「運べなくなる」時代に、花き流通はどう向き合うか

経済
 先週、(一社)日本花き卸売市場協会・首都圏支所の総会が開催されました。総会後の特別講演では、丸見運輸株式会社(和歌山県)の虎谷社長より、「花き業界を取り巻く物流事情」について、大変分かりやすいご説明をいただきました。

 物流は、花き業界に限らず、あらゆる産業につきものです。商品やサービスは、物流があって初めて生活者のもとに届きます。一見「物流とは無縁」に見える情報産業でさえ、パソコンやサーバーや機器の調達がなければ、システムエンジニアも仕事をすることが出来ません。突き詰めれば、私たちの社会はすべて物流と密接につながっています。

 こうした中、全産業で注目を集めたのが、いわゆる「物流の2024年問題」です。これは、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限規制が本格適用されたことにより、輸送能力が低下するという問題です。現場では、1日あたりの運行可能時間や走行距離が設定され、これまで問題なく届いていた地域への配送が難しくなるケースも現れ始めました。

 また、出発から最終地点までの拘束時間が厳格に管理されるようになり、配送範囲を維持するため、集配送センターでの積み替え作業にパートスタッフを配置するなど、運送会社の負担が増加している側面もあります。加えて、花き業界では生産量の減少による積載効率の低下や、軽油価格の高止まりといった要因も重なり、運営環境は一層厳しさを増しているのが実情です。 それでも、運送会社を中心に、発荷主である生産者にも協力体制を敷き、現場での工夫を積み重ねて頂いた結果、当初想定よりも混乱少なく進捗させる事ができた2024年問題でした。心より感謝申し上げます。

 その一方で、虎谷社長が強調されたのが、2024年問題以上に深刻とされる「2030年問題※」です。政府や調査機関の試算では、十分な対策を講じなければ、2030年には国内のトラック輸送能力が約3割不足し、理論上「3割の荷物が運べなくなる」可能性が示されています。これは、運賃が少し上がる、到着が少し遅れる、といったレベルの話ではありません。そもそも「引き受けてもらえない荷物」が現実的に発生するということです。

 背景には、大きく三つの構造的課題があります。

第一に、ドライバーの減少問題です。高齢化と若年層不足で、2030年には、ドライバー人数そのものが約3割減少すると見込まれています。

第二に、労働時間規制による一人当たりの稼働時間の減少です。輸送力は「人数×稼働時間」で決まります

第三に、輸送の非効率性です。全トラックの平均積載率は約38%程度で、半分以上空の状態で走っている事になります。さらに荷待ち・荷降ろしに長時間を要し、特に花き業界では依然として手積み・手降ろしが多いことも課題です。EC拡大による小口・多頻度化が、これに拍車を掛けていると、運送事業全体では懸念されています。

 こうした前提に立つと、「10産地の荷物を10人で集荷していたものが、7人に減り、3割ずつカットされる」という単純な話ではありません。実際には、8番目・9番目・10番目の産地は1ケースも集荷してくれなくなる実態に直面する可能性が非常に高いということです。

 虎谷社長自ら約300社の運送会社にアンケート調査を行ったところ、各運送会社が花きを集配送している比率は運送会社内の約1割程度。花は工業製品と異なり、野菜や果物と同様に季節による物量変動が大きく、少量出荷から最盛期に膨らみ、終盤には再び減少します。 トラック1台単位の契約であれば問題は少ないものの、個建て運賃では物量の少ない時期に採算割れとなるケースもあり、こうした事情から、花きを主力としない運送会社では、中期的に花の取り扱いを見直す動きが出始めているとのことでした。

 象徴的な事例として挙げられたのが、四国地方向け水曜販売の輸送停止です。花き市場では月・水・金の週3回取引が一般的ですが、水曜は需給が比較的弱く(婚礼業者を抱えた市場は水曜重要な位置付けで別ですが)、出荷量も少ない。加えて四国は海上輸送コストが高く、水曜日は青果市場の休市とも重なりやすい。需要規模、生産量、コストの条件が重なった結果、不採算路線として四国の水曜出荷が矢面に立たせられたのでした。四国の事例はきっかけに過ぎず、ドライバーの拘束時間制限のもと、遠方に配送する際、複数市場を回ると、時間切れで配送できないケースは今後さらに増えていくと想定されます。

 こうした事態を打破すべく、運送会社主導で「全国花き物流協議会」が立ち上がり、生産者・市場・小売を含めた意見交換と、実効性ある取り組みが始まっています。東京都内に二カ所ある中継拠点も既に飽和状態にあり、中継物流の拡充や各社の工夫が不可欠です。

 また、猛暑対策を含めた低温技術の標準化、本当に月・水・金でなければならない取引形態なのか、といった点も、今一度立ち止まって考える時期に来ていると感じます。輸入商社は、海外からまとまった数量を一括で輸入し、物流効率を考え販売日に合わせて出荷しています。四国の例でも、本来水曜販売向けである荷物を月曜・金曜販売に振り分けることで対応しています。一方、国内は物理的距離が近いにもかかわらず、花が月・水・金に開花してくるから、水曜販売が無いと大変だ!という考えに陥りがちで、混迷しているのが実情です。

 約一時間の講演を通じ、強く感じたのは「そんなに幾つも回答は無い」という事実です。生産出荷に際し花は咲いてくる。一回で仕入れられる数量にも限度あるだろう。生産地と消費地を結ぶ距離が日によって変わる事は無い。外的要因で左右される実情がある。よって、変えられない条件を見極めたうえで、可変部分について折衷案を積み重ねていく。その現実的な判断と決断が、2030年問題に向けて業界全体に求められていると理解しました。

 運送会社が共同配送や中継物流などにより物流網の再構築に尽力されている今、市場や生花店も実情を共有し、将来にわたり花の安定流通を実現していきたいと考えています。

※2030年問題
2030年前後に顕在化するとされる少子高齢化と人口減少に伴う社会課題の総称。
日本の人口は減少局面に入り、特に働く世代の人口は、1990年代後半のピーク時と比べて2030年頃には3割程度減少する見通しとされています。その結果、さまざまな分野で人手不足や事業継続への影響が指摘されています。

Canon EOS 6D MarkⅡ/24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art017/ISO100/63mm/0ev/f2.8/1/40s

萩原 正臣 9:00