社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2021年07月19日

他者感覚を磨く。


 南アフリカで起きた暴動が、一週間あまり経って沈静化の方向に向かいつつあるということで、ほっとしている。あれだけ貧富の差が大きいと、社会を運営していくことは本当に大変だと思う。

 大田花きの取締役だった、(株)サカタのタネの元専務、故岩佐氏は、よく南アフリカのことを話してくれていた。また、商社から大田花きに入社してもらい、「卸売市場の卸に、商社の血を」という私の希望を叶えてくれた、故磯村雄三氏も、まだアパレルヘイトのあった時代に南アフリカに駐在していたことがあり、南アフリカのことを良く話してくれていた。従って、私は南アフリカに行ったことは無いが、南アフリカに強い関心を持ってニュースを見ていた。今でも、ネイティブフラワーを輸入している輸入商社の皆さんに、花の生産地域だけでなく、南アフリカ全域のことについて、機会があれば伺っている。  

 南アフリカ程ではないが、日本にも格差・貧困がある。これを是正していかなければ、教育が行き届かず、プアの人はプアのまま一生を終えるということが多くなってしまう。以前、このコラムでも紹介したが、日本は「子どもが親世代の階層を超える国」ランキングで、世界10位以内に入っている。アメリカンドリームのような、世界に比べて成り上りやすい国なのだ。それにもかかわらず、このコロナ禍でまた格差が広がり、ワーキングプアの人たちが増えている。自殺者も増えている。貧しい家庭で生まれて、生活のために十分な教育が受けられないとすると、それは子どもの所為ではなく、社会、環境の所為だ。これを自己責任としてしまうと、貧困生活から抜け出せず、うつ病にもなりやすい。貧困とうつ病は相関関係がある。自己責任ではないのだ。たまたまその家庭に生まれ、たまたまその学校に入り、たまたまその会社に入った等々、あらゆることに偶然の要素がある。結婚にしても、日頃の生活にしても、たまたまの連続だ。その子の持っている可能性の蓋が開く時、そこにご両親や、あるいは、保育園や近所の人やら、小学校等で分け隔てなくその子を教育し、エンカレッジしてもらいたい。もう一つ、上位層はもちろんのこと、一番多い所得層の中産階級世帯も、税金を多く支払っていいただき、日本は高齢化社会なのでどうしても高齢者対策に目が行きがちだが、若者への優遇税制をしてもらいたいと思う。人間は55歳になると、そろそろ色々なところにガタがきはじめる。人生100年時代は悪くないが、医療費がかさむ。若い人たちの負担が多くなり、ワーキングプアが増える。このような悪循環では仕方がない。  

 上記を行うのに必要なことは、「他者感覚」を磨くことだ。他人なので我がことのように思える筈がないが、しかし、それでも我がことのように思うよう努力するのだ。想像することを習慣づけるのだ。無私の精神で自身を抑える努力は、他の国家や民族より、日本人は秀でている部分だと思う。積極的に不平等や格差、貧困をなくそうとする意欲と、恵まれない人たちを自分がどうにかしようとする気持ちが不可欠だ。昨今、お涙頂戴的にフードロスや、フラワーロスなどを個人の売名行為で使う疑いを感じる人たちが出てきた。陰徳を積むということが日本の素晴らしさではなかったか。もう一度考え直してほしい。花き業界は、切り花であればバラと一輪菊の生産者が今までよりも所得が少なくなり、どうしたら良いのか、答えを見いだせないでいる。鉢物においては、シクラメンやポインセチア、ファレノを除く洋ランの生産者も同様だ。業界全体というと無責任になるので、少なくとも、その生産者と取引している市場の人間は、我がこととして悩み、どうしたら生産者が繁盛するかを考える必要がある。後継者で悩んでいる小売店についてもだ。他者感覚を磨くこと。自分自身がいつも悲劇の中心人物などと思わないこと。世界を見れば、日本はそんなに困っている人は多くないはずだ。業界の中で格差を作らない、貧困を作らない。まずそこからやっていくことは我々の義務である。生産者と小売業者は、花き業界のサプライチェーンの仲間として同じ思いで苦労しようではないか。  

  


投稿者 磯村信夫 16:03