社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2019年01月14日

ますます不安定になってきたブランド産地の価格


 小正月を前にして、寒さが一段と厳しくなってきた。年末年始の需要を見込んで小売店が仕入れた仕事用花の在庫が無くなり、ようやく、平常の冬の需要動向に戻ってきたように思う。

 私は毎朝、 MBWA( Management By Walking Around=現場を歩き回ることで最前線の状況を把握、コミュニケーションを行うマネジメント)を行っている。これは最も当たり前な経営手法の一つで、どの会社も“普通”にやっていることだ。大田花きの近隣には花専用の荷受場が三つある。静岡以北の、沢山の卸売市場が集荷に訪れており、大田花きにも自社の足りないものを調達しに立ち寄ることも多い。そんなこともあり、夜間から未明にかけての商流・物流の仕事はとても大切だ。その重要な仕事をしてくれている社員に声をかけるためにも、早めに出社することにしている。

 近頃現場を回っていて心配なことは、荷が少ないと感じるのにも関わらず、価格が不安定な実態だ。価値と価格のバランスを整えてやっていこうとするならば、ファッションのブランド品のように、自社で製造から小売までを担うことだろう。SPAと呼ばれるこの手法は、ユニクロやZARA、H&M、またプライベートブランド等多くの企業で展開されている。自社が思う価値と価格を定めて、消費者に供給しているのだ。
 
 しかし、生鮮食料品花きにおいては、自分以外の組織と取組むことで消費者まで荷を届けている。種苗、生産、販売代理業の農協や系統農協、そして卸売市場(卸・仲卸)、加工業者、最後に小売店(ネット販売含む)である。産地は指定市場制を採っていて、普段は決まった卸売市場に出荷している。そしてそこの仲卸は「この花だったらこの産地、あそこの花だったらこの産地…」と、自分の卸先の小売店が消費者に満足してもらえるよう産地選びをする。このように、サプライチェーンは殆ど定番化している。その中でその産地のものを大切に売っていこうとする意思疎通がきちんと出来ていないと、生産者の農産物が安売り競走になって、価値よりも安く売られてしまう可能性が大いにある。また、全体の市況がその安値に引きずられることもあるし、消費者は「この産地のものは安いものだ」と思い、次から適正価格で買おうとしなくなる。これを少しでも防ぐために、価値あるものを作っている産地ほど中間流通業者を絞っている。同様に中間流通業者も卸先の小売店を絞っている。絞ることによって、例え荷が溢れている時でも価値と価格のバランスを取ろうとするのだ。
 
 そして農業改革と系統農協改革、更に卸売市場改革などの混乱の中、天候不順によって生産量が少なくなった2017年頃より、買い取りであればどこにでも出荷する産地も出てきた。買い取りする農協や卸売市場に出荷した場合、売れ残りが生じれば損切りすることになる。その損切りがその産地の、あるいはその日の相場になって花き業界全体を支配する。この傾向が強くなっている訳だ。2018年と本年にかけてますます強くなっていることが現場巡回していて分かる。
 
 「売るに天候、作るに天候」、そして「天気、景気、やる気」の三気商売である花き業界は、自分の取り組み先がどういう考えでその荷主の品物を集荷・販売しようとしているかチェックする必要がある。そうしなければ、消費実態に即した売れ筋情報や時価を産地は得ることが出来ない。フラワーバレンタインを前に、閑散期で考える時間のある今、自分の産地の花が適切に評価され、消費者に届けられているかどうか、各産地の皆様は確認すべきだ。生産者は売れてお終いではなく、消費者に満足してもらうことまでが責任であろう。そして花が枯れるまでの責任を共有し、生産者に代わって消費者に野菜や花を届ける決まった流通業者が必要なのである。
 
投稿者 磯村信夫 16:40