社長コラム 大田花き代表取締役社長 磯村信夫のコラム

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2017年08月14日

旅行者は言う。「日本の野菜は安全で美味しい、日本の花は綺麗で長持ち」


 8月の月遅れ盆は菊類が不足し、花き卸売市場の相場は高くなった。生鮮食料品花き業界は「三気」商売で、「天気」、「景気」、「やる気」に影響されている。株式市場と違う点は、この天気の影響が「作る、売る」に対して大きいことだ。そして、株式であれば、国内では東京証券取引所が唯一の指標を出すが、花や青果においては、全国の中核都市にある卸売市場が健全に機能しており、地域によって売れ筋の市況が大きく異なることがある。しかし、この8月は「菊が高いと全てが高い」という、合理性が殆ど働いていないような市況展開であった。

 株式なら、輸出関連企業の株は高いが、ファッション関連の株式は安い等、合理性により市況がばらつく。しかし、生鮮食料品花き卸売市場の場合は、地域性にプラスして、生産・消費の確実な情報把握が出来ておらず、それに対するアナリストもいない。よって、市況は群集心理的になりがちだ。その端的な例が、この8月盆の全面高の市況となって、また、7月の滅茶苦茶な市況になって表れたのだ。

 青果・花き共にセリ前取引が圧倒的に多くなり、セリが機能している卸売市場はごく一部となっている。そして、相対であるセリ前取引は、担当する卸売会社の情報力と力関係による、恣意的な面が強くなる。出荷者や買い手の交渉力、力関係に振り回されていないか。物の価値と消費者ニーズに対する現時点での需給バランスが、きちんと反映された相対価格になっているか。その点が大変心配なところである。その意味で、日本農業新聞に主要卸売会社の生データによる市況が掲載されているので、是非ともこれを中心に市況分析をしてもらいたい。また、取引の参考にしてもらいたい。

 今迄、日本の商品は海外と比べて値段が高いと思われてきた。しかし、本当にそうだろうか。日本に来ている外国人旅行者は、「質が高いのに、この値段で提供されている」と、割安感にビックリしている。都市部だけでなく、地方にも数多くの外国人旅行者が訪れ、日本の整った生活ぶりに好印象を持っているようだ。花の場合、オランダと比べてみると馬鹿高いものもあるが、それはごく一部の限られた品種や出荷者のものだったりする。花は命あるもので、基本的にコモディティが主体だ。中には、鉢物でも特別な盆栽や、希少な洋蘭もあるだろう。しかし、産業ベースで作られているものはいずれも、服で言えばプレタポルテからユニクロやしまむらで売られているような、手に取りやすい花が沢山ある。そういった野菜や花が、作りこんで世界レベルで品質が高いのである。即ち、卸売ベースでもお値打ちで、良くて安いのである。これは、旅行者から教わったことだ。“ビックマック指数”で示されるような、生鮮食料品花きの物価がある。

 日本では生鮮食料品花き業界を国際競争力のあるものにしていく必要がある。農業競争力強化法案や、卸売市場をどうするかといった問題は、いずれもこの視点の下において改革、実行されようとしている。各社の利益確保が大変だが、今現在、「世界レベルでみて良くて安い」。この方向性で無駄を排除してやっていくことになる。ただ、明らかに改善して欲しい点は、生産段階においては輸出が当たり前になっていくので、病虫害対策を忘れずにすること。そして、出来るだけGLOBALG.A.PやMPS‐GAP等、国際承認を得ていくことが必要になるだろう。さらに、生産とは別の問題として、日本からの運賃が高すぎる。量と頻度の問題があるのだろうが、オランダからアジア圏への運賃と、日本からの運賃を比べて、日本からの運賃の方が高くては困るのだ。

  現在、旅行者から高い評価を生鮮食料品花き業界は頂いている。日本の消費者は所得が上がっていないから、同じ値段で量を少なくするという実質値上げは出来ても、値段を上げるというのはなかなか難しい。国内需要の問題では、日本の人口は減っているから、量を売って稼ぐというのも難しい。では、輸出の他に可能性があるのは何であろう。食料は、胃袋が小さくなったり減ったりするから、旅行者が増えて横ばいという国内状況だ。一方、花やみどりは、“週末に花を”の「フラワーフライデー」、“オフィスに花や緑を”の「フラワービズ」で、会社の懐、生活者の懐を狙っていける。

 失われた20年は決して無駄ではなかった。良いモノを丁寧に作りこんで、しかも買ってくれる人の負担が少なく出来るしくみを、我々日本人は作ったようだ。さて、これからである。

 

投稿者 磯村信夫 : 13:10