社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2021年09月13日

専門店は、オムニチャネルはもちろんだが、店を魅力あるものにするのが生き残りの道だ


 先週の金曜日、大田花きでは、社外取締役と執行役が出席する経営会議がリモートで開催された。この会議にて、花き業界全体でも「この認識に立って仕事を進めていくべき」との前提が言下に示されていたので、そのことについて皆様にお伝えしたい。それは、今後の日本の小売が“3階層”に分かれていくこと、そして、世界の消費傾向を牽引しているのは、ミレニアル世代・Z世代であることだ。

 このコラムでも何度も記載しているが、新型コロナウイルスは生活を一変させた。日本はウイルスの変異が繰り返される中でも、今までのコロナとの共存で、経済活動が行えるよう、日常生活が取り戻せるよう、インフルエンザや風邪に近い処置にしていけるよう舵を切った。10年位かかるかもしれないと言われているが、それまでの間、少なくとも2023年まで、マスクの着用や、透明のパーテーションの設置で飛沫防止を行ったり、石鹸での手洗い、アルコール消毒を頻繁に行う等の防御策を講じながら、飲食や旅行業界でも、徐々に経済活動が進められるだろう。そしてそのコロナ禍によって進んだのが、DXによる産業革命だ。日本はこの対応とともに、少子高齢化・人口減により、働く人が、即ち、税金を納める人が少なくなっている。世界で初めてのこの難問にどう取り組むかの課題が並行して起きている。

 DX化に伴い、日本の小売業界は3つの階層に分かれる。1つが、Amazonやウォルマート、アリババ等の怪物企業だ。「ニューリテール」と呼ばれ、DXを実現させ、ゆりかごから墓場まで、モノだけでなく、金融や保険、なんでも生活者に必要なものを提供する。このニューリテール企業が、我々の生活の中の核を占めている。例えば、韓国のサムスングループ。サムスンをメーカーだけだと思ったらそれは間違いだ。サムスンの病院の裏には葬祭場があり、医療だけでなく、保険業務や亡くなった人の相続業務まで担う。カード決済社会なので、その人の全ての状況が分かり、一括で担ってくれるのだ。サムスンは既にニューリテールに変容してきている。DXを実現させた大企業が個々人のニーズを的確に捉え、商売の美味しい部分を取っていく仕組みだ。 

 2つ目の小売の在り方が、ニューリテール企業が核となった小売業界で、その外側に位置する「ニュープラットフォーマー」だ。ニューリテール企業だけでは困るという生活者の声を反映し、独自のプラットフォームを展開する。例えば最近話題になったところでは、阪急阪神百貨店等を傘下に持つエイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングだ。H2Oは関西スーパーを買収する。また、今のところセブン&アイ・ホールディングスは、ニュープラットフォーマーになろうとしているようだ。ニュープラットフォーマーは、自分たちのプラットフォームであらゆることが出来るよう、資本提携等を進めている。

  そして、ニューリテール企業とニュープラットフォーマーの一番外側にいるのが、その他の生活専門店だ。生花店もここに位置する。ニューリテール、ニュープラットフォーマーは、「時間」と「お金」を効率よく使う。その外側にいる小規模な専門店は(専門店でも、全国規模店、道州制の地域規模店、地元店と、規模によって分けられるが)、「ここで時間を使っても良い」、「お金を使っても良い」、「楽しい、充実した」と思ってもらえるような店づくりが欠かせない。ニューリテール企業と提携し、出店している生花店もあるだろう。もちろん、出店しても良いが手数料がかかる。従ってそれだけでなく、オムニチャネルでスマホからでも購入出来るようにしながらも、個店でも活躍出来るような独自性、魅力を出していく必要があるのだ。これが生き残りのポイントだ 。

 今まで日本の小売業界は、人口の多い団塊ジュニア以上を狙ったマーケティングを行ってきた。しかし今、世界はミレニアル世代、Z世代が消費の傾向を牽引している。地球温暖化対策やSDGsに重きがおかれるのもこの世代の影響によるものだ。今後、全ての企業が、あるいは、個人が生きる上で、これらの価値観がますます重要になっていくだろう。ニューリテール企業、ニュープラットフォーマー企業の外側で、ややもすると分が悪い商売をせざるを得ない専門店が売上を維持する、上げていくためにも、このミレニアル世代・Z世代の志向や価値観に合わせていく必要がある。ここに合わせれば、親世代である団塊ジュニアは当然乗ってくるだろう。また、ファッションや花の好みは、おばあちゃん、即ち、戦中派、団塊世代の人たちが若い頃好んでいたものが、ミレニアル・Z世代には1世代ジャンプしたものが新鮮に映って人気になっている。世代全体がリバイバルと捉えてくれる。1970年代から80年代の歌を今でもよく聞くように。

 繰り返しになるが、ニューリテール企業とニュープラットフォーマー企業は、DXで我々が生活していく上でのニーズを掴み、分の良い商売をしようとしている。その外にはみ出した我々専門の、特に小売店は、小さくても、あるいは扱う品数が少なくても、より生活者にとって魅力ある店づくりを行っていかなければならない。花き業界の強みは、花や緑のコンテンツは変わらないことだ。人はバラを「美しい」としてきた。これからもバラを美しいと思うだろうことは確証できる。これが強みだ。花き業界は、花や緑の色や香り、効能、あるいは、花もち等々、人の生活と関わっていくこの関係を科学的にも良く知り、人間と花との関係を深堀することによって、魅力ある店づくりが出来ると思われる。先週もお話したが、卸売市場もリテールサポートに徹し、生活者の属性と花の好み、TPOで使われる花々を明確にし、生産者に売れ筋を伝え、来年の作付けの参考にしていただく。サプライチェーンをバリューチェーンに、バリューチェーンをバリューサイクルに回していくのだ。DXでデータを蓄積し、この一連の作業を行わなければならないと思っている。このことが大田花きの経営会議でも確認され、進むべき道として示された。これは花き業界全体のことだと感じている。


投稿者 磯村信夫 15:48