社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

[]

2020年09月21日

市場人だから言うのではないが、『卸売市場を通さないため、鮮度が高く、低価格で買える場合が多い』という論調があるので申し上げます。卸売市場流通は「合理的」です。卸売市場で働く皆さん、もっと積極的に活躍の範囲を広げてください。


 8月下旬から切花の市況は低迷し、9月に入っても同様の傾向だった。それが先週から打って変わって高値が続いている。本日21日、「敬老の日」のセリも概ね堅調だ。小売はよく売れ、絶対量が足りていない。しかし、久しぶりの高値になってはいるが、トータルの取扱い金額は前年を下回っており、イベントや結婚式、葬式等の需要が少ないことは、花き業界全体に大きな影響を及ぼしている。一方、個人需要はしっかりあり、例えば私の自宅そばの花店はよく売れており、近くのスーパーの花売り場も、売上はかなり伸びているようだ。郊外型のホームセンターも園芸、切り花とも売上が拡大している。今後とも個人需要については、一般の生活者へ直接訴えかけることの必要性を花き業界関係者は感じている。  

 かつてはリアル店舗が“オールドビジネス”、ネットビジネスが“ニュービジネス”と言われていたが、今はもう、“リアルもネットも混合型”が基本になってきている。どのように生活者へ訴えかけるかだ。それは、ユニクロや西松屋等、SPA(製造小売)の生産から販売まで一気通貫して行っている企業の収益性が高いことでも分かる。SPAのビジネスモデルの会社は、生活者の欲しいものを、仮説を立てて販売、製造しているので、値下げのタイミングも早いし、新商品のタイミングも的確だ。コンビニでいえば、セブンイレブンが他のコンビニチェーンよりも日販で10万円多く売っているのも、セブンイレブンの商品開発力、そして、SPAに近い、殆どジャストインタイムの生産方式によるものだ。つまり、大切なことは、分業化している業界でも、個々が直接生活者に訴えかける意識や仕組みである。生産から卸・仲卸、小売のサプライチェーンでも、あたかもD2Cのように、連携して取り組む必要がある。

 このコロナ禍で、高級品を生産している生産者は、肉から魚、青果・果物、花まで含めて困っていることが多い。直接、生活者に訴えかけて販売することも、SNSの時代には出来るので、それを奨励する動きがあるのも当然だし、コロナ禍での一時的な販売には良いかもしれない。しかし、それが「中間流通を入れたサプライチェーンよりも良い」というのは大きな間違いだ。生鮮食料品花き業界は、中小企業が協力し合ってサプライチェーンを形作っている。また、日持ちも限られ、天候の変動で生産出荷の場でも、そして、生活者の消費にも、大きく影響を受ける。しかも、縦長で気候の違いがある日本では、良いものを生産するためには、同品目でも産地リレーさせなければならない。生産から小売まで一気通貫でやるには、特別な知識等が必要だ。では、誰が産直をやれば良いか。いくつも新しい業者が出ているが、これはおそらく、漁協やJAグループ、卸売市場がオペレーションを行い「産直」をすることが、一番、産地にとっても生活者にとっても、小売にとっても、豊富で良いものをスピーディーに届けることが出来、手取りが多い流通システムであろう。これは今までも何度もお伝えしているが、中間を入れた方が、結局はコストが安く済むという「マーガレット・ホールの法則※1」と①市場で適切な価格水準を探り、取引相手を探す費用と時間、②取引相手と交渉し、合意するまでの費用と時間、③取引相手と合意内容を確認し、友好な契約をするための費用と時間、④取引相手が契約を履行するかどうか監視するための費用と時間、この4つを全て自社で出来るのであれば良いが、やりきれない規模の会社では、信頼できる中間流通を通した方が良いとする「ロナルド・コースの理論※2」の通りだ(それに今は、クレーム処理の費用と時間も入る)。現に大田花きには、直接、産直をやってみたが、必要な時とそうではない時の差、また、作業量等に苦戦して、「どうにか、卸・仲卸とチームを組んでこの仕事が出来ないか」という話がきている。今後、どこの卸売市場にもこのような話が多く出てくるだろう。

 市場流通も、市場外流通、産直でも、生活者が直接買いに行くでも、色々な流通があってしかるべきで、それは良い。しかし、それが「楽しい」という以外に、経済面を中心に考えるのであれば、流通の大宗を担うのは、園芸農産品ならJAか卸売市場が「産直」することだ。これが最もステークホルダーのみんなに利益が渡る方法なのだ。卸売市場抜きを実際やってみることは良い。ただ、『サステイナブル』な生鮮食料品流通とは違う。「中抜き流通」が良いとする今のコロナ禍での風潮に、苦言を申す次第である。  

 最後に、卸売市場は、卸売市場法改正により既に規制緩和されており、守られた業種ではない。一方で、卸売市場では、衛生管理違反のチェックは役人が行い、安全性を担保している。また、パワハラにより取引価格がゆがめられるのを防止するため、「差別的取扱いの禁止」や、市場法とセットになっている「食品流通構造改善促進法」で、不公正な取引がある場合は、調査・改善勧告の申し立てを農水省から公正取引委員会にスピーディーに通知することが出来る。今後は、卸売市場の良さを保ちつつも、もっと積極的に仕事の範囲を広げていかなければならない。そして、卸売市場がまだまだ出来ていないのが、生活者の声を(あるいはposデータに近い生データ)を産地に的確に届けることだ。また、生産者のことをもっと生活者に伝えることだ。この情報を共有する仕組みづくりが急務となっている。

※マーガレット・ホールの法則及びロナルド・コースの説明はこちら

投稿者 磯村信夫 16:42