社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2022年07月25日

結びつきで力を発揮する花


 新型コロナ第7波の中でもイベントは確実に行われている。土曜日の7月23日、東京2020オリンピック・パラリンピック1周年記念セレモニーが国立競技場であり、旧日本花き振興協議会の関係者として参加した。思い出すのが開会式の時のヒマワリである。主催者のバッハ会長のご挨拶が、難しい状況下での開催であったため長引き、その結果、子供達のヒマワリを持った演舞の時間が短くなってしまったが、ヒマワリはビクトリーブーケにも使われ、おめでたい時や、父の日の花、そしてこの頃ではお葬式の花としても使われる様になっている。タキイ種苗さん、サカタのタネさんが、切花用のヒマワリを世に出し、花粉が落ちない品種に改良しただけでなく、花の大きさや花弁と芯の色合いが色々な品種を出した事で、この切花用のヒマワリは日本の花として、日本だけでなく世界の花き業界で認知されている。ウクライナの花でもあり、世界各国において、ヒマワリの切花が使われる用になった事は、大変喜ばしいことである。

 24日の昨日、いけばな協会の法人化記念行事が、オークラホテルにて開催された。戦後の生け花ブームのエンジン役となった、草月流、小原流の両巨頭お家元が、記念の会に相応しく、同時進行でパフォーマンスを行った。それぞれのお家元が用意した基礎となるアーキテクチャーを交換するもので、小原流らしい根や木のさらしものに、草月のお家元が生け花をし、草月のお家元が用意した竹の骨組みに、小原のお家元が生け花をする。これで地球の一場面の自然を生け花でつくり上げる。日本の自然はあまりにも猛々しいので、それを削いで、本質を形にして生け込む、という自然のあるがまま、人間の美意識を通じて表現する、要するにこれが生け花であるのだが、両お家元の、さすが草月、さすが小原と言わせる流派を乗り越えた上の、それでいて、流派を体現させる生け花を行った。今思い起こしても、あのオークラのステージで飾られた2つの大きな生け花は、生き物の様に蠢いて、という表現は適切ではないが、生きているのを実感できる、静だが死んでないのが生け花の生け花たるところであり、それが感じている。この様に、生け花業界でもイベントを行い、withコロナでリモートも行うだろうが、皆、もう一度集まり、教室を行う、或いは海外にも出て行く。日本食の様に、日本の生け花を伝え、そして文化教室を持つ、この事が必要だ。会の出席者は生け花の先生方がほとんどだったが、withコロナやコロナ禍の活動ができない状況で、業界内の人たちの気持ちのコンセンサスの様なものが出来上がっている、と感じた。

  コロナ禍で、生け花の先生方のみならず、大きな影響があったのが、結婚式やお葬式に花を装飾するお花屋さんである。お葬式の花を装飾したり供花を担当する花屋さん曰く、自分たちは葬儀というひとつの儀式、即ち文化では欠かせないものを生業としてるので、規模は3割減から半分近くなったものもあるが、今後もやっていける。葬儀の花で喪主さんやご家族の方、参列者を慰め、そして亡くなったご本人の尊厳を高めることはできており、いい仕事をさせてもらっているといった発言を聞いた。しかし結婚式においては、2019年で結婚した約60万組中の半分が式を挙げるのが通例である中で、コロナ禍の2020年は、1.5割減の52万組、21年は50万組くらいであり、式場も結婚式の花屋さんもこれでは皆が食べていけるという組数ではない。この様に、お花屋さん達も式場も困る状況下、伴って、合計特殊出生率もガタンと下がって、2020年が84万人、2021年が81万人となっており、とりわけ結婚式の業者の経営状態は、我が国の未来を作ってくれる子供たちの数とも相関するため、この点を深刻に捉える必要がある。人口減なので、年配者が働く、これは良い。女性が働く、これも良い。だが、その後において、家族で子供達を育てるという様な状況、そしてその前に安心して結婚できるような状況をつくらなければいけない。人間とチンパンジーは全遺伝子の2%くらいしか違いはないが、一番の違いは、次の子供が何年経過したら産む事できるか、というこの生命のサイクルである。人間社会では、育てるのは大変だが、年子の兄弟もみる。チンパンジーは7年経たないと、次の子供が産まれてこない。それは母親だけで育てるからである。人間社会では、夫婦で育てる、おじいちゃんおばあちゃんを含めて家族で育てる。もう少し広がって、親戚、そして地域で育てる、ということをやってきたので、女性は年子でも子供を授かる事ができる。人間はそういう動物なのである。コロナ禍の財産でもあるリモート社会やICT等を使う合理性、仮想空間は、仕事や日常生活の中の結びつきを弱めるためではなく、維持し強めるために使っていくかどうかということがとても大切であり、やはり社会で助け合うという事を忘れてはならない。

  花の仕事は、人間の結びつきの証としての仕事。だから今後とも、便利な世の中になっていく上で、どのように人に、融和や儀式、要するにライブの結びつきを上手に使い、人として生きていくか、ここに焦点をあて、花でその人たちを幸せにしたい、結びは花である。

 


投稿者 磯村信夫 18:07