社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2019年10月21日

卸売市場の繁栄は、信用=クリーンさ


 改正卸売市場法の施行に向け、現在、各都道府県で条例案が審議されている。東京都においては、新法に呼応して規制緩和の方向性を打ち出している。規制緩和で廃止される条例の中には、現に実態が先行した有名無実のものも多々あるので、トータルでは規制緩和は正しい方向性だと思う。しかし、「何でもあり」で悪用されれば、出荷者と消費者に迷惑をかけてしまう。そこで、本日はチェックポイントを確認したい。

 東京都中央卸売市場の場合、開設者である東京都が売買参加者の承認を行う。承認基準は①今まで売買参加者の承認の取消しを受けたことの無い者。②卸売の相手方として必要な資力、信用、知識、経験を有する者。③暴力団関係者でないこと。この3つの点である。また、改正卸売市場法によって業者が求められる活動として、インターネットの利用、その他適切な方法で次のことを公表しなければならないとしている。営業日・営業時間、取扱品目、物品の引き渡し方法、委託手数料、出荷者または買受人が負担する費用、支払期日・支払方法、奨励金等である。これらは業者の判断に任せられる。従って、「業者ごとに当然違っていて良い」ということだ。各卸は「このような利便性がある」とアピールすることになる。更に、取引参加者は契約等で定めた支払期日までに買受代金を支払わなければならないと法で定められている。
 
 次に、東京都の条例では、業者の活動ルールが変わる。基本的に規制が緩和される方向なので、廃止されるものを挙げる。まず、①「セリ物品を相対取引とする場合の開設者、あるいは、取引委員会等での承認」が必要でなくなる。1号物品、2号物品といった区分があるが、これも有名無実となっており、廃止されるのは当然だ。同様に②「売買取引の単位」も決められていたが、これも廃止される。大田花きであれば、一ケースが取引単位だが、青果などは1パレットのロットのものもある。また、品薄の時には、既に中央卸売市場花き部の一部では、1ケースをバラして販売することがある。これも実態が先行してしまっている条例だった。条例で決めずに業者が決めれば良いこととしている。次に、③「受託品の即日上場」をしなくてもよくなる。花き市場の場合、切花・鉢物等を「花き」として取り扱うが、月・水・金を切花市、火・木・土を鉢物市として、1日ごとに行なっている花き市場では、鉢物の受託品が日・火・木の午後入荷したとしても、翌日は切り花のせりなので翌々日販売にしている。実態が先行しているのだ。条例違反と誤解されて困っていた訳だから、「受託物品の即日上場」が廃止されて良かったといえよう。さて、ここで問題だ。「受託物品の即日上場」が廃止されれば、入荷量が多すぎた時に、何日かに分けて販売し、相場を作ることも自由になる。しかし、物品の鮮度が落ちるとなれば、荷主は、そして、買い手はどう思うだろうか。冷蔵庫に入れておけば良いというものではない。荷主の承諾や入荷日の表示が必要なのではないだろうか。ここをチェックする必要がある。④「物品の上場順位」も条例で指定されていたものだが、これも廃止される。花もそうだが、到着順ではなく品物を並べ替えて良いものから売られるべきだ。更に⑤「予約相対取引」についても、現在は知事の承認が必要だが、廃止されることになる。今までも届けは出していたが、これだけ予約相対が多くなった現在、事前承認を求めなくてよいことはスムーズな取引に繋がる。ついで、⑥「再上場の禁止」も無くなる。注意すべきは、再上場した時にあたかも即日上場されたように間違った印象を買い手に与えてはならないことだ。どのような理由で再上場したのか、明確な説明が求められる。⑦「卸の自己買受の禁止」も無くなる。委託品を卸が仕切って自社で販売し、差益や差損は自社の責任とするものだ。産地は、買付販売だと、出荷奨励金の対象でないから、委託だが指値をして出荷し、奨励金ももらおうとする。委託品だからそこで買い付けが出来ないのが今までなので、今度はこれが外れると、すなわち、自己買受できるようになると、産地への足し前は出来るようになる。しかし、こういうことも起こりうる。気のいい産地のものを自己買受で安く仕切り、高く再販して利ざやを稼ぐ。会社ぐるみであったり、個人の懐に入れる為であったりする。ここはかなりチェックが必要だ。内部監査の必要性を特に強調していきたい。

  さらに問題にしたいのは、⑧「卸売代金の変更の禁止」が廃止されることだ。現実問題として上述してきたような形が散見されているが、商法上、許される範囲内のことであれば、変更を認めて良いと思う。しかし、内部なのか、開設者なのか、とにかく不正が起こらないようにしないといけない。正当な理由からの取引であるか否か、これもチェックシステムが重要だ。最後に⑨「委託手数料以外の報酬の収受の禁止」が廃止される。単身・二人世帯が増え、女性も働くようになった現代、「すぐ食べられる」、「すぐに飾ることが出来る」商品が生活には欠かせないものとなっている。その結果、卸売市場は消費者や、あるいは、加工業者の手間を省くこと、すなわち、付加価値をつけて流通・販売することが必要になる。従って、「委託販売手数料以外の報酬の収受の禁止」が無くなることは至極当然だ。また、卸・仲卸の「卸売代金の変更の禁止」が無くなっていくことも自然な流れと言えよう。

  申し上げたいのは、これらの条例が廃止されることで、各卸売業者、開設者は、粉飾が起きないよう、また、不当表示で品物を販売することが起きないように、日頃から目を光らせておかなければならないことだ。生鮮品流通の大宗である卸売市場は、衛生管理を徹底していなければならない。その衛生管理問題と同じくらい、卸売市場ではクリーンな取引がされるようにチェックしていかなければならないのだ。需給バランスではなく力関係で決まることが出てきた卸売市場流通において、将来、市場流通を繁栄させるために、健全でクリーンな取引、卸売市場のわかりやすい流通上の付加価値付けが必要である。機能としては、盤石なものがある訳だから、あとは、クリーンさだけである。  
   
投稿者 磯村信夫 16:40