社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2022年04月18日

花き業界にフォローの風は吹いているが…


 私は本を読む時、4冊に1冊くらいは小説を読むことを心がけている。そこで花屋さんが出てきたり、植物に関係する小説も好んで読んでいるが、好きな作家の一人が朝井まかて氏だ。2008年、小説現代長編新人賞奨励賞を受賞した『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記(はなくらべ むこうじまなずなやはんじょうき)』でデビューし、江戸時代の花競べの様子を克明に描いている。また、シーボルトが薬草園の造園を依頼する『先生のお庭番』も著している。その後花関係の小説はしばらく無かったが、最近、牧野富太郎の伝記ともいえる『ボタニカ』が出版された。私は友人が大病で入院する際、好きな小説をプレゼントしている。もう一人、私は松本市の上高地に近いところで苦労して卒論を書き上げたこともあり、長野県松本はふる里の一つなのですが、そこの信州大学医学部を卒業された「神様のカルテ」の夏川草介氏の『勿忘草の咲く町で ~安曇野診療記~』もプレゼントの一冊に加えている。そして、現在読み途中なのが、山本幸久氏の『花屋さんが言うことには』だ。世田谷の花き仲卸で仕入れているお花屋さんの話しである。今まで趣味や実用書として、いけばなやフラワーアレンジメント、ガーデニングの本はあったが、花屋さんについての小説はあまり見かけなかった。それがここのところ、人気の小説家たちが描いている。ぜひとも皆様にオススメしたい。

 さて、最近、植物がテーマの小説が増えているのは、地球温暖化問題やSDGs、あるいは、経営上はESG(「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」)経営等、これらが重要な世界の中で、花や緑の必要性が高まってきているからではないかと思われる。2020年の3、4月は、コロナ禍で花の需要は殆ど無くなってしまったと思うくらい、花関係者は売り上げを落とした。今でも生産者はその後遺症で、花の作付けは少ない。しかし、その二カ月が極端だっただけで、その後は家庭需要の喚起やオリンピック・パラリンピックもあり、昨年の売上が前年を上回った花関係会社が多かった。(一社)日本花き卸売市場協会のメンバーや、個人的に親しい地方の卸売市場の経営者の方と話していても、2021年度は前年比で105~106%くらい、前年を上回ったところが多いようだ。(一社)日本花き卸売市場協会では売上データを暦年で公表しているが、そのデータでも同様の結果だ。しかし、それぞれの人たちに話を聞くと、「税込」で話をしている人もいる。2019年10月以降、8%から10%に消費税が上がったが、この2%を自分の売上が上がったみたいに捉えている。そういう人がいる一方、「いや、税金を考えたら少し(売上が)下がります」と答える人もいる。2021年度が、2020年度よりも売上が良かったのは分かっている。しかし、2019年並みにはまだ回復していない会社が多くあることも事実だ。

 今年度の話をしよう。ある卸売会社の方が、「前年度は単価が高かったから売上が上がった。だから今年度は集荷を頑張る」と言う。こちらから「本当に頑張れるのか、頑張って出荷物が本当に増えるのか。生産は増えていないし、国際情勢や国際物流、為替を考えると、輸入品で補うというような、輸入商社の活躍を期待するのも厳しい」と問いかけると、「ではどうしましょうか」と、単価が高いことを今年も希望しているような顔で口を濁す。今年はあらゆる物価が上がり、生活者も楽ではない。その中で、食べるものではない花に対して、値上げしてお金をどこまで払ってくれるだろうか。この問題は大きい。即ち、前年度はたまたま上手くいったと捉える。そして、このタイミングで将来どのような流通が必要かを各地域で検討する必要があるのではないか。その地域の生活者に花をまんべんなく楽しんでもらうにはどうしたら良いか。地元の専門店や業務需要の会社、スーパーマーケットやホームセンターの花売り場にとって、その地域の文化に根差した花を供給するために、品揃えや割安に感じてもらえるような花束やアレンジメント、コンテナガーデン等の組み合わせを考えたり、花もちを良くする工夫、更に、SDGsの観点から過剰包装資材の使用削減等、生産から小売りまで地域の課題として取り組めるようにする。今年度、このような問題に対し、まとまって解決したり、会社の合併やグループ化まで含めて検討すべきではないか。

 人口減の日本において、各地域の独自の伝統や文化は本当に大切だ。お祭りだけでなく、冠婚葬祭の風習や食文化、生活文化もそうだ。そしてこれは花飾りも同様だ。これを継承し、楽しんで生活していくことは、人々の幸せに繋がる。従って、卸売会社や仲卸、場外の問屋まで含めて、一堂に会して今後の方針づけを行い、未来の在り方、組織体を創る。これを本年の課題にしてもらいたいと思っている。

 



投稿者 磯村信夫 15:57