社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2022年04月04日

新年度に臨んで。リミックス


 本日から東京証券取引所の再編された新市場が始まり、新たに「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」の三部門に分けられて取引が開始される。経済のグローバル化に対応するため、プライム市場を世界の投資家が投資出来る規模の企業のみで再編しようとしたが、国内投資家を中心に取引されるスタンダード市場に行くのは「落ちてしまった」との印象になりかねず、一部上場企業はプライム市場にこだわった。そんな関係で、今回の再編は海外投資家からの声や東証開設者の真の希望を叶えられずに本日からスタートする。再度の再編は今後行われると思われる。

 さて、スタンダード市場に上場する大田花きの現状と本年の方針をお伝えしたい。卸売市場の現状から確認すると、水産は近海のものが獲れなくなり、ここ30年では三分の一となった。これでは魚食を好む生活者に供給出来ないので、冷凍品を扱う。冷凍品は買い付けのものが多いから、セリは限られた品目、限られた市場で使われる手法になり、実勢価格はいつのまにか相対相場が中心になってきた。青果も国産青果の8割は卸売市場経由率があると言えるが、予約相対、実際の買取り販売、あるいは、値決め販売も多くなってきており、実勢価格は相対価格となっている。さらに言えば、大田市場の東京青果㈱殿がつけた価格が、その指標となっている。一方、花きは状況が違う。切り花の委託出荷率は他の青果や水産の部類の比率と比べて圧倒的に高いので、セリ取引は十分に成り立つ。従って、株式公開企業としての大田花きは、オープンな場所で取引されるセリ場での価格を建値として日本社会に提案し、認めてもらう。大田花きは日本で最初にコンピューターゼリを行った会社なので、「リモートゼリをやらないのか」と仰る投資家の方や業界関係者がいる。私はこう答えている。「リモートゼリはもう十年以上前から一部のセリ台で行っています。オランダがリモートゼリを盛んに行い始めた時と同時期からです。しかし、リアルのセリの方が相場価格に説得力があるので、リアルゼリを推奨しています。リアルゼリは現物を見せますから、特に新産地のもの、また新品目・新品種等を評価してもらう際にはリアルに敵うものはありません。また、大田市場では仲卸さんが仲卸通りで軒を連ねています。それぞれ特徴を出して花を販売しています。大田花きではリアルゼリをしていますので、買参人は市場に足を運びます。セリ前に仲卸通りで必要なものを買ったり、セリ後、買いそびれた時に仲卸さんに手当てに行ったりと、卸と仲卸の協業体制で買参人、買出人に花を供給するサプライチェーン網が、大田花きでは取れていると思っています。また、セリの買参人は市場に足を運べば、セリ場で、また仲卸通りで知らなかったことを発見する機会にもなります。このような理由から、リアルのセリを今後とも行っていきたいと考えております」。

 セリ以外でもし更なる合理化を行うとすれば、取引では相対だろう。セリであれば、一人のセリ人が何百人も相手にする。しかし、相対取引はそうではない。一対一での取引となるため、相対コストは大変高くつくのだ。誰が相対というサービスのコストを大田花きに払っているかというと、大田花きは出荷者からいただいた委託品の販売手数料8%で運営しているので、実質、出荷者がこのコストを払っていることになる。買参人は品物の代金だけで、相対サービス代は払っていないということになる。この相対の合理化をしていく必要があると考えている。今はDX化やAIを使う等、様々な選択肢があるだろう。ちょっと話が横道に逸れるが、現在、青果関係の卸・仲卸で離職者がかなりいる実態があるようだ。若い人たちが定着しないのは本当に残念だ。この理由の一つに、青果市場の昔ながらのやり方があるのではないか。若い彼らは携帯やパソコンで連絡を取ったり、ペーパーレスやキャッシュレスをしている。自分自身はそれが当たり前であるのに、青果市場のセリでは昔ながらの紙ベースのやり方で重複した仕事をしている。そういったことに嫌気がさしている人もいるだろう。これは卸売市場業界全体の問題でもある。経済産業省では、DXに絡んだ補助金を出しているので、規模に関係なく卸売市場は早く更なるDX化を進め、時代に合わせ効率化を図る必要がある。

 さて、コロナ禍に見舞われた当初、花き業界では「ビタミンF※1」を提案し、ミレニアル世代、Z世代の若い方が花を買ってくれるようになった。その時から花き業界はフォローの風が吹いていると感じている。しかし現在、あらゆる商品が値上がりし困難な状況にあるが、花も例外ではなく、バラやカーネーション、菊、ラン類、葉物、観葉植物等の値上がりが激しい。生産から小売まで2割くらい値上がりしたとしても、手取りは以前と同じかそれよりも少なくなってしまうかもしれない。だから業務改善は絶対に必要だ。供給が需要よりも少ないから、相場は高い基調がこれからも続く。この現況に対応するために、足元では、花束を作る時に葉物や枝物を使ったり、スプレータイプの枝をかいたりしてボリュームをつけたり、また花もちを良くすることで、まずは消費者に渡す花束が割高に感じないようにすることだ。また、「この花・鉢物は〇〇県のどの産地」や、「○○さんが作った」等の生産者情報を明確に消費者に伝え、頑張って作った生産者の商品を支援していただく意味でも買ってもらえる努力も必要だ。そして、家庭需要の消費者のお買い場が、専門店より量販店のシェアが多くなった今、量販店の上代価格が抑えられていることも課題だ。もっと各スーパーマーケットの方々に値段を上げてもらいたいところだが、価格競争になってしまいがちだ。卸売会社はイギリスのスーパーマーケットの例を出し、大体800円~2,500円位が家庭需要の相場だとお伝えしている。ワインや焼酎等の家庭用の価格帯と花の価格は同様なのだと訴えてはいるが、日本は中々そうはなっていない。その為、量販店に納品するためには、そこで売れるような花束を作らなければならない。従って、生産者側で量販店向けの規格の花を生産・出荷したり、加工業者が枝を欠いてそれを担ったり、また、先述したボリューム感を出したり、花持ちを良くしていくことが大切となる。更に、スーパーの消費者は環境問題にも敏感な方がいらっしゃる。例えば有機栽培の商品が選ばれるのもそうだ。花も、鮮度や品質保証、労働環境等の認証機関であるMPSという、グローバルGAPと同じ価値のある認証機構がある。MPS認証の商品をアピールしながら取り扱うことも大切だ。

 以上お伝えしたことを加速させてやっていかないと、花き業界はしぼんでしまうリスクが大変高いと大田花きの社長として危惧しているので、会社もそこに力点を置くし、花き業界の方々にも真剣に考えていただきたい。そして最後に、「リミックス※2」という言葉をご存じだろうか。元々は音楽用語であったが、今では普通に使われる言葉になりつつある。特にリミックスはミレニアル世代、Z世代へ商品提供する時に欠かせない。チース、スイートピー、あるいは、チューリップ。先端的にはテッポウユリ、ラッパ水仙等のものが、リミックス=今風に色合いを整えて出てきて人気となっている。ただ単のレトロとは少し違うところがポイントだ。一般的にヒットする商品は、親和性(心理学でいう「アンカリング」だ)、そしてちょっと変わったものである新規性、この2つを要素に新しい商品群が作られてきた。半歩早い、一歩早いものが売れ筋。こういう風に言われてきた。しかし、自然や社会性等、新しい時代が始まっていることも事実で、その中をリミックス、もう一度1980年代を中心にした、または1995年までを中心にしたものでリミックスしていく。流行らせていく。これが新しく割高感を感じさせないものになっていくと思われる。是非、この観点を覚えていただきながら仕事のやり方、流通させるものを変えていくことをお願いしたい。

 日本の花き業界は、20世紀末に達成した6,000億円の取り扱い金額を、2027年横浜国際花博に向けても達成する道筋を今創っていく。この努力を業界全体でやっていくのが、この2022年度の新年度である。

※1 ビタミンF
花やグリーンの持つ効果を「ビタミンF」として紹介し、花の力をPRした。
参考:日本花き振興協議会HP「ビタミンF」

※2 リミックス
過去に流行したものを、新しい感覚で再構築したもの。



投稿者 磯村信夫 19:11