社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

[]

2017年03月13日

働き方改革において、卸売市場はこのままで大丈夫なのか


 生産団体の祝賀会等で、青果市場の方々とご一緒することがある。その席で最近、話題に挙がるのは、政府が働き方改革を行っている中で、今後どのように採算を合わせ、社員を採用していくかという問題である。

 もう二十年も前になるが、オランダのデンハーグのすぐ側で切花生産をしている農場では、月曜から金曜までのタイムカードとは別に、内緒で土曜日に別の名前のタイムカードで仕事をしてもらっているのを見たことがある。オランダでは同一労働同一賃金の法制がある等、働く人の立場に立った法制が完備されている。約二十年前、新しい労働法制が敷かれた時、私が先述した家族経営の農家は、ちょっとズルしてこの労働法制に対応した訳だ。この頃から、オランダは“人的コスト”に対して厳しく管理していた。

 日本の花き生産者やセリの買い手である花屋さんの大多数は、「今日は作る日、今日は出荷する日」の生産者と、「今日は市場へ仕入れに行く日、今日は店で配達やその他の業務をする日」の花屋さんで、いつの間にか切花の市が月・水・金の一日置きになってしまった。その為、鉢物の市が火・木・土に行われるようになった。一方、中間流通の系統農協や卸売市場、物流を担当する運送会社は、会社組織の為、主として切花を扱っている業者が多い日本では、一週間の食い扶持を三日で稼がなければならならない。生産量、消費量とも増えていた時は、休日手当や深夜残業等を従業員に払っても、利益が少なかっただけで損はしなかった。しかし、21世紀に入ると、生産量は減り、口数はあまり変わらないが、一取引の入り本数や鉢数が少なくなって、フレックスタイムや変形時間労働制を用いてみても、ペイすることが難しくなってしまった。

 一月あたりの残業上限が設定され、同一労働同一賃金へ向けての法整備が行われようとしている。今後、年金の支給年齢が更に引き上げられることも十分に想定される。高齢になったから「もう子育ては終わったでしょう」と、賃金をがくんと下げるという訳にはいかなくなるのだ。労働問題をどうするか。特に、人手不足感が強く、運営コストがさらに高くなることが予想される物流業者には深刻な問題だ。

 卸売市場は、生鮮食料品花きにおいて、まさに社会インフラである。現在、国産野菜の約9割、花きは輸入品まで含め、約8割が卸売市場を利用している。農業改革で、生産者が直接消費者へ販売、また、全農が買取販売することが起こったとして、今これだけ役立っている卸売市場を利用せず、別のコストをかけて果たしてペイするのだろうか。生産者は手取りが増えるのか。また、買い手は同じ品質のものを、今までと同じ値段で売ることが出来るのか。新しい農政の中で生産者と消費者にとって一番良い流通形態を今後探っていくことになる。

 卸売市場にとって、新しい競争変化とともに労働問題は真剣に取り組まなければならない課題だ。働き方改革、人手不足もあり、運営コストはさらに高くなっていく中で、今迄と同じやり方はもう出来ない。農業改革、働き方改革が進んでいる今こそ、各社の真価が問われるときである。



投稿者 磯村信夫 : 15:12