社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2023年05月08日

「真実の瞬間」の積み重ねが命運を決める


 5月に入り物日が続いている。まず5月1日の「スズランの日」。メーデー5月1日に、フランスの街角のいたるところでスズランが売られ、大切な人に贈り合うのは有名な話だ。皆様方はスズランをプレゼントしただろうか。私は駅前の花屋さんに買いに行ったがスズランが置いておらず、今年は妻にプレゼントし損ねてしまった。市場としても生産を奨励し、小売店に不足なく品揃えをしてもらい、スズランの日を盛り上げたい。「スズランの日」の後はガーデニング需要がある。5月4日の「みどりの日」に向けて、旅行に行かずにガーデニングを楽しむ人たちが都市部には多い。また、地方は田植えの時期でもある。花苗や野菜苗等も良く動く。そして5日は「端午の節句」だ。お風呂に浮かべたり軒下につるす、香りのある通称“ハショウブ”と、兜の横に飾られる“ハナショウブ”、この2つが「端午の節句」には欠かせない。続く物日が「母の日」だ。今年は5月14日で、鉢物はカーネーション、アジサイやラベンダー他、お母さんへのギフト用の鉢が出荷されている。また、切り花はカーネーション、バラ、シャクヤク等、季節の花が贈られる。今年の母の日はGWの一週間後なので、GW前と期間中の母の日向け商材の受注件数が少ないと、生花店の皆様が仰っていた。市場は今週の8日(月)と10日(水)が切り花需要のピークだ。今年は「この産地のこの品種を」と、差別化を意識した品揃えをするフローリストが多い。しっかり計画をした上での店づくり、商品化を考えているのだろう。

 さて、「母の日」の店の売れ具合を、中間流通業者である卸売市場の人間も、小売店に実際に足を運んで「真実の瞬間」として見ておかなければならない。この「真実の瞬間」の重要性について、スカンジナビア航空を例にとって話したい。私は花き業界に入って5年くらい経ったころから、学生時代お世話になった方を訪ねて毎年オランダへ行くようになったのだが、その時にアルスメール花市場社長のミューダーさん、そしてミューダーさんの友人で、今や名経営者として有名になったヤン・カールソンさんと、アルスメール市場の社長室でお会いすることがあった。それがきっかけで、その後デンマークで三人で会ったり、私がオランダに行った時には食事をしたりした。ヤン・カールソンさんは20代でスカンジナビア航空の国内線の社長になり、その後は国際線部門の責任者となってスカンジナビア航空を立て直し、ビジネスクラスの多い一段上の飛行機会社にした。ヤン・カールソンさんは「真実の瞬間」を最も大切にし、社員に権限を委譲して、自分で考えて積極的に働いてもらっていた。お客さんからかかってきた予約の電話に対応する時、空港に来てチェックインする時、荷物を預ける時、機内にお出迎えする時、機内で過ごす時、到着して荷物がスピーディーに出ていく時。これらお客さんとの接点が「真実の瞬間」だ。ここが会社にとって最も大切な部分で、ここを徹底して良くしていったのだ。

 日本は少子高齢化が進み、世界第三位の経済大国でありながら変化の対応にのろく、活力が今一つだ。これを払しょくしてもっと俊敏に前向きにチャレンジしていく国になるべく、みんなのマインドを変えようとしている。「真実の瞬間」を大切にし、その集積からサステイナブルをもたらしていく。これはあらゆる商売がそうで、花き業界も同様だ。花き業界の「真実の瞬間」は、消費者に直接販売する小売店だ。従って中間流通業者である卸売市場は、小売店にもっと販売してもらえるようサポートを行うことが大切だ。今風の言葉で言えば小売店に「伴走する」のだ。そして「真実の瞬間」で得た体験や情報を共有し、運送会社や産地、あるいは、その先の種苗会社へ伝えていく。市場担当者が産地を訪問するのは、その体験や情報、今後どうすればさらに生産者が繁盛するか、そのための市場到着時間や出荷ピークの時期、品種や量の変更時期のこと、価格のこと等、具体的に話し合うためだ。ただ単に顔を合わせて「また今年もよろしくね」、「これからも頼むね」等は殆ど意味がない。そんな余裕は花き産業だけでない、日本の産業界にあるはずがない。それほど日本は衰退の速度は速く、見て見ぬふりをしている怠け心、あるいは“ゆでガエル現象”が多い国だと認識すべきである。


投稿者 磯村信夫  14:49