社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2022年01月31日

長く継承された文化的行事を大切にする


 本日の取引は、再びコロナ禍色が濃い立ち合いとなった。月末に加え、節分やバレンタインデー、1月31日愛妻の日もあり、昨日のセリ前取引でももう少し動くかと思っていたら、多くの小売店さんや地方市場さんの仕入れは補充程度のようだった。もっとも昨年の今頃に比べたらだいぶ動きはあるのだろうが、気持ちの上でなにか晴れないものがあり、このどんよりとした不安な気持ちは経済生活を滞らせる。花き業界の分野でもwithコロナで経済を回す道を探していかなければならない。
 その際、日本人の特性や文化を考慮する必要がある。おおまかにいうと、ヨーロッパ社会は城壁で囲まれた都市生活者による価値観が基本になっている。城壁内で生活するから公益のあとに私益がくる。旧約聖書の経典では、この世を創られた神は自分に似せて人間をお創りになって、人間に多くの力を与えた。また人間は神との契約で居住場所も決められたので闘争は当然のこととして、皆殺しの事件が旧約聖書にも出てくる。中国は少し異なり、個人を尊ぶよりも権力で安寧秩序を作り、それが城壁外の農村部や牧畜地域にも及ぶことになる。

 一方、日本を考えると当時江戸が世界の最大の都市などといわれたが、それぞれの村落は400人から600人弱だったそうで、耕作、とりわけ水稲ができる範囲で一つの村を構成していた。それが三内丸山(青森県)の縄文時代から明治の初期まで日本各地で続いたことなのだ。日本ではそのような村落意識が元になっているので、個人をなくしてでも一体化して話し合いで物事を解決し、共同体としての生き方を重視していく。また現在においても、同様で為政者に対して批判はするものの、我々自身は共同体認識の中で人に迷惑をかけないことを重視している。共同体の単位は会社や学校、マンションの住人など、かつての村落単位と変わらない。それゆえ保守的といえば保守的で内向きともいえる。
 さらには、日本人は遺伝的にもセロトニンのレセプターが少なく、心配性の傾向がある。アジア圏の方と話していると、その積極性については明らかに違うと思うことがある。日本人は、慎重派で何事も石橋を叩いて進む傾向がある。コロナ禍においてそこのことを考慮して花の需要を掘り起こすプロモーションをしていかないといけない。

 早ければ2月の後半には新規感染者数は減るともいわれ始めた。となるとまだ外出自粛はするが、少し気持ちが晴れやかになってくるだろう。我々花業界は、このタイミングで家庭と職場という共同体の中で個人需要に対して提案していく必要がある。フラワーバレンタインや、3月のホワイトデーなどの新しい文化ばかりでなく、長く継承された文化がとても大切である。
 これだけ天災が多い中で、日本は草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ ※万物がことごとく成仏すること)であるように、あらゆるものがもののあわれでなくなっていく。唯一残るのは毎年繰り返される歳時の文化である。自然がそうであるように、はかない自分の努力も天変地異で流れてしまうがまた新しく繰り返す。努力が積み重なっていくヨーロッパとは自然観が異なる。日本の場合はいつか朽ちていくものとして放置するか、場合によっては手をかけ保管するということとなった。だから花き業界としては、昔から続く歳時を大切なものとして伝えていく必要があるのだ。
 昨今では、共同体の共の文化的な意識がなくなり、まだ個としての確立ができていない。個ができれば、自分の権利を守るための公益が優先されることが理解される。日本ではその狭間にあってむごたらしい事件も起きているように思う。花き業界としては2000年続く価値観と、そこから生まれた季節の文化催事の花飾りを継承しつつ、新しい習慣も取り込む形で個人需要を開拓していくという必要性を強く感じた次第である。

 

投稿者 磯村信夫 16:35