、やはりそういったお盆商戦を行う量販店があるようだ。町の花屋さんも美容室も、色々なところが値上げをしても、それを受け入れてくれる環境になりつつあるのに残念なことだ。私は大森の町工場の方々と付き合いがあるが、彼らが異口同音に言っているのは、「値上げを認めてくれる大手企業が多くなってきた」ことだ。「これで賃上げが出来る。次のことを考えれば、若い人を採ってもっと良い工場にしたい」。こういう人たちが殆どだ。お付き合いのある町工場は大きいところで社員100人規模、20人から50人くらいのところは中堅だ。ここが完全に次のステップに移行した。物価が上がる中で、賃金を上げてもまだ上げ幅が足りず、実質所得は1%ほど下がっているらしい。しかしこれからインフレを追い越して実質賃金がプラスになる感触を、私は町工場の友人から、そして花き専門店からも感じている。今は過渡期。それなのに、実質小売価格の値上げではなく、入り本数を減らして小売価格を変えないお盆商戦をしようとしているスーパーがあるのが残念だ。来年はもっと早いうちから働きかけて、割高なものではなく、「価値あるものを割安に(納得感を持って)生活者に提供する」ことで、量販店の花売り場も勝負してもらうようにお願いしていきたい。

 今年のお盆商戦は天候に振り回され、夏休みを取られている人たちも楽しみが半減しているのかもしれない。その中でも、生産地、運送店、市場(卸・仲卸)、花束加工業者、そして専門店、あるいは量販店それぞれが、良いものを見極めて家庭で一週間もつ花を届けようと努力している。その努力は必ず生活者に賞賛をもって迎えられると確信している。そして、売上よりももっと大切なことは、購入してくれた生活者の期待を裏切らないことだ。「花を買って良かった」と思ってもらえることだ。これを実現させるぞ!と業界みんなで思いながら、でも、「去年よりも売上げが少なかったら困るなぁ」とぼやきながらも、一生懸命みんな働いている。


 投稿者 磯村信夫  13:47