社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2017年10月16日

不正は日産、神戸製鋼だけか


 神戸製鋼や、その前の日産の不正事件は目に余るものがある。どちらも株式公開会社であるにも関わらず、内部監査の役割、社員の法令順守の精神、さらに、それ以前の「嘘をつかない」という、人として当たり前のことが出来ていないのだ。性善説でやってきた、なあなあの業界内・社内のゆがみが、日本社会のあらゆるところに出てきている。日本人は約束を守る、組織に仕えるという意識(ガバナビリティ)が優れているということが、無くなっていることを示している。

 私はこういった問題が出た時、パイロットの叔父が言っていたことを思い出す。それは、ヨーロッパへ行く時に、飛行機がまだアンカレッジ空港を経由していた頃のことだ。叔父の趣味は魚釣りで、その日もアラスカの川でサーモンを釣っていた。その年は季節が遅かったらしく、キャッチ&リリースのリリースをしなければならない大きさのサーモンが多かったそうだ。上手く釣れないし、小ぶりのものも多かったので、叔父は小さいものも持って帰りたいという意識が強かった。そんな時、叔父の側で釣りをしていた親子がサーモンを釣った。叔父が見るに、「ギリギリだが多分持ち帰っても大丈夫」と思われる大きさのサーモンで、叔父は羨ましいなと思った。しかし、少年はルール通りに迷わずリリースした。その後、少年は父親と目を合わせ、ニッコリして、また釣り糸を垂れていたという。

 例えば、息子が犯罪を犯した時、アメリカ社会では家族でも警察に届け、罪を償わせる。一方、日本だと、恥の文化で臭いものにふたをするか、見て見ぬふりか、とにかく世間体を気にする。フェアとはどういうことだろうか。中国から習った「天知る・地知る・我知る・人知る」の「四知」ではないか。

 さて、話を元に戻して、「何とかファースト」という言葉を私は好きではない。自己都合を優先させることを良しとすることだからだ。「自分を見ているもう1人の自分」が持てない人が多く、余裕の無い時代になっているのだろうか。都合・不都合で物事を判断し、自己を優先する。生き残りをかけて「それ善なりや」と問わずに何でもするという風潮が、株式公開会社にも出てきているのだろうか。株式を公開しているから株価が気になり、嘘をついてしまうのだろうか。解決に向かおうとしている東芝問題も、最初はお得意のラップトップパソコンの粉飾決算だった。自他ともに認める得意分野での予算が未達だと、悪事を重ねてしまうのだろう。何故こんなことが組織内で容認されて、長い間放置されてきたのか。大会社、株式公開会社でこうなのだから、中小零細企業においては推して知るべしなのか。或いは、小や零細ほど、直接社会と繋がっている実感があるから、取引会社や組織の為に、正直に決算しているのだろうか。そのあたりのことは分からない。ただ、日産や神戸製鋼と同じことが、卸売市場のどこかでも起きていると想定されるのである。

 2009年、卸売市場の買付が自由化された。それまでは、自己の計算による買付は許されていなかった。この自己売買(通称“自己バイ”)は、例えば証券等の場合、お客の預り金で自己バイをしてはならない。迷惑がかからないよう自己資金の範囲内で行うのだ。しかし、卸売市場の規定にはそれがない。唯一あるのは、荷主に対する支払いは最優先事項という法律だけである。その結果、卸売市場が倒産する時、すっからかんで荷主に迷惑をかけることが殆どだ。青果は前三日ごとに、市場から生産者へ代金が支払われるから、多大な金額という訳ではなく済む場合が多い。しかし、花きの場合、10日ごとに締め、10日後に支払うところが多いから、倒産して代金が払われない時、最長20日の卸への売掛金が丸々焦げ付くことになる。また、契約によっては、40日も売掛金が「寝る」個人出荷者や輸入商社もある。買付が多い水産もそうだ。もう一度、取引先は、自分が出荷している卸売市場の子会社まで含めた決算の内容を入手して、委託出荷をしたり、契約取引をし、売掛けるべきである。そして、生鮮食料品花き業界の農協、卸(卸・仲卸)、小売会社は、組織内の法令に基づいた内部監査による業務監査、経理監査まで含め、公認会計士等の第三者によるチェックを受けて、透明性をもった取引をしなければならない。少なくとも卸売市場は、社会のインフラとして、フェアと透明性を一義にしなければならないのである。


投稿者 磯村信夫 : 16:32