花のある生活の価値を伝えたい

花き業界
 先週木曜あたりから最低気温が一桁前半を示すようになり、ようやく年末らしい、身にしみる寒さがやってきました。その一方で、花き業界は通常月とは異なる活気に満ち、特別市が次々と開催され、いよいよ年越しの準備へと突入しています。

 先月はクリスマス向けのツリー市が行われました。クリスマスはイエス・キリストの誕生を祝う日ではありますが、今では国や宗教を越えて、家族・カップル・親しい方々が愛や希望、平和を分かち合う日へと広がっています。本年もモミの木が各地域の商業施設や観光名所のランドマークとなり、街全体を少し特別な空間へと演出することでしょう。その風景を思い浮かべると、花き業界として人の営みに寄り添う仕事の大切さとやり甲斐を、改めて感じます。

 そして12月は特別市が目白押し。7日(日)には迎春向けの松大市が開催され、17日(水)には千両市が予定されています。皆さんはお正月に松や千両を飾られますでしょうか。松は一年を通じて青々とした姿を保つことから、不老長寿・繁栄・永遠の象徴とされ、冬でも枯れない強さから家や事業の繁栄を願う縁起物とされてきました。千両はその赤い実が豊かに実ることから、多くの富と豊かさの象徴であり、どちらも商売繁盛・家内安全を願う縁起物として欠かせません。こうした意味合いを背景に、松や千両は長年にわたってお正月の必須アイテムとして受け継がれてきました。文化の伝承にはある種の責任感が伴いますが、幼い頃から両親の背中を見て育った者としては、年の瀬のこの風景はどこか懐かしく、温かな記憶でもあります。

 今、改めて思うのは「伝統や文化って、やっぱりカッコ良い」ということです。歌舞伎の世界を描いた映画「国宝」が興行収入で歴代一位となり、昨年には真田広之さん主演のドラマ「SHOGUN 将軍」がエミー賞18部門を受賞。世界中で日本文化への注目が高まっています。観光地を訪ねれば、和装で神社を歩き、茶道を体験し、寿司の握り方を学ぶ外国人観光客の姿も珍しくありません。爆買いの時代は過ぎ、今は “日本文化に触れたい” “日本の本質を味わいたい” というコト消費で心を通わせるニーズが高まりつつあります。生け花や日本の高品質な花々も、もっと世界に届けていくべき価値だと感じています。

 勿論、従来の流通形態に異論があるわけではありません。仏花、誕生日・母の日の贈り物、開店祝いや式典の花、お盆やお彼岸の花──花は生活行事と共にあり、これからも欠かすことのできない存在です。一方で、核家族化・単身世帯の増加、仏壇やお墓を持たないご家庭、ミニマリスト志向、シェアサービスの普及など、生活様式の変化も無視できません。こうした環境の変化、消費者ニーズの変化に対し、我々はどう進化していくのか。ここが問われています。贈答用の花を選ぶ時、赤バラや、青いデルフィ、黄色のアルストロメリアや白いトルコギキョウでなければならないのでしょうか。ある意味何でもよいのではないでしょうか。なぜなら、花を贈ることで“気持ち”を生活者は伝えていると思うからです。 70cmで、ステムが太すぎず細すぎず、花弁の巻きがどうで…といった細部を気にするのは、業界側の論理に過ぎないのかもしれません。勿論、生花店は自社ブランドを背負って商いしておりますので、拘る事は当然かもしれませんが。

 むしろ一般の方は、「気持ちを伝える相手はこんな方」「羊かんも良いけど、ビール券は野暮だし、コンサートのチケットって訳にも行かないし」「やっぱりサプライズにもピッタリの花が良いな」「でもどこで買ったら良いのかな」「何を選べばいいのかな」「いくらかかるのかな」「どんな場面で渡せばいいのかな」…と、こうした疑問で立ち止まってしまうのではないでしょうか。勿論花が身近な生活者の方は沢山いらっしゃると思いますが、花に接する頻度が少ない方も多いことでしょう。母の日のギフトアイテムで花は首位から陥落したことからも、まだまだ花が生活に自然に溶け込んでいるとは言い難い状況です。

 では、なぜ花は定着しないのでしょうか。私は、“生活者が花のある暮らしのイメージを具体的に持てていない” ことが大きいと考えています。一輪の花がテーブルにあるだけで空間が華やぎ、無機質な部屋が色をまとい、ワンランク上の雰囲気になり、それでいてそこまで高価な買い物でもない──その体験を知らないままでは、花は「特別な時のもの」から抜け出せません。

花を買う人・買わない人の違い。ここを丁寧に研究しながら、暮らしに寄り添う提案を探っていきたいと思っています。業界関係者の皆様とも連携しながら、国民の皆さまに花をもっと身近に感じていただき、日々の生活を豊かに彩るアイデアを形にしていきたい所存です。

国民を幸せにする。
世界を花で笑顔にする。
そして花き産業の価値を高めていく。
──そんな思いで、これからも取り組んでまいります

Canon EOS 6D MarkⅡ/24-70mm F2.8 DG OS HSM|Art017/ISO3200/24mm/0ev/f7.1/10.0s

萩原 正臣 9:00