それでも花を届けるために

花き業界
 先週、熊本を訪問し、産地視察ならびに熊本県花き研究会の幹事会に出席してまいりました。
 幹事会当日の10年前も、同日に幹事会が開かれており、その日にマグニチュード7の熊本地震が発生しました。発災から丸10年の節目。「もう10年」や「まだ10年」など、人により境遇や捉え方も異なり、心の復興作業はこの先も続いていくと冒頭の挨拶で述べられ、大変複雑な思いでありました。

 生産者の皆様と膝を交えて意見交換を行うなかで、日頃のご尽力に感謝を伝えるとともに、花き生産を取り巻く環境が、これまでにない厳しさを迎えていることを改めて実感しました。

 言わずもがなでありますが、夏の猛暑が年々激しさを増し、冬春期が主力である熊本県においては、定植時期の高温環境が一層悪化しております。初期成育において地温が高く根張りが不十分となり、その影響が採花本数の減少や秀品率の低下、さらには出荷時期の遅れにまで及ぶ状況が見られます。加えて、秋口まで高温が続くケースも増え、未成熟な状態での前進開花が発生するなど、需給のバランスが崩れやすくなっています。こうした中、生産者の皆様には潅水や遮光、作期調整、ハウス管理の工夫など、あらゆる対策にご尽力頂いておりますが、それでもなお限界を感じざるを得ない状況にあると拝察しております。

 さらに、コロナ禍に続きウクライナ情勢、本年に入り中東情勢の悪化と、短期間に大きな外部環境の変化が重なり、コスト上昇が続いています。なかでもエネルギー価格の高騰は深刻で、個人向けの給油対策については政府による支援策に一定の効果が見られる一方、農業・製造・物流といった産業分野では、なお十分とは言えない実態が、産地を歩く中で感じられました。

 軽油はかつて70~80円程度の時代もありましたが、現在は140円前後まで上昇しています。重油も筆者が入社した頃の30円台から130円台へと高騰し、供給面でも不安定さが見られます。産地では、軽油の確保自体が難しい状況や、重油については、(生産規模にもよりますが)本来1,000ℓ単位でまとめて調達するところ、給油制限により一度に20ℓ程度しか調達できないといった声も聞かれました。暖かくなり加温ボイラーの使用は一時落ち着きつつありますが、この状況が長引けば、耕起や田植え、収穫に伴うトラクター利用など、農作業全般への影響が懸念されます。さらに、前処理剤も高騰しており、ある商品は従来5ℓで3万円程度であったものが、現在は12万円程度まで上昇しているとの実態を伺いました。

 一切合切がこのような調子で悪化しており、天候不順や少子高齢化による担い手不足に加え、資材高騰や物流費、人件費の上昇などが重なり、生産者の経営環境は急加速度的に厳しさを増しております。現場の心境を鑑みると、掛ける言葉も見つからない状況です。

 今後、中東情勢の先行きは不透明であり、例年通りの生産・出荷が難しくなる可能性も否定できません。年末需要期は何とか対応できたとしても、1~3月の厳寒期には加温が不可欠な品目も多く、供給が不安定化する懸念があります。そうなれば、卒業式や入学式、歓送迎といった節目の場面において花を十分にお届けできない可能性もあり、その影響は母の日需要期まで及ぶことも想定されます。

 また、消費サイドに目を向けますと、物価高騰により買い控えや節約志向が強まり、消費はより計画的なものへと変化している状況が見て取れます。

 既存の花好きの方々には、生花店の努力もあり一定の花のある暮しが維持されておりますが、生産者の立場からすると、販売が例年並みであっても膨らむコストで利益が確保できない構造となっております。持続的な安定生産のためには、既存顧客の継続利用に加え、これまで花を楽しんでこなかった方々にも、一輪でも多く手に取って頂く必要性があるでしょう。

 しかし、ある日突然「花で潤い豊かな生活を目指しましょう!」とPRしても、新規需要が生まれるとは考えにくいでしょう。花の価値を知る我々業界のメンバーが、その魅力をまだご存じない方々に伝えていくことが重要であり、そのためのエビデンスの整備も不可欠であると考えておりますし、伝え方にも工夫が必要です。時間を要しており恐縮ですが、各社ご努力の中、弊社としても準備を進めております。花のある生活がかっこよく、彩りをもたらし、人生に張り合いが生まれるように。「花って良いよな!」と感じて頂ける仕掛けを関係者とともに展開できるよう尽力してまいります。

 最後に、消費喚起だけでなく、再生産に繋がる価格での仕入れと適正な価格転嫁が行われなければ、業界として安定的な継続は難しくなります。売買を伴う取引先ですが、それ以前に花を流通させるパートナーの意味合いが今後高まり続けてまいります。今までと異なる視点で対策を検討し、着実に実行していくことが不可欠な時代に入っていると強く感じております。足元においては既存顧客にしっかり寄り添い、花好きを喜ばせる取り組みを継続しつつ、一方で、新たな施策を並行して実行してまいります。加えて、コスト削減にも引き続き取り組んで行くことが重要です。

Canon EOS 6D MarkⅡ/TAMRON SP 70-300mm f4-5.6 Di VC USD A030/ISO320/175mm/0ev/f5/1/125s

萩原 正臣 9:00