社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2017年12月18日

今年の千両市で感じた、農業の大変さと卸売市場の存在意義


 17日(日)は千両市だった。今年は10月の長雨による日照不足、台風の影響により、千両の産地は、質・量ともにダメージを受けた。特に、千両の本場・茨城県波崎の大手生産者の圃場では、塩害で葉の先が黒くなってしまう品質劣化が起こってしまい、選別に大変ご苦労なさっていた。私ども大田花きでは、セリ取引・セリ前取引ともに丁寧に販売したものの、建値となるその方の相場は下がってしまった。今年のノーベル経済学賞、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授(行動経済学)の理論の内、「損失回避」という心理からだ。

 今年の千両市は、日本で圧倒的なシェアを誇る茨城県波崎の千両のうち、日本中の市場で「この人の千両が最も素晴らしい」と評される生産者の品質が劣ったため、日本中の千両の相場が乱調となった。

 卸売市場として、被害に遭われた茨城県波崎の生産者の皆さまのことを想うと、また、相場の影響を受けた千両生産者のことを想うと、大変申し訳ない気持ちでいっぱいだ。それとは別に、卸売市場流通について思った。これがもし卸売市場が無かった時、小売店を通じ、お正月に花を楽しむ生活者へ、千両をお届けすることは出来ないのではないかと。今回のように塩害で葉が痛んだ千両は、契約していた場合、値段を下げたとしても、小売店ないし、花束加工業者に契約量全てを引き取ってもらえるだろうか。買い手は、塩害の無かった生産者の所で間に合わせようとするのではないだろうか。結局、葉の先が黒くなった千両は全て売れない可能性が高い。生産者は、正月間際まで在庫を持たざるを得ない。あるいは、焦ってもっと安く売らざるを得ない。そして、市中では小売値が店によって違うので、「千両は安いのかもしれない?輸入品も出回るようになったのか?」と、消費者が思ってしまうのではないか。こうなると、来年以降の小売価格に大きな影響を与えるだろう。こうなる前に、大手の荷主さんは、葉が痛んだ千両は、選別していても捨ててしまうだろう。

 天候により、質・量の作柄が異なり、痛みやすい生鮮食料品花きにとって、差別的取り扱いの禁止、受託拒否の禁止、支払の早期化、そして、何よりも、取引価格や手数料の明確化、卸売市場の二重仕切の罰則等、市場法を通じてルール化された卸売市場が、サプライチェーンの一つの要所として機能することが必要だ。そして、この中には、卸・仲卸のプロとしての見識と目利きの判断、店頭で、或いは、納め先で、今年の塩害による葉先の黒さをよく説明し、生活者に納得してもらうことを仕事とするプロとしての小売店の責任ある販売態度。ここまで含めて、卸売市場業者としての責任がある。生鮮食料品花きというコンテンツは、ICTやIOT、AI等では置き換えることが出来ない。そして、「目利き」も同様だ。代わって判断することが難しい。よって、目利きの集まりである市場は、“疾風に勁草を知る”ではないが、いざとなったときに更に役立つ。日本に卸売市場があることで、農業者は安心して農業に専念出来、各需要を持った買い手は、安心して取引出来ると確信した次第である。自然の恵みである農業の難しさと、卸売市場の意義とやりがいを強く感じた2017年の千両市であった。

投稿者 磯村信夫 : 15:50