社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2019年09月02日

変化の足音


 運賃の高騰で、大分のある生産者が東京まで出荷出来ず、福岡の(株)九州大田花きと取り組むことになった。(株)九州大田花きが設立された当時の卸売市場法では、卸は商物分離が出来なかった。大田市場の買参権は東京都が付与するが、九州内の結婚式の花を手がける大手にとって、大田花きで九州の花を購入し、運賃をかけて福岡に運びこむのは時間とコストの無駄だった。そこで、福岡の飛行場から東京に空輸するもの、福岡の花きトラックターミナルから東京に運送するものについては、(株)九州大田花きから貰った方が効率的だ。この理由から、商物分離をするための子会社として、場外卸の(株)九州大田花きが設立された。また、(株)九州大田花きのもう一つの目的として、「九州の生活者に、そして東京の生活者にも九州の花を供給して満足してもらいたい」。この想いがある。九州は消費される花の量より生産される量の方が多い。九州内は農協市場が多いから、周年を通して、生産者は自分が属している農協市場に出荷する。周年出荷する位だから、当然、生産者はレベルの高い技術を持ち、品質の良い花が出荷される。これらの花がそれぞれの地域市場に集まるが、時期によって供給過多になる花、反対に足りない花が出てくる。そこで(株)九州大田花きも購入させてもらい、生産者に「花を作っていて良かった」と思ってもらう。そして、その花が不足している他府県の市場に出荷したり、東京にも出荷する。これが主たる目的で運営されている。

 先述した通りに運営されている(株)九州大田花きであるが、今、中間流通業者として岐路に立たされている。2020年に施行される改正卸売市場方法では、卸売会社でも商物分離の流通が可能となるからだ。この時、どのように九州の各市場と協業し、生産者と地域の生活者、その手前の各業態の小売店に役立っていけるだろうか。これを再考する必要がある。
 
 花は、消費者の元に届けられた時、すなわち「生活者がお金を払おうと思った」時に初めて価値が認められたことになる。これは花が生活者に届くまでのサプライチェーンでも同様だ。花き業界を構成する種苗会社、生産者、農協などの組織、運送会社、卸・仲卸の卸売市場、小売業者は皆、花を買ってくれた生活者のお金で生活をさせてもらっている。生活者に購入してもらい、「素晴らしい花だ」と認められて初めて、自分たちが行ってきた業界全体のサービスも価値あるものと判断されるのだ 。

 農林水産省の「花きの現状について(平成31年4月)」P12によると、花きの小売価格に占める経費割合・各自の取り分は、小売が48.1%、卸・仲卸が11%、集出荷・運送経費で8.6%、そして生産者受取価格が32.2%だそうだ。日本式の卸売市場(卸・仲卸)が無い国では、量販店が直接仲卸のような調達部門を運営しており、生産者受取価格が3割を切ることも多い。この農林水産省の調査が正しいとすれば、天候によって絶えず時価に幅のある生鮮食料品花きの生産者、農協を中心とした産地の集出荷所、消費地の集出荷所としての卸売市場は、各自粗利は低いが、長期的にやっていけるのではないか。その為にも、長期的なスパンで、これまでのサプライチェーンを予対相対や生活者が欲しくなる花を買える値段で供給する“バリューチェーン化”にすることが必要だ。すなわち、花や緑を生活者に購入してもらい、素敵な生活を届けることを考えるのだ。

 改正卸売市場法と各県の条例との調整が最終段階に入っている中で、地方自治体によっては、卸売市場行政との関わりが少なくなってしまうのではないかと、懸念するところもある。例えば、改正卸売市場法下では、市場運営の指定管理者制度で、地方自治体は開設者になっても場内業者をはじめとする民間業者に運営を任せたいと考えているのだ。(株)九州大田花きから商物分離の役目が無くなっても、重要な役目が残るのであれば存続する意義があろう。無ければ閉鎖になるだけだ。中間流通業者はサプライチェーンの中でぶら下がって自分が食べるためにあるのではない。あくまでも、生産者とその地域の生活者、そして彼らに花を届ける小売店、ここが主役、準主役となって、花きサプライチェーンの中のそれぞれがwell being、良く生きる道を模索しなければならない。


投稿者 磯村信夫 15:40