社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2019年06月03日

私が義理の父から教えてもらったこと


 昨日、松屋銀座で開催されている「マミフラワーデザイン展2019『日本の美』」へ足を運んだ。こういった文化展や、本年開催のラグビーワールドカップ、そして、来年の東京オリンピック・パラリンピック等、人類しか行わないスポーツや文化をどのように楽しむか。これを日本はここ2年間で、世界に表明しようというのである。そんなことを考えながら、昨日はマミさんのデザイン展を見て回った。

 私事だが、 松屋銀座というと、義理の父、前川篤二郎と親交の深かった山中さんのことを思い出す。前川と伊勢丹で同僚だった山中さんは請われて松屋へ行き、松屋を見事に再建させた方だ。“百貨店経営の神様”とも称された山中さんは、「デパートとは何か。そこに置く商品はどのようなものであるか」と、その理想の商品の品揃えをされた。そんな山中さんの同僚だった義理の父・前川より、結婚する時に言われて、今でも肝に銘じている流通業に関する言葉が2つある。今回はそれをお伝えしたい。
 
 当時、アメリカではスーパーマーケットの業態が、デパートや月賦販売、通販等よりも本流になってきて、営業利益率も高かった。日本のデパート業界の人たちで勉強会を開き、そんなアメリカを視察に向かったそうだ。しかし、その後日本でスーパーらしいスーパーを子会社で作れたのは、視察に参加した中で西友だけであった。ダイエーやイトーヨーカ堂、ジャスコ等が活発になる中、デパートは子会社ですら思い切った業態イノベーションが出来なかった。日本橋三越が有名になった江戸時代を見て分かる通り、物事には必ずイノベーションが起こる。義理の父・前川は、「流通業は色々な業態が今後とも出てこよう。しかし、生活者を幸せにする為にあることは変わらない。そして、1番短い流通の『作った人が売る』。これが良いことにこしたことはない(今でいうところの“SPA”である)。しかし、分業をしていくことは働く人たちが幸せになる為の一つの知恵だ。流通業者はお金を出してくださる消費者(当時は生活者という言葉が無かった)と、生産者のことを一議にして流通させていく。これが必要だ。時代と共に姿を変えなさい」。こう私に教えてくれた。これが1つ目に肝に銘じている言葉である。

 卸売市場は、委託販売の手数料をいただいて運営されているが、ただの場所貸し業だけではいけない。伊勢丹は「Iシリーズ」といって、ターゲットを絞り、伊勢丹仕様でそのターゲットに合う商品をメーカーに作ってもらっている。「『ファッションの伊勢丹』だから、先端を走らなければならない。場所貸し業だけでなく、自ら流行を作るつもりで商品化に取組み、メーカーも消費者も良いようにする。花の卸売会社においても同様で、場所貸し業だけでは絶対にいけない」。これが二つ目の、義理の父・前川が私に残してくれた言葉だ。

 現在の日本は少子高齢化で、供給に比べて需要が先に細る。従って、競争も激しい。生鮮食料品花き流通といえども、努力して売上前年比95%位ではないだろうか。では、どうやって前年比100%にするか。一つは、新入社員に入ってもらい、企業の新陳代謝をすることが挙げられよう。社長から部長までの年配社員は、過去のビジネスモデルで成功した人たちだ。デパートがスーパーマーケットを子会社として育成し、成功しきれなかったように、仕事のやり方を変えることは、頭で分かっていても中々出来ない。「仕事のやり方をどう変えて行けるか」。これが、現在の卸売市場の勝負どころである。現時点では、輸送が難しくなっているため、産地から遠い消費地にとっては、安定した物流を確保した卸売市場が売上を減らさないで済んでいる。また、花の出荷量は、中間流通業者みんなが食べていけるほど多くは無くなった。その中で、花を卸売りして手数料をいただくだけではなく、加工や小分けで付加価値を高め、利益を出すようしている卸・仲卸が多い。ブーケメーカー、業務需要の会社も同様だ。

 日本は世界第3位の経済大国でありながら、世界で10位以下の花の消費金額国である。従って、需要を活性化させなければならない。現在、(一社)花の国日本協議会が消費拡大に向けて取り組んでくれているが、それだけでなく、各社が仮説を立ててトライし、需要の金脈を発掘することが必要だ。大田花きも新商品の開発と、業態別に産地と小売のマッチングをして業者内のコストを下げ、良い花を割安だと感じてもらえるように、消費者に訴えていこうとしている。




投稿者 磯村信夫 17:39