社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2023年01月09日

周回遅れでも構わないが新しくあることを目指さないといけない


 花市場は今日から平常の動きとなる。年末年始の間、休みを利用しテレビを見たり本を読んだり外に出たりして気付いた事を申し上げたい。

 ひとつは、年末年始の繁華街での賑わいに関してで、新聞によると都心部では2019年並みに戻らず2割減だったというがそれはそれは混み合っていた。繁華街ではないが羽田空港へのモノレールや羽田空港では大混雑と言ってよいほど人がいっぱい。それも小さなお子さんを連れている人が多く、会社の人によると手荷物検査で待たされる時間が30分どころではなく大変なことであったという。昨日行ったリゾートホテルでの混雑ぶりも大変なもので、特に若い人たちがとても多くやはり小さな子や赤ちゃん連れの人達が多いのに驚いた。朝食の時などは、若い父親が子供を抱っこしてテーブルで食事をし、母親は隣に座って美味しそうに食べている。休日など乳母車を押すのはご主人の役割というのは今や当たり前だが、まさに子供を2人で育てるというものである。ある席ではお爺ちゃんお婆ちゃんも一緒に来ていたので一家で育てる、という形が実現されていた。子供が生まれてもダブルインカムで今後共やっていく人たちはいよいよたくさん出て来て、早く農業者の間でもこの当たり前が定着していってくれればいいと思った。

 用事があって横浜で中華街に出向いた時、こちらも若い人たちでいっぱい、大変な混み様。2人や家族でいることを楽しんでいるのだろう、ながーい列も平気で並んでいる。食べに来ているのではない、一緒に居るのが楽しい、思い出作り、話題作りでここにいるとしか思えない。僕は行きつけの店で赤いアヒルを買って家に帰ったが、どうもそんな目的だけでここにきている人は本当に少ない様だ。紅白歌合戦を見ていても花き業界で出荷されている花は、紅白歌合戦が目標にしている聴視者が求める2周遅れくらいの品物が比率的に多い。都心の繁華街や人気の関東地方のリゾートホテル、或いは横浜中華街をみて考えてみれば当たり前だが、これらは紅白歌合戦が狙っている聴視者が求める“モノ”“コト”“トキ”“イミ”“エモ”の更に1周先を行っている、そうじゃないとこれだけ若い人を呼び込めない。

 花の仕事の難しさであり、ある意味で楽な点だが、菊は中国を最初に統一した秦の始皇帝の頃からずっと今まで商売になり続けている。バラなどはギリシャローマの時代からである。いろんな木々だってそうだ。だから敢えて変える必要はないものもいっぱいある。年末にフランスのエリートを育てる学校の「グランゼコールの教科書」(翻訳本:プレジデント社)を読んでいた。その中の635ページに日本の事が書かれており、神道は日本人の体の中に沁み込んであたかもDNA化しているひとつの宗教である、と教えている様だ。神道が芸術や文化的活動に大きな影響を与えていて、能、相撲、禊(ミソギ)、華道などが脈々と続いているという。例として華道については、空、人間、大地、という3要素に基づいて花の組み合わせを行うことであり神道に強く影響を受けている花の生け方、花生けであると教えている。いけばなは、いけばな総本家ともいわれる池坊流は聖徳太子のつくった六角堂で小野妹子が太子を偲んで花を立てたところから始まったため、仏教から影響を受けてできたものであると考えていた。今でも池坊だけでなく各流派の家元はお坊さんであることも多い。この様に思っていたら、いや、このフランスのグランゼコールではそれとは違った教え方をしていた。それ故花は伝統的なものがあって良いだろう。しかし、人間が変わらないのと同じように日本人も伝統の中で生きているから変わらないが、禊をし、新年になり、そこで生けられる花は、新しく今を体現していなければならない。現代は、禊がそうである通り、菊やバラはもちろん少し前のものも今のものも良いがしかし、伝統を続けて行くためには伊勢神宮と同様いつも一番新しいものを捧げなければならない。或いは我々花き業界人からすると生産流通販売に於いて、新鮮、新しい品種を取り扱うことが優先される仕事である。今や更に進んで未来を体現したものを中心に取り扱う、そして昔からの品種やら形やら花や花木も良しとする、こうあるべきではないか、と考える。伝統的なものや会社やその品目が長続きするためには、羊羹の虎屋さんではないがいつも一番新しいものを、つくっていく、形は変わらないけれど中身は一番新しいもの、良いもの、更に良いものを、良い素材を使いつくりあげていく、こういったことが必要なのだと思う。その視点から見ると我々花き業界は甘えていて、新しいものに取り組む姿勢、もっと良いものを作り流通させ使ってもらおうとする今の消費者に対する取り組みの姿勢が欠けている。日本の花き業界はもっとアメリカのGAFAMの様に、新しいものに取り組んで結果を出していかなければならない、と考えている。




投稿者 磯村信夫  15:21