社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2018年06月18日

子どもたちにも見て欲しい、東京2020オリンピック・パラリンピックでのビクトリーブーケ


 昨日、外出して家に帰る途中、家内と近所の商店街にある日本蕎麦屋さんで昼食をとった。その商店街には蕎麦屋が二軒あり、その内の評判の一軒に入った。お昼時なので店は繁盛していたが、ふと、お年寄りが多い中で、三組の団塊ジュニアの家族が来ているのに気付いた。若い人たちも日本蕎麦を食べるのだなと、珍しく感じた。というのも、普段、私が出入りしている立ち食い蕎麦屋から始まって、美味しい蕎麦屋さんの客層は、年配者ばかりだからだ。団塊ジュニアの人たちはイタリアンが多い。日本蕎麦屋はいよいよこれから立ち行かなくなると思っていたが、一定数はこれからも残ると安心した。

 日本の花の消費も、同様の構造がある。先週、㈱大田花き花の生活研究所は、大田花きグループの社員に対して警告を発した。2017年の一世帯あたりの切花支出金額を比べると、20代の消費金額を100%とした場合、30代は115%、40代が176%、50代が339%、60代が516%、70代が507%だ。まるで、我々が知っている日本蕎麦屋さんの客層のようではないか。

 団塊世代までは、お母さんは専業主婦であることが多かった。子どもの手が離れてからパートに行ったという人も多かっただろう。従って、家の習慣は大体子どもに引き継がれていた。それが、バブル世代、今の50代位になると、まず、子どもたちのお稽古事が本格化した。一家四人だったら、四人が別々に食事をするなんてことは珍しくなくなった。また、お母さんが専業主婦であっても、上手に家の風習や文化が引き継がれなくなっていった。そして、団塊ジュニア世代、今の40代は、結婚をしても、お子さんを生んでも働き続けることが、西洋やアジア諸国と同じように“普通”のこととなってきた。近所におじいちゃん、おばあちゃんがいれば、イタリアと同じように二世代で子どもを育てる。そして、伝統文化が持続するということはある。しかし、今の日本には、こういった恵まれた例は決して多くない。団塊世代や団塊ジュニアが子どもだった時に身に着けた習慣、例えば、誕生日の時に小さなプレゼントと花を持っていくことだったり、卒業式の時に在校生から花をプレゼントしてもらうことだったり、こういった花を貰う喜び、贈る喜び。また、おじいちゃんおばあちゃんのいる田舎に行って自然と親しむことだったり、学校で朝顔以外の植物を育てたり、ヒヤシンスの水耕栽培をしてみたり等、様々な「花育」が、途切れてしまった感じがする。そこで、花き文化が国民の心豊かな生活の実現に重要な役割を持つと考えた国の方針である、「花き振興法」が2014年に成立した。花き業界は予算を頂きながら、日本中で花育活動をした。幼稚園や小学校で花育を行い、予算を頂けなかった地域も、自分たちで行ったりしている。

 現代は家族みんなが忙しい。両親が意識して花の素晴らしさを子どもたちに教えない限り、花文化は伝わらなくなってきている。そこで、花き業界は、オリンピック・パラリンピックにビクトリーブーケを提供したいと考えている。その競技の頂点に立った人に対して、メダルだけでなく花で祝福する。もちろん、「花で人を祝福したい、賞賛したい」という、人間が本来持っている気持ちからもあるが、特に子どもたち、若い人たちに、ビクトリーブーケをもらった選手の晴れやかな笑顔を見てもらいたい。「Say it with flowers.」(言葉に出来ない想いの丈を花に託す。)これを子どもたちに感じてもらい、自分の生活の中でも実行してもらいたいのだ。そうすれば、子どもたちは花に親しみ、世界からも「日本人は品格が高い民族だ」と言われるだろう。言われるためではないが、人間が本来持っている、この善意というか、「真善美」、これと共に生きていってもらいたい。オリパラの選手たちを、大会そのものを、花と緑でより思い出深いものにし、花や緑の役どころを知ってもらいたいというのが、花に携わる者の願いである。




投稿者 磯村信夫 14:56