社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

[]

2021年06月07日

本当はどんな仕事も奥が深いのだが…7月ボーナス査定を考える


 日本は「同一労働同一賃金」に頭を悩ませている。企業は、“今”に奉仕し、“今”、未来を創るために働く。そのために存在している。その結果対価がもらえるし、組織体が続いていく。しかし、情報処理技術や社会の見方、価値観が刻々と変わっていく中で、未来に向けてのイメージなど、社内で新陳代謝が起こらないと、企業が行っているモノづくりやサービスが使い物にならなくなってしまう。その際、「同一労働同一賃金」で、日本は年功序列で役割や所得が決まってきたところが多い。また、会社の大小によって同じ仕事でも賃金格差があって当然と考える傾向がある。ここをどのように是正していくかで頭を痛めている。  

 本当はどんな仕事も奥が深い。とある雑誌で、田中角栄氏の言っていた話がある。新潟市の古町の料理屋で働く、ベテランの下足番のおじいさんの話だ。彼は靴や靴の履き方、玄関から上がる時の所作でその人を見抜き、靴と名前を一致させる大変優れた人だったそうだ。彼の人を見る目と、「良い靴、良い履き方をしているお客の関係者に来てもらうと、店が繁盛する」という店へのアドバイスこそが、この店の売上アップに役立っていると角栄氏は語っていた。似たような話だが、私の中学時代の友人は、ニューオータニでいくつかの職務を経験した後、自ら志願してドアマンをやっていた。「自分は最高の営業パーソンだ」と彼は言う。「出入口はお客様との接点が一番多い場所だ。自分がいの一番に接して、ホテルの中でも最高の満足をいただくのだ」と言うのだ。そういえば、まだコロンビアが内戦でゲリラと戦っていた時、コロンビアへ出張に行った時のことを思い出した。ボコタのホテルから仕事を終えて、ジョギングに行こうとする僕に向かって、ドアマンは「磯村さん、昨日と同じ時間ですね。昨日はどこを通りましたか?」と尋ねてきた。地図を見せて示すと、「同じところは危ないですから、時間を変えて、こういう風に回ってください」とアドバイスをくれたのだ。これらのエピソードの彼らが、一流の仕事人であることは間違いない。

 もう一つ、サービスのプロの話をしたい。新橋の「金田中」 で料理人を務めていた人が、鎌倉の材木座で店を開いた。「金田中」 で修業したくらいだから本物の料理を出すが、値段は決して安くない。しかし、そこへ私が友人やお客様をお連れすると、その人は必ずそのお店のファンになる。本当に満足出来る店なのだ。それは何故か。料理人の腕ももちろんあるが、そこにプラスして、料理を運ぶ接客係の腕がピカイチなのだ。コースで頼むと、最初に突き出しが出てくるのだが、接客係は、お客がどの小鉢から手を付けるのか、どういう食べ方をするかを見ている。きっと、口に入れた時の表情やらも見ているのだろう。そうやってその人の好みを探る。次の料理を出すときに、焼き加減や付け合わせの好みなどを聞いたり、選んでもらう場合もある。そして、そのお客が味の濃いものが好きなのか、塩は控えた方が良いのか、甘じょっぱい物が良いのか等々、アドバイスを板前さんにしているに違いない。何度も行ったことのある私の好みは知っているだろうが、初めて行った友人も二品目くらいから、「普通の店とは違うな」、そういう顔をしながら満足そうに食べていく。ただ運ぶだけではない仕事ぶりが、店の売上に貢献しているのだ。

 仕事は「やる気×スキル=パフォーマンス」だ。やる気とスキルを磨くための社員教育が欠かせない。そして、社員には「自身の所得に合った仕事が出来ているか」を意識させて、「その道の欠かせない人」になる努力をしてもらう。下足番だろうがドアマンだろうが、料理を運ぶ接客係だろうが、もちろん、部長だろうが社長だろうがそれは変わらない。

話を「同一労働同一賃金」に戻そう。「ただ運ぶだけ」の接客係と、「店の売上まで考え、お客様に満足してもらえるよう努力する」接客係、同じ職種・役職であれば、同じ賃金で良いのか。どこまできちんと見て、人事考課や給与体系に活かしていけるか。これは大変難しい問題だ。マネジメントする側の役職者についても、課長の職が多くある訳ではない。部長の席はもっと少ない。その役職について、役職手当をもらうようなマネジメントをその人が出来ているのか。部下が二人しかいないような役職者は、役職者である必要があるのか。こういったことを検討し、フェアな人事考課をしていかなければならないと思う。

 


投稿者 磯村信夫 12:20