社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2019年09月16日

卸売市場の存在意義と実現すべきことを考える。


 花き産業にとっても重要な生産拠点である千葉県が、台風15号で生活の危機に陥っています。農林水産業の被害推定は12日時点で200億円弱と出ているものの、今後を考えると花き産業だけでもそんな少ない数値ではありません。連絡が取れた取引先では、これを機に生産を辞めると仰る、ご高齢の生産者の方もいらっしゃいました。こうしたことも考慮しますと、花き産業だけでもその数倍にも及ぶ損害があるのではないかと思うほどです。それ位、千葉県は花き産業にとって今後とも重要な地域です。本当にお見舞い申し上げます。今後、花き産業の未来を一緒に創っていくことを、千葉県の生産者の皆さんとやっていきたいと思います。

 さて、ここのところ、地元・大森の街を見渡しながら心に思うことがありました。それは、今の野菜や花で流通しているものは、本当に消費者が欲しいと思っているものなのだろうか。口では「マーケットイン」と言っていますが、マーケティングをして人に合わせると、「同質化の罠」に陥ってしまいます。人の役に立つことはビジネスの基本です。マーケティング以上に大切なのは「自分が何をやりたいか」という夢や実現したい事、また、「自分の存在意義は何か」を問う事なのではないでしょうか。こう考えたのです。
 
 20世紀後半から21世紀になって最初の10年間は、モノやサービスありきのプロダクトアウトでもなく、顧客ニーズにもとづいたマーケットインでもありませんでした。実際は、生産者と消費者の間を司る流通機構やメディアが、モノとコトの消費を規定してきたと思われます。具体的には、一般大衆に向けて大量に生産し、それをメディアで宣伝し、流通に乗せて売り切る。このやり方で、大手企業ほど有利な状況でした。この時までは野菜や花の分野でも、消費者に1番多く量を食べられる野菜、飾られる花を作っている大産地と、大手の小売店と取引する卸売市場が、他のビジネス界と同様、スケールメリットを得ることができました。卸売市場という流通機構が、野菜や花の種類、規格を規定してきたのです。

 しかし、特に2010年以降からこの状況が変わっていきました。1つはICTの発展です。例えば、マスのメリットが出ないような希少品でも揃える、「ロングテール」と言われるネット販売の手法です。ネットでユーザーの属性が分かると、本であれば「この本を読んでいる人はこの本も読んでいます」とリコメンドが入る。旅行にしても、レストランにしても、自分のパソコンで検索しただけで、その関連の広告記事がババっと入ってくる。ニッチでユニークなモノやコトでも上手に販売できるような時代になってきたのです。その結果、きめ細やかな商品を、地域を乗り越えて配送出来る大企業が、流通業者として、また、メディア、広告業者として、成り立つことになります。代表的なのはGAFAと呼ばれる企業でしょう。従って、今までメディアと流通業者が規定していたモノやサービスが新しい大手に移ろうとしている訳ですから、当然に既存のプラットフォームビジネスである卸売業者は、これまでの仕事だけではなく、新しい考え方で仕事をしていかなければなりません。  

 2つ目に変わったことは、今回の台風15号のようなよっぽどの天災が無い限り、大体の既存品は既に潤沢に供給され、満たされてしまっていることです。提供されるモノやコトはマーケティングした結果のものが多く、みんな似たり寄ったりで所謂「同質化の罠」にハマっています。その結果、当たり前のものでは、価格競争になってしまうのです。モノやコトの商品だけでなく、卸売市場もこれは同様です。それぞれの市場で差別化することが出来なくなっており、存在意義そのものが問われることになりました。 

 では、私が属する卸売市場業界は、集荷・販売を通じて結局価格競争になり、未来は廃業となるのでしょうか。そうならないようにするには、日本中の卸売市場はどうすれば良いのでしょうか。それは、地元独自の食文化や花飾り文化の発信基地として、その素材を提供(集荷・販売)することではないでしょうか。それぞれの地域において、卸売市場のお役立ち機能は一緒です。しかし、文化的背景からは明らかに提供するモノやサービスは異なります。地元を一番知っているのは、そして地元を愛しているのは地元の卸売市場でしょう。そして、卸売市場も新幹線や高速道路のようにネットワークを敷くのです。まずは産地や小売店と組む。そして市場同士も組む。同じことを同じようにやるだけでは大きなところが強くなってしまいます。それでは多様性が無くなり、地域の人たちの生活は満足のいくものになりません。地域の人たちに「ここで生活していて良かった」と思ってもらえるモノやサービスを提供することが必要です。それが、卸売市場の存在意義ではないかと、大森の街並みを見ながら思いました。 

 更に、もう一つ重要なことは、マーケティングをして「同質化の罠」にハマるより、自分が「こういう夢があるからこれで行く!」という目標に向けての実現や、「自分の存在意義はこれだ」ということに向けて未来を創っていくことです。これは卸売市場だけでなく、生産者や系統農協もそうです。また、小売店もそうです。この意識が必要なのではないでしょうか。 


投稿者 磯村信夫 14:52