WBC放映権から見える、ビジネスモデルの変化

その他
 一雨ごとに春の気配が濃くなり、街の空気も少しずつやわらいできました。厚手のダウンに手が伸びる日も減り、筆者の暮らす街でも、雨が降るたびに季節が確かに前へ進んでいるのを感じます。
 一方で、全国的には晴天が続く地域も多く、各地でダム貯水率の低下が話題になるなど、水不足への懸念も高まっています。生活に欠かせない水のありがたみをあらためて感じるとともに、農業への影響が広がらないことを願わずにはいられません。

 また、急展開する中東情勢は、国際物流や燃油価格を通じて、花き業界にも少なからず影響を及ぼす可能性があります。生活者のハレの日を彩る花、普段使いの花、気持ちを伝える花。そのどれもが、安定した供給の上に成り立つものです。年度末という大切な時期に向け、当社としても確かな荷揃えを進めていきます。

 さて本日は、筆者も注目している大谷翔平選手が出場するWBCについて触れたいと思います。日本のみならず世界中にファンを持つ大谷選手の活躍には、やはり心を動かされます。二刀流としての圧倒的な実績はもちろん、本人の思考や価値観に触れるほど、そのストイックさと、日々成果を積み上げていく姿勢に強く惹かれます。「憧れるのをやめましょう」と言われても、やはり憧れずにはいられません。かつて社内マネジメントにマンダラチャートを取り入れようとしたものの、うまく説明しきれず頓挫した経験があります。いつか改めて挑戦したいと考えています。

 WBCは今回で第6回目を迎えました。これまでの戦績と経済効果を振り返ると、スポーツが持つ力の大きさをあらためて実感します。

・2006年(第1回):優勝 364億円
・2009年(第2回):優勝 506億円
・2013年(第3回):ベスト4 経済効果未公表
・2017年(第4回):ベスト4 343億円
・2023年(第5回):優勝 654億円
・2026年(第6回):優勝時の経済効果試算 約931億円

 特に2023年大会は、2017年大会と比べて経済効果が大きく伸びました。準決勝での村上選手の劇的な逆転打、決勝での大谷翔平選手対マイク・トラウト選手の名勝負など、記憶に残るシーンが数多く生まれたことも、その背景にあるのでしょう。

 そして本年第6回大会が開幕となりましたが、何と!地上波で放映されないではありませんか! その事実に筆者は思わず愕然としました。これまで続いてきたWBC人気の勢いに、ブレーキがかかってしまうのではないか――そんな懸念も抱きましたが、背景を調べると、そこには業界ならではの事情があることが分かりました。

 大きな理由として挙げられるのが、放映権料の高騰です。前回大会では約30億円だったものが、今大会では一気に150億円へと跳ね上がりました。背景には、ライブ視聴できるスポーツコンテンツの希少性が高まっていること、2023年大会の成功によってWBC自体のブランド価値が上昇したことなど、複数の要因があります。加えて、日本のテレビ局側には「広告収入は1試合4億円が限界」という構造的な制約も存在します。

 日本が出場するのは一次ラウンド4試合に、決勝まで進んだ場合の最大3試合を加えて計7試合。さらに注目度の高い主要カードを含めても、視聴率が見込めるのはせいぜい14試合ほどです。これらをすべて上限いっぱいの広告枠で販売しても、収入は約56億円にしかなりません。WBC全47試合を放映したとしても、全試合にスポンサーがつくとは考えづらく、海外開催試合では実況・解説の派遣コストも重なります。結果として14試合を放映するのが順当な契約となり、仮に150億円で放映権を獲得すると、1試合あたり10億円超のコストが最低でも発生します。広告収入の上限である4億円では到底回収できず、テレビ局としては採算が合わないのが実情です。

 そもそも1試合4億円が限界とされるのは、1時間番組で確保できるCM枠が約18%(10.8分)という上限目安があるためで、秒価((視聴率×番組価値×時間帯×需要)+局の営業戦略)計算をすると、理論上の収入は4億円が最大となります。無理に150億円をペイしようとすると110万円/秒という異常な単価になり、日本の平均的な秒価の7〜15倍という、非現実的な水準に達してしまいます。

 因みに上には上がいるもので、世界の主要イベントを見てみると、NFLスーパーボウルが約4,000万円/秒、五輪開会式は100〜200万円/秒、MLBワールドシリーズが数十万円台とされており、スポーツイベントの広告価値の高さがよく分かります。

 では150億円を支払う某動画配信サービスは、割に合うのでしょうか。彼らはWBCに合わせて「初月498円プラン」を打ち出しました。日本の世帯数は約6,100万世帯で、現在1,000万世帯が既にサービスを利用しております。仮に今回のキャンペーンで1%の新規顧客を獲得できれば、日本国内だけでも初月売上は約2.5億円の上振れとなり、そのユーザーが以降890円/月の基本サービスで継続すれば、3年未満で150億円の回収が可能という試算になります。さらに日本を含め世界では3億人以上の有料会員を抱えており、WBCをきっかけに世界的な価値向上が見込めるなら、むしろ「安い投資」とも言えます。

 こうして国内テレビ局と世界規模の配信サービスを比較してみると、収益モデル、投資回収の仕組み、事業スケールなど、構造そのものが全く違うということがよく分かります。

 AI全盛のいま、変化は加速度的で、サービスも進化のスピードを増しています。どの“フレーム”でビジネスを設計するかを誤れば、過去の慣習に縛られたまま新興勢力に立ち向かう事が難しくなることがあると、本事例を元に強く感じることが出来ました。まさにゲームチェンジャーの台頭です。同業の枠を越え、異業種とも同じ土俵で競う時代において、生活者のニーズ(=実際の支出)に寄り添う価値を届けられるかが最大のポイントだと考えております。

 では、私たち花き業界はどうでしょうか。生活者・消費者(生花店)にとって満足度の高い流通を実現できているでしょうか。代替関係にある異業種や異なるサービスを上回る価値を提供出来ているでしょうか。問われているのは、この二点だと痛感いたしました。

 物価の高騰や原油価格の高止まりが懸念され、生活者の購買マインドも揺れやすい状況が続いています。だからこそ、こうした環境変化を前提に仮説を立て、いま求められる流通のあり方を実現することを目指していきたいと思います。

Canon EOS 6D MarkⅡ/EF75-300mm f4-5.6 USM/ISO100/300mm/1.7ev/f5.6/1/125s

萩原 正臣 9:00