Vol.147 フラオタ受賞記念★ 山田容礼様:千葉県 ヒマワリ

前回のヤマキ花卉園様に引き続き、令和のヒマワリ第2弾!

やってまいりましたのは、ヤマキ花卉園様と目と鼻の先、館山市の平砂浦(へいさうら)に近いところでヒマワリを生産されている山田容礼(やまだ・まさよし)様。

 

「容礼」さんとの表記で、なかなかお名前を読めない方が多いと思います💦

かくいうウン探もその一人・・・正解は「まさよし」さんと読みます。今回ご対応くださったのは、まさよしさんのお父様の山田保夫(やまだ・やすお)さんです。

 

ぬぁんと2024年のフラワー・オブ・ザ・イヤーOTA(以下「フラオタ」)の新商品奨励賞を受賞。

【表彰式の様子↓2024年12月6日、クリックで表彰式の記事へリンク】

(写真左が山田容礼さん、右が保夫さん)

 

その新商品奨励賞を受賞した品種こそ、ヒマワリのダージリン!

 

2024年で巷の話題をさらい、新商品でありながら一気に知名度を高めた注目の品種です。

 

★山田容礼(やまだ・まさよし)様 基本情報

・圃場場所:千葉県館山市(館山カントリークラブからすぐそこ)

・生産品目:ヒマワリとストック

2024年大田花き出荷分でいうと、こんな感じ↓

・ヒマワリ→品種数約10、ストック→品種数約20

・生産面積 施設栽培400坪(約1,320㎡)、施設7棟(←2019年の台風以降縮小)

・労働力:保夫さんと奥様、ご子息の容礼さんの基本3人(繁忙期も3人で乗り切る!)

・保夫さんのヒマワリ生産キャリア36年くらい

 

上記の出荷実績グラフで9-12月は出荷がありません(2024年)が、この期間はストックの植え付けと管理で大忙し。8月中旬ころには、ストックの第1回目の播種、9月には定植を行います。山田さんはご出荷のないときも年中無休なのです。

 

ストックの出荷は4月初旬くらいまで。

そこからヒマワリはストックが終わってから着手するので、ヒマワリのご出荷スタートは、どんなに早くても5月下旬。

今年は5月21日(水)に初出荷でした。基本、出荷期になれば、毎販売日ご出荷がありますので、ぜひ今期もご注目ください。

 

さて、ということで、今回はフラオタ受賞記念で山田さんがどのようにヒマワリを生産されているのか、伺ってまいりました。

 

★圧倒的な砂地圃場

砂感ハンパないのよ、これ。

 

はいはい、ありましたよ、早速ココに・・・貝殻。

しかも巻き貝。入口から入ってすぐの足元にフツーにあります。

 

前回のヤマキ花卉園様でご紹介したように、ここは以前海底だったところ。それが地震で隆起してこの地ができました。

なんといいますか、山田さんの圃場は、“ほぼ海岸”

 

圃場に砂を入れたのではなくて、もともと砂地なのです。どこまで行っても砂。波の襲来がないことを除けば、まさにビーチでヒマワリ生産をされているようなものですね。

 

「昔からこんな感じだったから、私としては変な感じはしないんだけどね。確かに、ほかの人が見たら、ちょっと珍しい光景かも」

保夫さんには、この“ほぼ海岸圃場”ならではのヒマワリ生産ノウハウがあります。

 

 

★水をやって水を切る

 

保夫さんの生産ノウハウの一つが、ヒマワリの“高さ”にあります。

「どんなに高くても胸の高さまでになるように育てています」

 

その心は!?

「その方が収穫の際に作業しやすいし、花の表情や切り前を確認しやすいから」

 

なるほど!自分の身長より高いと、花の切り前を確認するのは難しくなってしまいます。覗き込むには何か足台が必要ですし、ヒマワリの首を曲げるわけにもいきません。実際のところ、山田さんの周りの圃場には、人の身長より高いヒマワリ栽培されているハウスをいくつか見かけました。

 

作業効率を考えて、ヒマワリの成長を胸の高さで抑えるようにしているのです。

そのためには何かをコントロールされているわけですよね?

コツは何ですか?

 

「水を切ることです」

 

どのくらい水を切るのですか。

「それは勘みたいなものです。

この潅水の“跡”は昨日(5月の取材日前日)にかけたものだけど、その前までは葉も随分と、“くた~ん”となっていたんですよ。3-4日ぶりの潅水だったよ」

 

しかも山田さんは手潅水。どのハウスも山田さんがご自身でホースを伸ばして、蓮口をつけて、根元に水やり。

 

「上から水をかけると留め葉が大きくなってしまうんですよ」

 

“留め葉”??

 

留め葉とはこの花のすぐ周りに“エリザベス襟”のように広がっている葉のこと。

※エリザベス襟:エリザベス女王の襟のように顔回りに装着する保護具のひとつ。

 

でも本当のエリザベス襟のように大きすぎてはいけません。

 

「花首の周りについているこの留め葉が大きくなりすぎてしまうと、花とのバランスが崩れてしまうんです」

 

なるほど、留め葉を大きくしないために、潅水は根元に手潅水するのですね。山田さんの細やかなこだわりを見て取ることができます。

 

「それに、上から水をかけると八重品種は花弁に水が溜まって、腐りにつながってしまう可能性もあるでしょ。大変だけど、あまり広くないからなんとかなるよ。私の感覚ではそのくらいしか方法がないんです」

 

水やりは勘と感覚!

「最初にヒマワリ生産を種苗会社から教えてもらったときに、芽が出てきたらもう水やりやしなくていいよということでした。

でもここは砂地で、種苗会社の圃場とは全く条件が異なります。すぐに乾ききってしまうんです。ですから、一般的なセオリー通りにすると花が咲かなくなってしまいます」

 

地域の気候と土壌に合った栽培方法があって、それはやはりその現場で生産している人が経験で会得していくものなのですね。

 

「それに、最近は夏場の暑さがひどいでしょ。例えば、外気の温度が35度のとき、ハウス内の気温は50度になるんですよ。すると葉が焦げてしまうんです」

“葉が焦げる”とは、本当に葉から火が出て焦げるわけではなく、太陽熱によって葉色が赤茶っぽく(あるいは黒っぽく)なってしまうことをいいます。

 

「それを防止するために、本来であれば頭から水をやるといいのでしょうが、そうすると今度は留め葉が大きくなってしまう」

 

なるほどその匙加減が山田さんの勘所というわけですね。

 

「特にうちは、八重品種を栽培しているから、花芽が出てから上から潅水すると花の中水が溜まって乾かなくなってしまう。お客様のところで花腐れが起きたといわれるのが一番困るでしょ。だから花には水をかけない」

上から自動潅水はNG。花に水が溜まったり、留め葉が大きくなってしまうから。根元に水をやるけど根元だけでもダメで、葉にも水をやらないといけない。だけど、タイミングによっては、とても背丈が大きくなってしまう、・・・ヒマワリちゃんてなんてわがままなんだ。

 

「ヒマワリは水切りと水やりが命なんですよ」

 

ヒマワリが水を欲しているというのは、どこを見て知るのですか?

 

「私の感覚では、(品種にもよりますが)葉がシルバーっぽくなってきたら水が切れてきた合図。それを見て水をやります。できるだけ水を切るのがいいのですが、近年はひどい酷暑なので、昨年の8月には毎日のように水やりをしていたくらいですよ」

 

毎日?!

 

「恐らくヒマワリの生産で毎日水やりをするのは、ほかの地域ではまずないでしょう。花が大きくなりすぎてしまいます」

 

なるほど、毎日水をやってうまくいくのも、山田さんの経験値による勘と感覚があるからこそなのですね。

朝、ハウスに入ったら、まずは植物の状態を見て水やりの必要があるかどうかを判断するといいます。判断材料は、葉の様子ばかりでなく、天気だけでも温度だけでも湿度だけでもなく、前日からの気温の上がりかたなども含め、総合的に鑑みるのです。

これこそ、山田さんのノウハウなのです。

 

 

★八重品種など、作りにくい品種をなぜあえて?!

 

はい、みなさん、ここでクイズです。

この中に、フラワー・オブ・ザ・イヤーOTA2024で見事新商品奨励賞を受賞されたダージリンがあります。どれかわかりますか?

 

えー、花が咲いていないし、これだけじゃわかりませんよね。

でもよく見ますと、葉の様子が写真↑の右と左で少し違います。

 

はい、右側の少し葉がうねった感じのヒマワリがダージリンです。

 

それに、花も、葉をも見なくてもダージリンがどれか見分ける方法を、ウン探は山田さんに教えていただきました。

 

ご覧ください!こちらがダージリンです!

 

花が茶色いダージリンは、なんと茎も茶色!そして葉が少し波打つ性質があるようで、ダージリンだけは茎葉で見分けることができます。

↓はい、このように黄色ヒマワリは茎も通常のグリーンなのですが、ダージリンは花が茶色いように、茎も茶色っぽくなります。

 

山田さんがご出荷されるヒマワリは現在10品種くらい。

どのように売れそうな品種に目をつけるのですか。

 

「種苗会社のカタログを見て、これはいいかなと思うのを作ってみるだけ」

山田さん式品種選択はいたってシンプル。山田さんがヒマワリ生産を始めた時に、最初に作った品種は何ですか?

 

「サンリッチオレンジです」

 

なるほど、サンリッチオレンジといえば大田花きの取り扱いの中で取り扱い第2位の品種ですし、全国でも1‐2位を争う王道中の王道品種です。

 

あら?でもいま山田さんはサンリッチ作っていらっしゃいませんよね?

それどころか、ダージリンをはじめパナッシェ、

 

東北八重、

 

グリーンバースト、

 

ホワイトナイト、

 

レモネード、

 

など、ちょっとおしゃれな感じの・・・といいますか、おそらく生産側としては少し作りにくい感じの品種“ばかり”!しかもほとんど八重系品種のように思いますが、なぜでしょうか。

 

「生産を始めたころに八重の方が売れたので、私として八重を作りたかった。そこで東北八重を生産。当時は、私が東北八重しか八重の品種を知らなかったというだけなんですけね。

でも東北八重は比較的“晩生”(おくて)なので、あまり出荷量を増やせない。そこで、種苗会社からカタログをもらって、プラドレッドに着手したんです。

そのプラドレッドは、当時ほかに作っている人がいなかったようなので、ずいぶんとよく売れたように記憶しています」

 

プラドレッドは濃い赤系の品種で、山田さんは当時としては珍しいなと思って、試しに1,000粒だけ播種して作ってみたそうです。

すると、出荷した瞬間に市場から、

 

「次回からあるだけすべて出荷してください。

なんなら草丈は長くなくても、折れてしまって首だけでもいいから、ご出荷お願いします」

 

といわれ、八重や赤系などほかの人があまり作らないような変わった品種をとりあえずやってみようと思ったそうです。

それが山田容礼さまブランドの創成期。

 

作りにくさは気にならないのですか?

「作りにくいですよ。

でも、歩留まりがイマイチな品種にあえて着手するんですよ。

サンリッチやビンセントなどの王道品種では、共撰と勝負できないでしょ。

となると生産地としてもなかなか名前を覚えてもらえないし、何より量の点では適わない。共撰と競争して勝てないでしょ。

だから“競争しない”ということです。

生産面積も生産に携わる人数も限られているから、1本当たりの単価が少しでも高い方がいいしね。それなら、作りにくくても珍しいものがいい」」

 

でも、回転率も変わってきますよね。

「ヒマワリだけで2回転したいと思っているんだけど、なかなか2回もいかないこともある。

でも、うちは生産に携わる人も限られているし、回転率が悪い分、経費を節約できるから、2回もいかなくてもよしとしているんだよ。

うちのような、少人数でハウスの面積が限られているところは、単価の高い品種を選ばざるを得ないんだよ」

 

そして、売れる品種を突き詰めていったら、現在の10品種に集約されたというわけ。山田さんは、少し珍しい品種を極めることで、個人生産での道を切り拓いていったのですね。

 

その中で山田さんのお気に入りは何ですか?

「ダージリンです。比較的製品率もいいし、奇形とかも出たことはないと思う。品質が安定しているんですよ。八重の中でも最も作りやすい」

 

山田さんにとってダージリンとはとても良い出合いだったといいます。

「わたしは、個人的にも八重の品種が好きなんですよ」

 

ダージリンのご出荷は、今年はいつ頃から始まりますか

「わかりません。咲いたら出荷します^^」

※当記事掲載時点で、ご出荷はスタートしています。

 

出荷準備ができたものから揃えて出荷するのが山田さん流。

例えば、前回のヤマキ農園様は徹底的に組織化、企業化を実現され、生産は組織で共有してだれでもできるように組織を整えていらっしゃいましたが、個人戦の山田保夫さんは、管理は基本全部お一人です。ノウハウを共有することよりも、勘と感覚を研ぎ澄ませて、量で勝負する必要のない品種を生産、咲いたものから出荷するというスタイルです。

“共撰と真っ向から勝負しない”ということですね。

 

山田保夫さんとヤマキ農園さんは、経営スタイル、品種、取り組み、強みなど、すべて対照的な生産者さんなのでした。同じ地域で同じヒマワリという品目を生産されているだけに、このような棲み分けが必要なのですね。

山田さんは、個人生産でできる範囲のことをする、持続可能なヒマワリ生産をされているというわけです。

 

 

★スタートは共撰

とはいえ、現在個選の道を切り拓かれている山田さんも、花き生産は共撰に始まりがありました。どのような経緯で個選になったのでしょうか。そこには山田さんのヒストリーがありました。

お話を伺ってみると、意外な事実が・・・

 

花生産を始めて36年ほどになる山田さん。40歳手前くらいでお勤めを辞めて、花き生産を始めました。

ご両親はストックとキク(主に黄ギク)の二毛作でしたが、全国にキクの大産地が誕生して、なかなか個選のキクでは量的に勝負できないと、山田さんはキク生産から撤退。周りにヒマワリを作っている人がいて、勧められてヒマワリ生産を始めました。

 

「ちょうどそのころ、NHKで『ひまわり』というドラマがあってね」

 

ありましたー!?━(゚∀゚)━! +.゚!!

NHKの朝の連続テレビ小説「ひまわり」!

あの松嶋菜々子さんの初主演番組では?

「そうそう。そうですね」

 

調べてみるとそれは1996年の放送でした。しかも、平均視聴率は25.。5%、つまり4世帯に1世帯は観ていたことになりますね。さらに、最高視聴率は29.6%(関東地区・世帯)!

 

「そのドラマの人気もあって、ヒマワリブームのようなものがきて、ちょうどよく売れたんですよ。

その時の出荷反省会に、大田花きから日本で最初の女性セリ人である松田さんという人が参加されて、“いまヒマワリがブームだから、頑張って作ってたくさん出荷してください”と言ったんですよね。

それでこの辺りの皆さんのやる気がぐっと上がって、共撰(西岬共撰部会)を立ち上げたんですよ」

 

山田さんも共撰を地域のみなさんで一緒に立ち上げたお一人。立ち上げから2年ほど一生懸命やっていらしたといいます。

 

ところが!

「品物が皆さんと違っちゃったんですよねー」

 

どゆことッ??!

「私のヒマワリは小さくて、ほかの人よりもっと茎が細くなったり、短かったり、標準スペックに満たなかったんですよ」

 

共撰ではじめたものの、同じブランド名で出荷するのに、品質が見合わないなと思ったといいます。当時は花径12-13cm、太さが鉛筆くらいという、西岬の中で求められる標準スペックがありました。

 

※現在は、花径12-13cmよりさらに小さい8-10cmくらいが主流。茎も鉛筆より細く、草丈も70cmほどが全体の出荷のボリュームゾーンです。まあ、いい方を変えれば、山田さんは最初から30年後の現在の標準スペックを満たしていたということになりますね。

 

とはいえ、当時は(ご自身の商品が)共撰の品質に追いついていないと、山田さんご自身が思い、ご迷惑をおかけしてはいけないと共撰を抜けて、個選の道を選んだといいます。

 

産地に歴史あり、人に哲学ありですね。

 

 

★今期のご出荷、始まっています

先にご紹介しました通り、今期の山田さんのご出荷はスタートしています。

月・水・金の毎販売日、ご出荷くださっています。

 

グリーンバーストにホワイトナイト

 

 

こちらは人気のダージリン

 

ダージリンでフラオタをご受賞された山田さんが評価されているポイントは、品種自体の評価以外に・・・

●選別が丁寧

●販売価格が安くても高くても継続出荷。買いたいときにいつもある。

※品種によって、ないときは「ない」と、あるときは「ある」がクリアに回答される。

●花や梱包の品質がぶれない

 

など、正直出荷ともいうべき、山田さんのポリシーが反映されたかのような多くのコメントを審査員から頂戴しました。

 

 

★山田容礼様の格言

・ヒマワリは「水やりと水切りが命!」

36年の経験値で積み上げられた勘と感覚を重視せよ。

沸騰化宣言された地球で、夏場は50度にもなる山田さんの生産圃場でいかに水を切りながら水をやるかが勝負也!

 

・共撰と競争するべからず

家族経営型の個選は量の生産地にはかなわない。

競争せずに、館山のヒマワリブランドを共創して、地域として全国一を目指すのが吉。

 

・あえて希少品種に取り組むべし!

ほかの産地があまり手を出したがらない、でも取引単価がよさそうな品種を生産すべし!

その中でもダージリンは歩留まりが良く、良い品種でした~。ついでにフラオタも受賞しちゃいました~♡←実力です。

 

バラに見とれて最初は通り過ぎてしまった山田さんの出荷場↓

ご自宅かと思うくらい立派ですが、ご自宅ではなく、ここは出荷作業場でした。

 

今年もたくさん山田さんのヒマワリをご利用くださいませ。

 

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文責:内藤育子@大田花き花の生活研究所

※一部の写真は、山田保夫様にご提供いただきました。