セリ場の価値を考える

せり
 ミラノ=コルティナ2026冬季五輪は、開幕したと思えばもう閉幕が見えてきました。連日の熱戦に魅了され、やや寝不足気味ではありますが、選手たちが見せる演技やパフォーマンスには、4年に一度の舞台ならではの重みを感じます。アスリートは強靭な肉体と精神で頂点を目指し、その背後では多くのスタッフが最良の環境づくりに4年間を注がれたことでしょう。代表選考、当日のコンディション、良い演技(絶対評価)でも他者との相対評価で順位づけされる現実――――メダルの色に喜びや悔しさがないはずはありません。それでも、そこに至るまでの道のりや物語、積み重ねたすべての時間こそが大きな価値を持つのだと感じています。 私自身、不整脈でアメフトを断念しメディカルトレーナーに転じた経験から、真剣に向き合う日々が選手だけでなく支える側にとってもかけがえのない財産になることを知っています。数々の感動を届けてくださった皆さまに心から感謝申し上げます。競技はもう少し続きますが、どうか出し切っていただき、やり切った笑顔を見られることを願っています。

 さて、本日は「リアル」と「バーチャル」について触れたいと思います。大田市場の開場から35年。日本で初めて機械ゼリ(セリ下げ方式)を採用し、買参人の応札結果を電子信号化して瞬時に落札判定する、公平性の高いシステムをJFEエンジニアリング様と共に築いてまいりました。14年前には在宅参加の仕組みを整え、生花店の皆さまの利便性向上にも努めてきました。時は流れ、従来機種が製造中止となり、故障対応が難しくなるなど、一部見直しが必要な事態も生じています。具体的な内容は関係者の皆さまに開示できる段になりましたら、改めてご案内いたします。

 上記の通りセリシステムについて再投資のタイミングを迎えましたが、周囲でも運用方法を大きく見直す取り組みが進行しております。当社は現物を「見せる」ことで品質と需給バランスに基づく相場形成を重視してまいりましたが、各社それぞれの方式で進化を続けています。たとえば、以下の2つが挙げられます。

1) 画像ゼリ(現物を並べず、当日撮影の画像や代表画像でセリ販売)
2) 夜間ゼリ(着荷前に産地画像や代表画像でセリ販売)


地域性や経営方針により選択は異なりますが、メリット・デメリットを見極めつつ、技術と運用は今後も進化していくでしょう。

考えられるメリット
・セリ準備や場内オペレーションの大幅な簡素化により、物流コストが下がる。
・現物を動かさないため温度変化や荷傷みを抑え、品質保持に繋がる。
・従業員の作業負担が軽減され、労働時間の短縮が見込める。


考えられるデメリット
・品質差や需給バランスの変化に対する体感が得にくくなる。
・目利き力の低下、等階級と現物の差異把握の機会が減る。
・来場時の“ついで買い”が減少し、相場の変動が激しくなる懸念。
・現物重視の質販店との距離が生まれる可能性。
・コミュニティとしての情報交換の場が減り、情報共有力が低下する懸念がある。

 人は変化を煩わしく感じがちで、良い変化にも悪い変化にも不満は生じます。とはいえ、継続すれば慣れますし、良い変化であれば「住めば都」となるはずです。当社も時代の流れを敏感に捉え、生産量の減少や気象変動による販売の難しさを織り込みつつ、生活者が花を通じて潤いある暮らしを送れるよう、サプライチェーンの強化を念頭に置き、建値市場としての矜持をもって利便性の高い場(サービス)の提供を進めてまいります。

 異業種を見渡すと、デジタル化はさらに進んでいます。新聞の電子版が広がり、場所を選ばず記事を確認できるのが当たり前になりました。書籍は大手ECのロングテールが充実し、電子書籍も増加。家電量販もネットで圧倒的な品揃えと翌日配送を組み合わせ、トータルサービスの信頼度を高めています。実店舗に足を運んでも在庫が薄い場面が増え、店頭をショールームと割り切り、現物体験の後はネットで購入していただく運用に舵を切る企業も現れました。戦略的な選択だと感じます。

 では、リアル店舗の価値は何でしょうか。私のように「見て、納得して、すぐ持ち帰りたい」という衝動買いに近いマインドの生活者は一定数いらっしゃいます。サイズや素材感が重要な衣料・靴などは、なおリアルに分がある場面も多いでしょう。もっとも、近年はサイズ交換や試着サービスなどが整い、オンラインでも顧客満足度を高める工夫が進んでいます。昭和生まれの私には少々オーバースペックに映ることもありますが、顧客不満を徹底的に潰す姿勢は学ぶべき点が多々あります。

 また、リアルの場にこそ生まれるメリットも確かにあります。製品保証の提案や新商品のプレゼン、適切な説明を受けながらの購入判断、そして「紙おむつを買う方は缶ビールも買う」など、一見不連続に見える潜在需要を発見するデータマイニング――こうした力を活かせば、リアルとバーチャルの相乗効果はさらに高まります。

 当社のセリ場リニューアルとオーバーラップさせて考えますと、セリを行う場に思考を固定するのはもったいない。投資対効果を最大化するには、各社が実店舗に+αの価値を載せているように、「来れば得られるもの」を積み上げることが不可欠です。従来の「箱買いは大卸、束単位は仲卸」という棲み分けに資する動線や見せ方、生花店にとって合理的な仕入れ動機が増える仕掛け。大田花きに来場すれば最新情報が得られ、同業との情報交換ができ、市場担当者との立ち話が店頭販売に効く――そんな情報ハブとしての“場づくり”を、ハードもソフトも絶えずアップデートしながら磨き続けるサービス提供精神が欠かせないと考えております。我々も実需者の現状や思いをキャッチして、サプライチェーン進化の触媒になる。それが目指す姿です。

 先日、お世話になっている異業種企業の本社を訪ねました。エレベーターを降りた広いエリアにテーブルと椅子が並び、パートナー企業が自由に着席し来訪者へ商品提案できる――そんな光景に出会いました。大手の集客力を核に、訪問営業に固執せず、親和性のある来場者へ最新提案を行い、成約すればその企業を通じて売買が成立する。まさにWIN&WINの仕組みで、強いサプライチェーンを感じました。限られた敷地にどのようなサービスを組み込み、リアルとバーチャルの最適なバランスをどう設計するのか。私たちも楽しみながら、取引先の皆さまに喜んでいただき、生活者が花のある暮らしをより身近に感じ、花の力を体感していただけるよう、磨き続けてまいります。

Canon EOS 6D MarkⅡ/EF75-300mm f4-5.6 USM/ISO100/75mm/0ev/f13/30.0s

萩原 正臣 9:00