うんちく探検隊は2005年の2月4日に第1回を発表し、この1月で丸20年を迎えました。
今回でvol.145、掲載回数にして166回目、訪問は240軒目、これもひとえに、取材にご協力くださった生産者・出荷者のみなさま、及び小欄をご覧いただく皆様のお陰と、心より感謝申し上げます。
さて、そのような節目を迎えた今回、やってまいりましたのは大田市場から自動車で50分のところにある千葉県君津市・・・
の!
糸川神社のすぐ近く・・・
の!
榎本バラ園の榎本雅夫さんを訪問しました。
■基本情報■
・榎本バラ園 榎本雅夫(えのもと・まさお)さま
・生産品目 ミモザアカシア(マメ科アカシア属)9割、その他(ノリウツギ、姫リョウブ、アジサイ、日向水木、ユーカリ、アメリカコデマリなど8品目ほど試験栽培中)
・生産面積 ミモザで露地4反(≒4,000㎡、テニスコート15面分、大田市場花き棟の定温倉庫×卸売会社2社分→なるほど、地下の定温倉庫の広さでまるまるミモザを生産している感じですね)+試作圃場2反強
・労働力 ほぼ榎本さんおひとり
・ミモザアカシア生産歴 5年
・花き類生産歴 55年くらい
榎本バラ園様といえども、バラがどこにもぬぁーい!
しかも、榎本さんは、第20回を迎えたフラワー・オブ・ザ・イヤーOTA2024で特別賞を受賞。バラじゃなくてミモザアカシアで!
バラを作っていない理由は後述するとして、ミモザアカシアって?
“ミモザ”とは、フサアカシアやギンヨウ(銀葉)アカシアなどのマメ科アカシア属の植物の俗称、つまりニックネームです。とりわけ開花状態のものをミモザと呼ぶことが多く、“本来のミモザ”と混乱しないように、アカシアをつけてミモザアカシアと呼びます。
“本来の”ミモザは、「マメ科オジギソウ属」の総称です。それを、イギリスで南フランスから輸入されるフサアカシアの切花をオジギソウ属の花と間違えて”mimosa”と呼んだことから、現在でも尚、アカシア属の植物をミモザと呼ばれるようになったわけです。
現在、商習慣としてミモザアカシアとかミモザと呼ばれるので、小欄でも以降ミモザと呼ばせていただきます。
※ちなみに、団塊世代の皆様へ♡
石原裕次郎さんの名曲『思い出のアカシア』は、歌詞に「白い花」とあります。黄色ではなく白。つまり、このアカシアは、アカシア属のミモザアカシアのことではなく、「ニセアカシア」(マメ科ハリエンジュ属)のことと思われます。
整理しますと以下の通り。
◇ミモザアカシア マメ科アカシア属(学名:Acacia) オーストラリア原産(黄色い花)
◇ミモザ マメ科オジギソウ属(学名:Mimosa) 南米原産(ピンク色の花)
◇ニセアカシア マメ科ハリエンジュ属(学名:Robinia) 北米原産(主に白い花)
ということでございました。
★新しい春のスタンダードを作った榎本さん
みなさま、ご存じでしょうか?
ミモザアカシアは、2009年度から2023年度までの大田花き取扱数量にして5倍、
金額にして10倍も伸びているのです。
「へー、すごいですね」って流さず、何卒ここで思い出してください。2009年からの切り花国内出荷量は1年で1億本のペースで減少している昨今です。15年の間で66%まで減ってきてしまっているのです。(データ元:農林水産省)
そのような状況の中でミモザの数量5倍の伸び、金額10倍の伸びって、どゆこと!?と驚いてほしいところなのでした。
そんな「どゆこと?」を知るために今回君津にやってきました。ミモザの数量が5倍に増えて、いまや2月、3月に、どの生花店にもミモザが並ぶシーンは当たり前に思われるかもしれません。その当たり前を作った張本人がこちら。
榎本さん。
ご自身でミモザをがっつり生産されるばかりではなく、お仲間にも声をかけ、現在は君津で10軒の方が生産されています。シーズンにはどの店頭でもミモザが並ぶためには量産が必要と、ご尽力くださっています。
※榎本さんは、ご自分のご功績としてそうおっしゃっているわけではなく、ウン探がきっとそうだろうという仮説の元にご紹介しております。
それにしても、バラ園の看板をお持ちの方がなぜミモザアカシア?
榎本さん「決定的な理由は2019年の台風10号だよ」
2019年9月9日、千葉を襲来した忘れもしない台風10号。電信柱が倒れたり、ゴルフ場のネットの支柱が倒れるなど、千葉全域に大きな爪痕を残していきました。花き生産者様においても被害甚大で、被害を受けなかったという農家さんはいらっしゃらなかったほど。榎本さんにおいてもこの19年の台風10号がきっかけとなり、バラ生産から完全撤退。
ミモザにシフトしていったというわけです。
「台風の前からそろそろ何か別の品目に切り替えようかなとは思っていたんだけどね。なにしろ夏が暑くて、バラの管理が難しくなってきていたし、バラ生産を続けるには人手が足りないから、代替品目を探していたんだ」
“地球沸騰化”という言葉が誕生する前ではありましたが、徐々に暑くなる夏場、榎本さんはバラの管理に手を焼いていました。そこに巨大台風襲来でバラ生産から全面的に品目転換することを決意しました。
でもなぜミモザ?
「ミモザに何か思い入れがあったわけじゃないんだけどね。
大田花きの営業担当と世界バラ展(当時、西武ドームにて開催)の後に一緒に飲んでいたら、その担当の携帯がひっきりなしに鳴って、ゆっくり一緒に飲めないから、どうしたんだよって聞いたら、“ミモザが全然足りない”っていうんだ。“んじゃうちにあるよ”と、裏山でうちの奥さんが3本だけ育てていたミモザを切って出荷したのがきっかけ」
こちらがうまい具合にミモザを育てていらした榎本さんの奥様。さすがでございますね。
榎本さんがバラ以外の生産品目を探していたところに、ちょうどミモザの供給が足りていないという情報に触れ、ミモザに切り替えたというわけです。
という経緯でミモザ生産を始めて今5年目。露地でこんな感じで生産されています。
伸びた枝が互いに重ならないよう、植栽は3-4メートルの間隔はマスト。
「それでもどうしても重なってしまうんだけどね」
でも圃場はやはり榎本さんの丁寧なお仕事を反映していて、とてもきれいです。
土壌は少し黒っぽいことに気づきました。
ご覧ください!このふっかふかの土!
「土壌改良剤は入れていなくて、この土地のそのままの土だよ」
君津のあたりは火山灰を母材とした黒ぼく土が中心。有機物が集積して黒くホクホクしている土壌です。
だからこんな感じ!榎本さんがちょいと足を入れただけで、こんなに深く沈むんです。
この通り、ボールペンの半分くらいまでは足を踏み入れただけでするっと沈みます。
「黒ボクが中心だから、水はけもいいし、保水性もいい。肥料もほとんどいらない。ミモザにはちょうどいいんだよ」
君津ではこのような黒ボク土のことを「ノボ土(のぼつち)」と呼ぶそうです。
そしてミモザの枝が鬱蒼と茂って間引いたミモザの枝は、このように畑に還す。
もともとの土壌がいいから肥料もほとんど使わず、なんとサスティナブル君津!SDGsな農業を実現されています。
ネットは防風のため。榎本さん自作の防風ネットです。
「成長が早い分、どんどん伸びて台風が来ると倒れやすいからね」
防風ネットのほかに、このように支柱を立てて倒れないように対策を取ります。
「でも本当に大きな台風が来たらこのくらいの支柱なら倒れちゃうけどね。だから多めに植えているんだよ。万が一台風で3分の1が倒れても、生活していけるように」
ミモザはマメ科の植物。童話『ジャックと豆の木』の豆の木がニョキニョキ伸びるように、ミモザの樹木も成長著しく、1年で2.5-3メートルくらいは伸びるのです。
この写真をご覧ください。このグリーンになっている部分からが今年伸びたところ。
ここを起点にびよ~んとSの字に伸びた枝は、目算で3メートルくらいあります。
伸びて成長が早い分、強風で倒れるリスクも高い。台風で出荷できなくなることを考えて、榎本さんは多めにて定植されているのです。
「ウン探さん、ミモザの成木1本から(1シーズンで)400本切れんだよ。一反※に成木のミモザを4本植えれば、お米より売り上げが多いんだよ」
※一反(この写真に写っている青いネットくらいまで=300坪≒約1,000平方メートル)
えー??お米を作るより??え?アタクシの聞き間違えかな。もう一度。
「1反にミモザの成木(3年目以降)が4本あれば、同じ面積でお米を作るよりも売り上げが多い」
聞き間違えじゃなかった。
「しかも、お米なら数百万も田植え機が必要だし、しかも1年で1日しか使わないでしょ。重機代が高いけど、稼働率は洗浄する日も含めたとしても365日分の1日とか前日の準備を含めてせいぜい3日。
ところがよ、ミモザは1本の成木から400本切れて、大きな重機もいらない。このハサミ1本だよ。チョキチョキ^ω^)✂
つまり、売り上げだけではなく利益率も高い。
ミモザなら1反で16万円くらいになる」
ミモザの花色が黄色ではなく金色に見えてきました~(´。✪ω✪。`)✧*。
売り上げに加えて、利益率はさらに高いということですね。
「特に今は品薄でどの品目も単価が高めだからね。お米は私にとっては赤字農業だから、ミモザがいいよ♡」
赤字でしたか ( ˊᵕˋ ; )少なくとも榎本さんにとっては、今は水稲よりミモザがよさそうですね。
えっと、こちらは?
アカシアの圃場の真ん中にユズリハを使った正月飾りらしきものが?訪問したのはまだ松の内で正月のうちではありましたが・・・榎本さん、これって?
「ふふ。正月飾りだよ」
そのままでした。
「圃場に神様が降臨してくれるように!」
神頼みですね!榎本さん、ミモザを大切に思う気持ちの表れかと。お天気や自然環境など、自分でコントロールがきかない部分は願掛けが重要です。
★ラクったってラクじゃない
榎本さん、バラからミモザに品目転換されていかがですか?
「ウンチク探検隊のJAにじ【後編】柳和男さんの記事を読んだけどね、まあ一緒ですよ。バラの時は収穫に追われてなかなか遊びに出かけたりする時間はなかったな。朝と晩と2回収穫していたしね。
でも、ミモザは比較的勝手に育つし、燃料も使わないし、二酸化炭素も出ないし、肥料もたくさんは使わないし、ゴミ(間伐したミモザの枝葉)はマルチとして圃場内で再利用するし、本当にミモザ生産はSDGsだよね。少し遊ぶ時間もできたし」
その“遊び”の残骸がこちら(一例です)。
散らばりすぎるゴルフボール。
これはバラ生産の時には見られなかった光景ですが、こうやって撒いておくといいのです(圃場ではなく通路です)。まさに肥料ですよ、榎本さんご自身の。
「稼がなかったらゴルフもできねーど」
まさにこの散らばりすぎるゴルフボールは榎本さんが一生懸命働いた証左でもあるのです。
榎本さんは本当に働き者!今の時期のように注文数が多くて、日中来客があったりすると夜明け前でも日没後でも、ヘッドライトをつけて真っ暗な中、収穫に取り組まれます。こちらがそのヘッドライト。
こうして頭につけて、寒いのに夜明け前からミモザ収穫に勤しまれるわけですから、頭が下がります。
なんとウン探がお邪魔したこの日も、日中は作業ができないからと、夜明け前の3時30分から収穫されていたのだとか。
榎本さん、さーせん!(。>ㅅ<。) いつもご出荷ありがとうございます!
★行政との取り組み
ぬぁんと取材日に、君津市経済環境部部長の竹内一視(たけうち・かずみ)さん、
そして、(写真右)同じく経済環境部農政課・農政課長の橋本威(はしもと・たけし)さん、(写真中央)同じく農政課の筒井真彦(つつい・まさひこ)さんが駆けつけてくださいました。
また、榎本さんと一緒に君津でミモザ栽培に取り組んでくださる野老高広(ところ・たかひろ)さんも。
WOW!
お忙しい中、今回の取材に合わせて足をお運びくださいました。ありがとうございます。
竹内さん「君津市ではミモザを特産品にしようと、榎本さん、及びJAきみつ小糸経済センターと県と一緒になって取り組んでいるんですよ」
具体的には行政としてどのような支援をされているのですか。
「例えば、昨年の夏にミモザの新規生産者を募るために、勉強会を企画しました。
JAの会議室をお借りして開催しましたが、JAきみつは君津市、富津(ふっつ)市、袖ケ浦市まで管轄範囲が及ぶことから、地域を制限せずに広く募りました。すると総勢41名が参加されました。これは予想以上に多かったです」
君津のみなさまの関心が高いことがわかりますね。
竹内さん「ミモザは需要が高まっていることを背景に、初期投資が少なく、有害鳥獣の被害も受けにくいことから、どなたでも始めやすいので、多様な担い手が取り組める品目です。多くの生産者さんに作ってもらいたいので、このように行政ではきっかけづくりをしています」
そのミモザ研修会の講師がなんと榎本さんと千葉県の出先機関である君津農業事務所の方(県の協力も仰ぎつつプロジェクトを進めます)、そして大田花きからのアドバイザー。榎本さんは、生産方法や市場への出荷などについて、伝道師となって地域のみなさんに惜しみなくノウハウを普及します。
そのようにして集まった41名のうち、さらに君津市が企画した榎本さんの圃場見学会には29名が参加。希望者には、榎本さんが圃場に足を運び、適地かどうかを診断するなんていうアドバイザリー業務も行っているのです。
榎本さんはまさにミモザの伝道師!
竹内さん「もう榎本さん、そして一緒にされている野老さんの力なしでは、何も進まないんですよ」
研修会の後に苗木の注文は続々とあり、中には生産用の苗木を作ってくれると手を挙げてくれた方もいて、少しずつ生産拡大に向けてステップが進んでいるところです。
竹内さん「榎本さんにはミモザでもうひと花もふた花も咲かせてもらおうと思っています!そして榎本さんのお力を原動力として、将来的には“君津のミモザ日本一”を目指しています。ミモザの増産を通して、カラーと並ぶ名産品に成長させつつ、生産者さんの所得向上に繋げていきたいと思っています」
生産に制限をかけず、JAきみつの管体で一体となって日本一を目指します。
君津市は、人口約8万人、主要産業は鉄鋼業や農業。農業では稲作が盛んで、農業出荷額の約半数がお米ですが、忘れてはならないのが水生カラー。以前小欄でもご紹介したことがありましたが、温暖な気候と豊かな湧水、肥沃な土壌に恵まれ、国内で有数の生産量を誇る特産品です。そしていま、ミモザという新しい特産品がここ君津で生まれようとしているのです。温暖で日照量も多く、黒ボクという土壌、さらには大田市場から車で50分という地の利を生かして、君津のミモザは日本一を目指して発進したところです。
君津の愛すべきマスコットキャラクター“きみぴょん”とともに!
★試作圃場
榎本さんは9割ミモザですが、こちらの約2反で新しい品目を試験栽培しています。
「これもミモザが台風で倒れたときにリスクヘッジの意味もあるんだよ」
お試しでの生産品目は、アジサイのノリウツギ( Hydrangea paniculata)↓
姫リョウブ↓
日向ミズキ↓
ユーカリ↓
そのほかブルーベリー、アメリカコデマリ‘マゼルト・ブラウン’(=混ぜるとブラウン?混ぜなくてもブラウンの葉色をしています)などなど。
今は、すべてシーズンオフ。新芽の時期はまだ早いので、こんな感じですが、それぞれの出荷期が被らないよう計画しつつ、生産環境として適合するかどうか試作を兼ねて定植しています。
試作圃場にミモザが生えているのは定植したわけではなく↓
“己生え(おのればえ)”といって、自然に生えてきたもの。マルチング用として据えたミモザの枝から種がこぼれ落ちて、生えてきたものと思われます。
★SDGsなミモザ
こちらは、従来廃棄されていた規格品ですが、現在は染めて出荷されます。まさにアップサイクルされたミモザ。
染めてアップサイクルされたノリウツギ↓
そもそもはこのように出荷前に選別して規格外のものや、枝打ちした小枝は処分していたのですが、
某有名小売店さんがいらしたときに、処分箱の中から一本棒の小枝を拾い上げ「これが欲しい!」とおっしゃったことがきっかけで、処分せずに出荷するようになりました。
さらには、
「その小枝をカラーリングしたらいいのではないでしょうか」
と大田花きの開発担当からヒントをもらい、現在でこのようにカラーリングして出荷しているのだとか。
植物の呼吸を止めないよう、きちんと花専用のスプレーを使っています。
染めてみませんか?と提案した大田花き開発ユニットの中川です。
「開発に関するご相談事はお任せください!」
榎本さんはアメリカコデマリのマゼルト・ブラウンを生産していますが、混ぜるとブラウンならぬ、“染めるとブラウン”(←ウン探が勝手に言っています)。4色のカラーパターンにて出荷しています(詳細はこちら)。
染めるとブラウン、人気みたいです。間引いた枝を処分するにも、費用がかかりますしね。
「ん~、まあお金がかかるのもそうだけど、自分で育てたものだし、子供のようでかわいいじゃない。だから捨てるのは忍びないんだよ。どのようにしてでも使ってもらったほうが嬉しいからね」
榎本さんのSDGsなお取り組みは、榎本さんの子供のように大切に育てた生産物への愛情から生まれるものなのでした。
★知られざる「榎本さん’sキャリア」
榎本さんは有名人ですから、どなたでも「知っているよ!」とおっしゃることでしょう。しかし本当にご存じですか?榎本さんのキャリアを。
榎本さんは君津生まれの君津育ち。お父様は畜産をされていましたが、その後姿を見ていてなかなか大変そうだったので、榎本さんご自身は観賞用花きの生産を決意。アイリスの球根養成から始めました。その後、切り花のパンジーなどを作ったりしながらも、その傍ら君津の名産カラーを都内の市場に届けるドライバーとして物流担当をされていました。花を各市場に届けた帰りは、逆回りで集金もしてきたわけです。
「都内に花き市場が30軒くらいあったときから、君津の花を持ってグル~ッと市場を回って届ける仕事をしていたんだよ。今みたいに市場も集約されていなくて、小規模経営の市場が点在しているときね」
インターネットも普及しておらず、情報を収集するのは大変だった時代ですから、榎本さんのように日常的あちこちを訪れてマーケットの情報集めてくる人材はとても貴重だったのです。そしてこの時に、榎本さんのコミュニケーション能力が発揮されました。
「毎回花を届ける度に、都内の市場の人とお話して、密にコミュニケーションをとって、市場の状況やニーズを聞いていたんだよ。市場でどういうものが欲しいかとかさ、何が売れているかとかさ、そういう情報を集めるいい機会になったよ」
このご経験が現在の榎本さんのビジネスに生きることになりました。
バラ生産を始めたのは1969年ころ。国の第二次農業構造改善事業の募集があり、施設園芸としてバラ生産を始めました。「榎本バラ園」さまの誕生です。
以来バラ生産は半世紀にも及びましたが、2019年からミモザに品目転換し、現在に至るというわけです。
★お花屋さんや消費者の皆様へひとことお願いいたします!
「なんでも言って!」
え?
アタクシの記憶が確かならば、ウンチク探検隊史上、「お花屋さんへメッセージを」と伺って、“なんでも言って”とおっしゃった方は初めてです!
多くの方は、「使ってください」「買ってください」「見てください」・・・もしくは「なんもないっちゃ!」なのに、“なんでも言って!”ってこれ。
きっとこの一言も榎本さんの生産・出荷への姿勢の現れなのではないでしょうか。物流を担当されていた時に、市場をあちこち回ったことで、マーケットやお客様のニーズに耳を傾けるDNAが培われて、今の榎本さんがあるのだと理解いたしました。
ミモザが足りなくてそわそわしていた営業担当の声を拾ってミモザの本格生産に踏み切ったのも、きっかけはそのDNAがあったからこそだったのですね!
★榎本バラ園・榎本雅夫さんの格言
・市場やお客さまの声に耳を傾けて、ニーズを知ろう。バラからミモザに転換したのも、その結果です。
・榎本さんと行政(君津市・千葉県)とJAきみつとも一緒になって「君津のミモザ日本一に!」
ミモザ生産に適したふかふかな土と、大田市場に近い地の利を生かし、“ミモザなら君津に任せろ!”といえる大産地を目指します。
・日本一を目指す君津のミモザ生産はSDGs!“サスティナブル君津”なお取り組みなのでした。
・「なんでも言って!」が生花店様へのメッセージでもあり、榎本さんのモットーでもあります。お客様の声を聴くこと。毎出荷日に市場30社を回ってお客様の声を聴いて集めていた体験が生きています。
こちらの動画も併せてご覧ください。大田花きの名物動画「花予報」
はい、この記事を読まれて、これからミモザ作ろーッ!と決心された皆様、ご注意ください。ミモザまみれになります↓ご本人は全く気が付いていません。
【お・ま・け】
2024年12月フラワー・オブ・ザ・イヤーOTAで特別賞を受賞された榎本さん。受賞後のご自身の変化に気づかれました。
「ウン探さんよ、受賞の内示をもらってから、自分の中で選別のレベルが一段上がったんだよ。これはどうするかな~って迷ったらもう規格外としてはじくんだ。受賞したからには変なものは出せないし、ほかの生産者さんが私の商品を見ることもあるだろうから、私の選別基準が低かったらみんなこれでいいんだって思っちゃうでしょ。出荷基準に対する意識が高くなったよ」
榎本さん、ありがとうございます!
「それからもう一つ。もっと出荷しないといけないと思って、どんどん生産仲間を増やそうと思うよ。大田花きにドーンと出荷して、販売先は大田花きが見つけてくれるでしょ。台風で自分の圃場が被害を受けるリスクもあるし、そのリスク回避のためにも、数量確保のためにも生産仲間を増やす必要があるってね」
榎本さん、ありがとうございます。゚゚(*´□`*。)°゚。嬉泣
品質と数量、そして動機付けの点からご受賞を意義あるものとして受け止めていただきました。
20周年を迎えたフラワー・オブ・ザ・イヤーOTA開催の目的は、一つにトレンドの指標づくり。そのほかに「優れた花きの出荷を奨励し、一層の品質向上を促す」とともに、「生産者さま、ご出荷者様へ日頃の感謝の気持ちを示す機会」としています。この度、榎本様から嬉しいお言葉をいただけて、主催者としても望外の喜びでございます。
もっと語りたいところですが、今回はすでに長すぎました。
最後までご覧いただきありがとうございました。また逢う日まで、ごきげんよう。
文責・写真:内藤育子@大田花き花の生活研究所