社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2018年10月15日

どこに儲けさせてもらっている?をまず知って・・・


 台風24号による塩害が酷く、それが原因の停電も起こった。電照栽培や養液栽培農家、また、ポンプで水を汲み上げている農家の人たちによると、「塩害の被害だけを見ても、影響はこの先も続きますね」とのことで、荷が少ない状態がもっと続くのかと思いぞっとしている。

 日本の大企業は、今秋のドル円相場を107円か108円で想定していたところが多い。それが今、112円から113円だ。中には年末、115円超えを想定するエコノミストもいる。そうなってしまうと、油代が高くて施設園芸農家や漁業者はたまらないだろう。また、油を多く使用する温室栽培の人たちは、冬に生産を休むところもあるという。休まないまでも、ぎりぎりの低温で管理することだろう。需要に合わせての出荷が難しくなるかもしれない。これが最近の生産情勢である。

 流通情勢からすると、次のような話を聞いた。茨城県の産地に伺った折、懇意にしている農協の組合長は「農業改革から、系統農協は確実に農産物の買取を増やしている」と言う。米の80%、青果の55%が買取目標として発表されているが、花きも努力目標に近い数字があるからだ。それは、品種が少なく量を多く扱う菊類等の仏花に使われるものだ。マイナス金利もあり、農協は銀行業務や保険業務の利益を営農業務に転化出来る状況ではなくなってきた。日本の保険業界や金融業界が激しく合併しているのを見ても分る通り、金融事業も厳しい競争となっているのだ。従って、買取にしても販売にしても赤字は許されない、利益を出していく。こういう状況であるという。

 農協の産直市場はどうだろうか。販売手数料は15%位だ。産直市場における花きの販売は全売上の10%弱だが、それでも日本全体で約780億円ある。それが今後は増えていくかもしれない。また、系統農協で買取をすると、出荷先の卸売市場に対し、リスク軽減のために「この値段で買い取って欲しい」と言ってくるだろう。少なくとも、優先的に買取ったものを出荷することになるので、指値委託等の比率が市場流通でも多くなる。もちろん、系統農協は卸売市場を通さない流通の開拓も模索しなければならないが、セールスマンが足りない。人手は本当に今後とも少なくなるのだ。この状況が今展開されている。

 さて、生産地について、こんなことがあった。これは北海道に次いで第二の農業生産県である茨城県の話であるが、茨城県は農業における外国人実習生の制度が整いつつある。私が懇意にしている生産者の所へは、殆どが中国からの実習生が来ているそうだ。つい最近、茨城県の生産者の方々と食事をした際、昨年までは残ったものは持ち帰らなかったが、本年は手をつけなかったものを折詰に入れて持ち帰り、実習生に食べてもらうと言っていた。「そうか、ようやく皆さんもしっかり手入れや荷が出せますね。今年は一部塩害もあったと聞きますが、上手に選別して出荷してください」とお話した。
 ― 昨年までは人手が足りず、選別が粗かったり切りきれないものがあったりした産地の話だ。


 産地による出荷先集約の新たな動きもある。今まで、産地は長年出荷しているところに出荷してきた。良い物を売る市場、裾物を売る市場と分けて出荷先を決めてきた。また、大産地になると50以上の花市場に出荷する。その時、運賃は全体の平均値にして計算していた。しかし、これでは収支が分からない。市場ごとのキャパと運賃を明確に出し、また、人口動態からくる将来性まで加味し、自分たちの荷を買ってくれている主だった取引先の与信と将来性までチェックして、他の産業界が「普通に」やっているように、分析し、新たに選定し直してきている。大田花きは昨年、委託販売手数料率の自由化に伴い、委託販売手数料の引き下げを行い、新たに荷扱い料を頂くことにした。その結果、大田花きへの出荷をやめた産地がある。それが今回、再度調査をして下半期から戻ってきた所もある。この動きだ。魚や青果の豊洲市場においても、産地や買い手はそのような選択の仕方をしている。卸売市場以外の業者に直接販売することまで含め、どことメインに取組むか決めているのだ。そして、納品業者だろうが再販業者であろうが、「その会社、人と共に伸びる」意識で取引していかない限りは、サステイナブルな発展、自社の存続そのものが無い。産地も小売店も、もちろん、卸売市場も、市場外のそれぞれの業者も、この段階に来ているということだ。


 自分がどの取引先から(代金回収まで含めて)儲けさせてもらっているのか。これを考えた取引先の選別はいよいよ厳しさを増してきた。産地や仲卸、小売は、このビジネスのやり方で良い。しかし、卸売市場は差別的取り扱いをしてはならない。例えば大田花きでは、パレートの法則の通り、千人の買参人の内、上位20%が80%の売上額を買ってくれている。残り80%の買参人が残りの20%売上額を買っている。産地も同様だ。では、上位の20%の買参人、出荷者だけで取引が成り立つのだろうか。いや、卸売市場はそれだけでは成り立たないのだ。数量や品揃えの問題もある。また、セリ場が20%の人でしか埋まらなかったとしたら、本当に緊張感のあるセリ取引が出来るだろうか。上位20%の買参人だけで適正価格になるだろうか。卸売市場においては、大きくても小さくても、需要に合った良いものを出荷したら適切に評価される。この差別的な取り扱いの禁止こそが大切である。なお、卸において、差別ではなく「区別」はやむをえないと思う。量を多く買う人、少なく買う人がいる。また、少ない量を買う人でも、山椒は小粒でぴりりと辛い業者なのか、ただ単に同じようなものを安く買おうとする小さな業者なのか。これは、実社会における貢献度が違うと見てよいだろう。その意味での区別はして良いが差別はしてはならない。一方、仲卸は差別をするのも良い。力関係で売価を決めるのも良い。配達無料サービスをするのも良いだろう。こういう風に理解をするべきである。


 さて、今、生産、小売、そして(市場外流通まで含めた)中間流通は、新たな状況の中でどうすれば良いだろうか。もう既に意思決定をして、東京五輪後を睨んだサプライチェーンの取組を始めたところが出てきている。花き卸売市場だけのことを申し上げると、取扱い金額20億円を一つの指標にした(物流費の問題もあるから、将来は取扱い金額30億円の)卸売市場が、日本の各地域で地域独特の文化需要を満たしながら、花き流通の核になって仕事が出来るように生産地と小売商は支援願いたい。


投稿者 磯村信夫 16:40