社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2017年03月20日

花き生産者をペイさせるのはマーケティング力


 人口動態をはじめとする時代の変化に、日本の花き業界は対応出来ないでいる。時代の変化を先取りしておかないと、少子高齢化である次の時代へ向けて、花き業界は役目を果たせないのではないか。山形県庄内地方の写真家・土門拳氏から教わったことだが、幸運は凄いスピードで行き過ぎてしまう。捕まえようと思うなら、前で待ち伏せしなければならない。あるいは、同じ速度で走って行かなければならない。何せ後ろ半分は頭がつるつるで、後ろから捕まえることが出来ないのだそうだ。

 花き業界の現状はと言うと、第三回観葉植物ブームだというのに、雑貨屋さんや家具売場で良い商品が売れたり、ランドスケープや建築会社でグリーンウォールが販売されたり、フェイクの葉物や花がさらにシェアを伸ばしたりしている。いわゆる“種苗から小売り”までの既存の花き業界は、この消費者の動向を十分に捉えることが出来ていない。その為、園芸鉢物業界のパイは、残念ながら縮小している。

 総務省の家計調査でも、2016年9月以降の野菜高騰のあおりを受けて、花は数量、金額ともマイナスであった。ここで見逃してはならないのは、かつては野菜が高いと、果物と花の支出が手控えられ、卸売市場であれば単価が下がった。しかし、団塊ジュニアの世代を中心に、「果物は野菜と同じ」で、サラダ感覚、ヨーグルト感覚で、栄養バランス上必要なものとみなされるようになり、その分、花が割を食っているのだ。2月の花き卸売市場の売上実績は、16年が単価高だったこともあるが、前年比80%台、中には70%台だった地域もある。一方、果物は上手くマーケティングを行い、不知火等の晩柑類、温州みかんに続く柑橘、キウイ他、実績を残している。

 この3月期の花き業界はどうだろう。卒業式等のギフトが動き始めてから、やっと専門店の動きが活発になったが、お彼岸の仏花の中心は、すっかり量販店の加工花束をあてにする消費者が多くなった。また、これだけ死亡者数が多くなると、葬儀も日常化する。家族葬として小さくなっていくことが、西ヨーロッパを見ても普通だと思うが、色目が白ばかりではなくなっている。黄色やオレンジなどの比率も高まり、お彼岸の花束にしても、葬儀の祭壇にしても、時代に合わせた色合いにしなければならない。すなわち、白系の花の安値が続いている。

 日本国花き振興法が成立し、文化に根ざした花きを生産してもらい、使ってもらおうとしているが、いけばなやフラワーデザイン学校の、21世紀に入ってからの生徒減、特に、ここ10年間のマイナスはかなりのものだ。これらの教材として使用されるような花材を、日頃から稽古以外でも使ってもらうようにしないと、時代の波に流されて生産が途絶えてしまう。実際、クリスマスシーズンで使用されるようになったお生花用の青いモノ(ヒバ類等)だとか、花束の中に葉を丸めてホチキス付けして使うハラン類等も、いけばな以外で使われるので生産者はペイする。

 このように、時代の波は否応なく日本の全産業に押し寄せている。花き業界にとって、少子高齢化は恐くない。人口が減る分、居住空間が広くなる訳だから、花や緑が沢山使われ、その場を美しくすることが出来るし、我々日本人はそのことを望んでいる。しかし、生活者がお金を出してそれらを買い求めることは簡単ではない。従って、「生活者が買う」。この現場に焦点を当て、マーケティングを行い、生産者に提案して作ってもらうことが必要である。漫然と今までと同じ花を作り流通させても、無駄が多くなるばかりだ。園芸農業では、野菜だけでなく果物も目鼻がついたので、花の生産を減らして、野菜や果物の生産に移行する生産者が増える可能性もある。これ以上、花き生産量を減らしてはならない。

 では、そのマーケティングを行い、また、責任を持って産地に作ってもらうのは、誰の役割なのだろうか。それは、資本が相対的に大きい卸・仲卸だったり、量販店の花売り場だったり、加工業者やグリーン施工業者だったりする。花や緑がお金に代わる瞬間、すなわち、生活者がお金を出す瞬間、これを良く知り、花き生産者とコミュニケーションをとり、花や緑をサステイナブルに作ってもらわなければならない。

 さあ、国内生産を増やしてもらおう。輸入商社の方々に、海外の花や緑をもっと輸入して出荷して貰おう。それは、上述した人たちが責任を持ってマーケティングを行い、「買ってもらう」ことを出発点にして仕事を組み立て直すことから始まるのだ。


投稿者 磯村信夫 : 16:15