社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2024年03月18日

いたずらな販売競争は無し、付加価値あるいは生産性向上を行う


 先週の日本農業新聞で、横浜市中央卸売市場本場に、新しく青果部の卸売会社が入場するとの記事があった。もともと入場していた金港青果は赤字が続き、「これ以上営業していても倒産せざるを得ない、迷惑をかけないうちに」と自主廃業をしたその後、横浜丸中青果が金港青果へ出荷していた産地を受け継ぎ、一社体制で横浜の青果卸を運営していくものと思っていた。ところが、横浜市は従来通り二社体制を選んで募集し、愛知県のセントライ青果が入場することになったのだ。何もセントライ青果が悪いと言っているのではない。神奈川県民にとって出荷農業団体にとって本当に良い判断なのか?と思っているのだ。今後、この二社体制がどのように運営されていくかに注目が集まっている。

 日本は少子高齢化が進み、人口が減少するという課題に直面している。神奈川県は首都圏に位置しているため、人口減少はそれほど極端ではないものの、高齢化は進行している。卸売市場も他の企業と同様に、DXやAI、そしてロボットなどの省力化投資や設備投資、人材投資が必要だ。しかし、現在の青果卸売会社では営業利益率が低く、十分な投資が行えない。これでは生産性が上がらない。バブル経済の91年崩壊と、97・98年に起きた銀行、証券会社の倒産による日本式経営の崩壊・信念の揺らぎが、アメリカ式会社経営に対しコンプレックスを抱き、特に21世紀に入ってから、日本企業が利益は株主に還元するが、設備投資や人材投資に消極的であったことが、経済不調の一因となっている。2023年のGDPは、人口八千万のドイツに世界第三位の座を奪われた。為替の問題もあるかもしれないが、設備投資と海外投資、そして人材投資を行わなかったつけがここにきている。

 横浜市は大阪市よりも人が多いので、横浜市中央卸売市場は広範な商圏を持っていると考えるべきだが、近隣には大田市場や豊洲市場がある。川崎北部も頑張っており、競争が激しい状況だ。また、出荷団体、量販店などの買い手が大きくなり力が強くなる中で、卸売市場が存続するためには取引先に負けない程の規模が必要だ。横浜市が二社体制を選択した理由については、卸間の競争を強化する側面もあるかもしれない。あるいは、今まで通りが良いと考えたのではないか。ただ、横浜市民や神奈川県民、さらに広く首都圏の人々に青果物を安定して供給するために、横浜市中央卸売市場が地域の重要な社会インフラとして機能するために、私は横浜丸中青果一社に任せるべきだったのではないかと考えている。

 最後に、時代の変化に適応するためには、適切な設備投資や人材投資が不可欠だ。これが、人口が減少しても日本が成功するための鍵である。学ぶことに少し時間がかかるかもしれないが、努力すれば身につくだろう。企業は社内で知恵を出し合い、付加価値を高めるため設備投資や人材投資を行い、一定水準の利益を確保すべきだ。これらの取り組みによって、営業利益率が向上し、持続可能な卸売市場を築いていくことが必要なのである。これが、人を大切にする。人との安定的なつながりを大切にする日本式経営のあり方ではないかと思うのである。



 投稿者 磯村信夫 16:00