社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2023年05月22日

命とは、与えられた時間のこと


 歳を重ねるにつけ分かってくることが多くある。例えば人格者とは、利己のために時間を使うより、利他のために時間を使うことの方が多い人を言う。聖路加国際病院の日野原先生が次のように仰っていた。『命とは与えられた時間のことであり、この時間をどのように使うかが生きていくこと。時間の使い方は、そのまま命の使い方になります』。自分のため、即ち集めることばかりに使ってしまうのか、社会や他者に時間を使う生き方か。この二つのバランスが人格者かそうでないか、また、良い人かそうでないか、即ちウェルビーイングかそうでないかの分かれ目になる。これは利益を出さなければならない株式会社でも同様だ。お金を集めることを一義に考えてしまうのか。それとも与えることをいつも考えながら仕事をするか。この「集める」か「与える」かで、同じ業種、同じ売上げでも、内部のガバナンスや社会から見られる目が違ってくる。また、リーダーにもこれは当てはまる。MBAでは、イギリスの探検家・シャクルトンを例にリーダーシップについて学ぶ。シャクルトンは南極探検中、様々な困難に柔軟に対応して部下を導き、強靭なリーダーシップを発揮した。万が一にもこの人といれば安心だという精神的な信頼感、そして暖を取る物や食料を分け与える気前の良さがリーダーシップでは欠かせない。豊臣秀吉は天下統一を果たした後、功績のあった武将に分けるものがなくなったと感じると、中国に戦いを挑むという考えが出てきてしまった。ここで本当に勝てるだけの実力があれば、気前の良い秀吉のことだから功績のあった者へ分け与えただろう。そして部下の大名たちは死を賭してでも戦い、勝利に向けて奮闘したであろう。

 さて、同じ卸売市場の仕事でも、何を目的にしているかで全く違う。食べるためだけにやっているとしたら、産地に行って「荷をください」ととにかく集めるだけ集める。そして量を多く購入する花束加工業者や仲卸等の大手買参人には「量をまとめてくれれば、他がいくらならこの値段にします」と、お金を集めることばかりを目的にしてしまう。取扱い量、金額が増えて業界内で自慢したい。もちろん業績を上げるのは凄いことだが、これだけが目的では良い会社ではない。花き業界は人々を幸せにするだめに存在しているのではないか。花や観葉植物等の鉢物は、人を健やかに、幸せにするために存在しているのではないか。リビングのテーブルに花を飾ったら、何か話が弾んだ。気持ちが明るくなった。あるいは、朝、洗顔した時に洗面所に飾ってある花を見たら、「何か今日は良いことが起きそうだ」と、気持ちの良い一日の始まりになった。このように感じてもらいたいために仕事をしているハズだ。種苗業者も生産者も、集出荷所もトラックの運転手も、卸・仲卸の様々な仕事も、花束加工も小売業者も、小売での値段付けも、全てがこの目的のためだ。しかし、目標を立てて達成できなかったり、上司に怒られたりすると、つい「与える」ではなく、「獲る」ことばかり考えてしまいがちだ。もう一度、人々に幸せになってもらう、即ち幸せを与えることが仕事であることを花き業界人には認識してもらいたい。そして、自分に任された仕事もここに繋がることを意識して勉強して欲しい。同僚に、会社に、消費者に「与える」。この「与える」ことに、命の時間の主軸を置いて使ってもらいたい。

 自動車業界は今、一つの変革期を迎えている。自動車で「与える」とは何かを考え、ユーザーが受ける快適な、新しい時代に即応したサービスを提案しようと日本の自動車業界も努力している。花は交通事故等、命に関わる商品ではないので、その分、業界は甘く考えていたのかも分からない。もう一度、真剣に仕事のことを考えて、それぞれが与えることに自分の命を使っていただきたい。

投稿者 磯村信夫  14:27