社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2022年05月09日

経済が悪くなっても、オフィスに花みどりを


 今年はGWに近い母の日だった。昨年はコロナ禍での“まん防”のため、母の日でもネット販売が伸びた。今年もその勢いでネットの生花店は準備をしたが、リアルで会うことが多かったのか、8日(日)の母の日は、リアル店舗が大変良く売れた結果となった。ネットからリアルへ、という訳ではないが、リアルの大切さをこの2年間、身に染みて思っている人たちが多かったのかもしれない。強かったのは、ネットとリアルの両方の店舗を持つ生花店だった。来年はGWから離れた母の日となるので、ネット販売のみの生花店は今年の傾向を元に、十分に準備する必要がある。また、GW中の「母の日参り」も多かったようで、仏様用に使われたであろうスプレー菊、一輪菊、小菊、もちろんディスバッド菊も、日本中、どこの地域の市場でも高値となった。ついでに言えば、ギフトの時は信用のおける品質の花を生産している出荷者は、相場はずっと堅調だ。母の日の物日が終わっても極端に安くなることはなく、価値に見合った価格で売れている。花き消費において、値段だけでなく、質の良い物を評価すると言った一段意識レベルが上がった。誠実な小売店と堅実な消費者が増えてきている。

 さて、国際経済が決して順調ではない状態が、ここ半年で展開されている。今後、日本では物価高をどうカバーしながら経済成長を図っていくか、大変難しい舵取りの時となっている。この現状の中において、折角オフィスやいけこみ等の法人需要が復活してきた花き業界は、これが萎んでしまわないようにするために、花き業界全体で会社の社長様方に働きかけたいと思う。それは花や緑の必要性だ。

 病院では随分と生花を受けいれるようになってきた。患者さんが精神のバランスを整える上で、花や観葉植物等が良い影響を与えるエビデンスがある。しかし、経済界では、少し景気が悪くなると観葉植物を造花に変えたりする場面が出てくるのだ。昨日、私が大好きな、また、尊敬する日本電産の永守重信会長の本を読んでいた。永守会長は名経営者であり、会社を買収しても社員をそのまま引き継ぎ、その会社を立て直している。また、大変ユーモアのある方だ。エピソードの一つにこんな話がある。本人は真剣だが、何かほほえましい。ある時、発注元から無理難題を言われて、その要件にあった小型モーターを作ろうとした。永守会長は社員を集めて、「これから一緒に『出来る、出来る』と百回言おう」と声をかけた。しかし、百回では全然その気にならない。二百回、三百回では、まだ無理だ。五百回を超えるころから、「何とかなるかもしれない」と何となく思ってくるから不思議だ。永守会長はそうおっしゃっている。そして、その気になって高揚した気分をエネルギーに、改良や新しい発想で小型モーターを作ったそうだ。日本電産の三大精神の一つで、私が最も好きなのは、このエピソードにある通り「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」。これだ。

 そんな尊敬する永守会長の本に、こんなことが書いてあった。永守会長は京セラの稲盛和夫名誉会長を尊敬されているが、稲盛会長に日本電産の本社に来ていただいた際、稲盛会長が社屋内の植木を見て、「手入れの手間や水やりの手間、このコストを考えないと。これでは京セラをまだ抜けないぞ」と言われたそうだ。そこで永守会長は人工の観葉植物に変えたという。私は永守会長に伝えたい。もっと素晴らしいイノベーションを起こしたり改善したりする為には、室内に自然の緑を増やして、豊かな景観を作ることが大切であることを。日本だけでなく海外でも、オフィスに緑を置くと生産性が15%向上するというエビデンスがある。日本ではまだ造花を置いてあるホテルも多い。造花が悪い訳ではない。ただ自然の緑は「手間がかかる」のではない。人間が生きているように、植物も生きている。水やりも、枯れた葉っぱを取り除くことも、当然のこととして行う。コストではない。6S※1の事項である。花・緑がそこにあると、その花・緑がそう教えてくれる。花・緑をオフィスに置く際に、経営者は、その理性的判断をすることが、良い仕事をし、良い生活をすることになるのではないか。

 経済界では、まだまだ植物の効能が知られていないと感じる。花き業界がビタミンF※2をもっともっと伝えていかないといけない。知らせていないので、需要を喚起できていないのだ。経済が不安定な中でも花き消費が発展するように、ホームユースは勿論だけれども、オフィスや食堂、公園や道路等の生活をする空間を、整った緑や花壇、花のある空間にする。これが人々のWell-being(ウェルビーイング)に必要なことだ。花き業界で日頃の活動を通してこれを訴え、消費拡大に繋げ、花と緑をそれぞれが楽しむ日本にしていけたらと思う。


※1 6S:整理、整頓、清掃、清潔、躾、作法。当社では、この6つのSを6Sとしています。

※2 ビタミンF:花やグリーンの持つ効果を「ビタミンF」として紹介し、花の力をPR。
参考:日本花き振興協議会HP「ビタミンF」



投稿者 磯村信夫 16:31