社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2023年10月23日

良い企業、良い組織の考え方・行動~2025年に向けて~


 自宅から少し離れたところに、通勤車両を置いている。途中にハローワークがあるので毎日通るのだが、ハローワークから出てきた人を三つの派遣会社が待ち構えている。自分のところに入社してもらおうとしているのだ。今年になって三社になったが、昨年までは一社だったように思う。テレビでも転職サイトの広告が多い。人手不足は各分野で起こっているようだ。転職の波は人手不足のためだけではない。職場に対する働く者の価値観が変わってきたのが一番大きいのではないだろうか。サステナビリティやSDGsの意識、そして、コロナによる在宅勤務等を経験したことで、社会の価値観の変化が誰の目にも分かるようになってきたのだろうと思う。

 花き業界も同様だ。農協のような共選共販の組織も、有力な人が抜けて組織力が弱まり、ブランドが保てなくなったところもある。会社でも良心的で優秀な人がやめることも、明らかに多くなっている。一言で言うと、消費生活も会社での生産生活も、「人間らしい形が優先されてきた」ということだろう。昔は、企業は社会に貢献しなくても、利益を出し税金を納めることで良しとしていた。しかし、今はそうではない。例えば、少しでもCo2を削減する。このようなサステナビリティの観点で「社会に良い」ことを行い、利益も上げることが、時代の要請となっている。社員一人一人が善良でなければならない。会社も善良でなければならない。また、社員も取引先も信頼する。今までの歴史で積み上げてきた良識を善し悪しの判断基準とする。このようになれば、株式会社、あるいは、生産・出荷組織、また花の市場や小売店であっても、パーパスや理念と、利益を追及する行動は合致していく。

 コロナ後、生活者や社員の影響力が大変強くなってきた。在宅勤務が要因の一つではあるが、会社にいてもリモート勤務をしている時と同様、勤務中のすきま時間に子どものための電話を1本したり、スーパーにお買い物のメールをしたり、家庭生活の延長をする人が増えてきた。そしてそれは、(良識の範囲内で)悪いことではない。ドイツの社会学者テンニースは、かつて二つの組織を提唱した。目的を持った組織である「ゲゼルシャフト」は、家に私生活を置いてきて、目的達成の為に集中して仕事をしなければならない。一方、地縁や血縁などで結ばれた「ゲマインシャフト」は、構成員の幸せを元にした組織だ。もともとはこの2つに分かれていたが、今は仕事時間も家庭時間も混同させている人が多い。「会社は仕事、家ではゆっくり私生活」だが、そこに自然に時として仕事や私用、楽しみが入り込むのが今の時代だ。また、ワーケーションや、ブレジャー(出張に旅行を組み合わせた造語)等の働き方も広まってきた。

 パタゴニアという会社がある。パタゴニアは社員に自然の中で、豊かで満ち足りた生活を送って欲しいと思っている。従って、スポーツが大好きな社員に仕事を続けてもらうため、周囲に迷惑をかけない限り、社員はフレックスに仕事をして山登りやスキー、サーフィンをして良いことになっている。また、パタゴニアの理念は「環境を守る」だから、古着回収や古着ショップなんかも運営している。社員も古着を大切にする。全ての会社がここまでユニークな制度があるわけではないが、「自分と同じものを大切にしている会社」で働くことが、大切な社会になっていることが分かる。もう少し言えば、会社と個人との間で、人間の意志、あるいは遊び、ここを共有していくことが大切になっているのだ。良識の範囲内の公私混同が「普通」の社会になってきている。そしてその際の価値観は、会社も個人も、「卑しくない」ことが重要だ。

 繰り返すが、社員や生活者の組織に対する影響力は大きくなった。研修や働きたい部署にしても選択肢が多くなっているし、生活者も、商品の選択肢が多くなってきている。企業は、企業行動に関する透明性をより向上させていくことが必要となっている。誰が見ても分かりやすいようにしなければならない。更に、社員や生活者の意思表示も強くなっている。組織のリーダーはもう一度、見直しが必要な昭和や平成時代の価値観でやっていないか、確認する。そして、社内だけでなく社外の人間関係も、諸設備にしても、そこで働く社員が幸せに暮らせるような環境づくりが重要だ。そのために一番大切なのは直属の上司、中間管理職の、これまでお話をしてきたような考え方に基づく行動である。大田花きを今言ったような形にすべく、足りないところを修復していくのが、この下半期の私の目標である。  


 投稿者 磯村信夫  15:50