社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2020年06月01日

ニューノーマル(新常態)スタート


 東京都は、本日から休業要請等の緩和の段階を「ステップ2」に進め、緩和の対象を広げる。三越伊勢丹では週末から先取りして開店をはじめ、駅ビルのショッピングモールでも本日から、遅いところでも3日からオープンする。そのおかげで、大田市場花き部の仲卸通りも、ピーク時の三分の一位には人出が戻ってきているように見える。しかし、在宅勤務やリモート会議等は、新型コロナウイルスのリスクを前提とする生活の「ニューノーマル(新常態)」として、これからも続けられていくだろう。それは花き業界でも変わらない。いけばなやフラワーデザインのお教室でも、リモート教室をするところが出てきた。学習塾や学校と同様、三密にならないように気を配っているという。また、家庭需要では特に「ENJOY HOME with FLOWERS」が、花き産業の一致した合言葉になるだろう。
 
 卸売市場のことだけを申し上げると、青果市場は、業務需要から、スーパーでの店頭販売用のものに需要が移っていた。「STAY HOME」で、家庭で三食食事が作られることが多くなった為だ。魚市場は、青果市場より業務の比率が多いから、前年同様の売上は保てなかったものの、花き市場よりはマシだろう。花き市場では、切り花の4月売上は前年の半分から多くて4割減だった。5月は最大の物日である「母の日」を「母の月」として頑張ったが、それでも3割減だ。ホームユースが中心の鉢物・苗物の場合、4月売上は2割減だったが、5月は前年に近い売上をキープしている。しかし、切り花・鉢物のトータルでは、落ち込みが激しい。
 
 特に、冠婚葬祭の需要減は深刻だ。友人を呼んでの結婚式は早くて晩秋、基本的には、来年以降に延期されている方が多い。葬儀についても、1日葬のところも多く、規模も当面小さなものになり、特に県を跨ぐ葬儀には「来ていただくのは申し訳ない」と、お知らせをしないこともある。その結果、祭壇の花装飾も小さくなっているし、葬儀が小さいことを想定し、親しい人は枕花として小さなアレンジメントをご自宅に届けて、お悔やみとしている。現時点で売上は前年比4割減だと、葬儀祭壇を手掛ける生花店や葬儀社は言う。葬儀の大きさは、今後とも元の規模には戻らない。2020年、本年の規模と比べると、これからは2割は小さくなると予想している。
 
 切り花は、今まで高級品の業務需要が卸価格をけん引し、家庭需要用は国産の中級・下位階級品と輸入品が中心だった。それが、今回のコロナ禍で行き所を失った業務用の高級品が、家庭需要に回らざるを得なかった。そして、今まで家庭需要のものであった国産品が押し出されて行き所を失ってしまい、廃棄する産地も少なくなく、全体の物価が下がってしまった。しかし、「STAY HOME」週間で再認識されたのは、空間を明るく、幸せにする花の存在だ。家庭需要は今後とも伸びていくだろう。そのために、例えば、青果であれば、キャベツや白菜を二つ、あるいは、四つに切り分けて販売することが出来るように、花束製作者がスプレータイプの枝を欠くか、1本の花や枝物を最初から家庭需要の価格でも採算がとれるよう、生産していく必要があるのだ。ここに我々のチャレンジがある。生産・流通面では、品種や規格を変え、面積当たりの植え込み数を変え、仕事を効率化していく。また、家で楽しむ訳だから花もちが大切だ。鮮度保持をするための定温管理物流の更なる整備も必要となる。そして、湿式にして水にずっとつけたままが良いという訳ではない。温度管理が出来なければ途中で咲き過ぎてしまうし、水につければつけるほどバクテリアが増える。縦で運ぶと運賃もあがり、手間が増えるのでコストもかさむ。従って、品目にもよるが、ヨーロッパやアメリカと同じように「乾式横箱で温度管理」を徹底することになる。一方、小売店では、花の「お惣菜化」が進む。即ち、それぞれの店舗が特徴を持たせたり、こだわったスタイルでブーケやアレンジの形での販売が増える。このように、利益を得るためのしくみを各自考え、みんなで協力し合わなければならない。また、家庭需要には鉢類も欠かせない。室内でも一定の照度・明るさがあれば、元気に保てる鉢花や観葉植物が必要だ。
 
 国も企業も、そして、会社員も、所得が増えてお金持ちになることは当面あり得ない。今後は、個人がお金持ちになることや企業の成長の面ではなく、「幸せに生きていくこと」の大切さや自然の有難さが、重要な価値観として取り上げられていくだろう。地域でいえば、各地域の活性化が必要だ。東京一極集中を解消し、各地域が元気になる。この状態が日本の健康と幸せにつながると考えている。花のサプライチェーンにしても同様だ。まず「地産地消」で各地域のものを使い、需要が小さいものや揃わないものについては、地域拠点、ないし、東京大阪の拠点市場から、地元市場が荷を引く。このような市場間ネットワークの在り方をイメージして、生産者も物流業者も、小売店も合わせていく。今、この考え方に沿った実践が必要なのだ。我々が「ニューノーマル(新常態)になった」と一定に思えるのは、来年の9月ないし10月ごろまでかかるのではないだろうか。まずはこの期限の目標に向けて、仕事の在り方を変えていきたい。
 
 輸出や、いけばな・フラワーデザイン等の文化まで含めた花き文化産業が、形は違うだろうが、元気に復活するのは、2024年ないし2025年までかかるだろう。その計画の上で、各自が試行錯誤しながら進めていくことが必要だ。  

投稿者 磯村信夫 16:52