社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2024年03月04日

経済動向によって花の消費は左右されるが、緑産業の基調はフォローの風が吹いている。


 昨日は桃の節句だったが、個人経営の専門店も、チェーン展開している専門店もよく売れていた。一方、量販店では、売れていた店と売れていない店の二通りあった。物価が上り可処分所得は増えていないため、嗜好性のある花はどうしても、家庭需要の中では後回しになってしまう。スーパーの花売り場では昨年9月、一割ほど売価を値上げした。しかし、売れ行きが芳しくなかったため、花束の本数を一本削って売価を戻したところがあった。ステルス値上げ感が出てしまったのかもしれない。そうは言っても、ひなあられや苺と同じように、花桃はひな祭りで欠かせない。ちょっと贅沢な気持ちになった時に、消費者は専門店に買いに行くようだ。

 先週、新聞に掲載されていた「主な国・地域の国民総所得(GNI)」でトップに名前を連ねていたノルウェー、スイスは、「一人当たりの花の消費金額」でも上位に位置している。日本も今春、大手企業だけでなく中小企業も賃上げを実施して生活者の手取りを増やし、値上げしても商品を今まで通り購入出来る・サービスが受けられるようにしなければならない。懐具合が良くなって経済が成長したと思える循環を行っていければ、花も自然と消費がついてくると思われる。その証拠に、都心の新しい街づくりでは、バイオフィリックデザインが注目されている。バイオフィリックデザインとは、人間は自然を好み、自然に触れることで健康や幸せが得られるとする概念だ。東京では森ビルが虎ノ門ヒルズに続き、麻布台ヒルズを新たに開発する等、大規模開発が行われて新しい町が誕生している。超高層ビルが話題になりがちだが、森ビルはバイオフィリックデザインを取り入れた空間を提供している。木々や森、歩道の横を流れる小川のせせらぎ等、ビルの中は大きな空間にも植栽があり、緑があり、そして素敵な花屋さんがある。人間にとって欠かせない自然に触れることで喜びの感情が湧き、交感神経だけでなく副交感神経が働いて心を整えてくれる。あるいは多様性を認め、認める中で協調し、社会や組織を作り社会生活を行っていく。このように人は出来ているのだと思われる。

 新宿高島屋で、(一社)いけばな協会の第62回の展示会が開催された。立花等、伝統的な素晴らしい作品が多数あった。そしてその多くに、大田市場で毎日見る枝物や花が使われていた。嘗ては展覧会というと、「こんな珍しいもの、どこにあるのだろうか」といった花材が使われることが多かった。現在は、日頃、流通しているものを各流派それぞれの様式と、そしていける方の個性で素晴らしく際立たせて、一つの作品に仕上げていることが多い。もちろん、新しい花材もどんどん取り入れられている。例えば、最近使われるようになってきた花材としては、台湾が国をあげて力を入れているオンシジュームの新品種と、日本が力を入れているエビデンの新品種、この二つのランが良く使われている。伝統的なものほど新しいものを取り込み、新たな調和とトータルの美を作っていくことが必要だ。いけばなのような限られた空間の作品もまた、美と、そしてバイオフィリアな感じを人々に感じさせるのだろう。




 投稿者 磯村信夫  15:21