バックキャスト

花き業界
 先週、千葉県花き園芸組合連合会様にて「千葉県の花き生産に期待すること」と題し、一時間半の講演をさせて頂きました。会場には県・JA・共選・個選・切花・鉢物と幅広いメンバーが50名ほど集まり、より良い生産・流通の在り方について、私なりの考えや事例をお伝えしました。時折冗談を交えながら、堅苦しくならないよう努めましたが、皆さんの顔色を拝見するに、まずまずお伝えできたのではないかと感じました。

 参加者には、元大田花き社員で現在は生産者として活躍されている方、入社当時からお付き合いのあるカーネーション生産者、当時農協職員で現在は理事を務める方など、さまざまな顔ぶれが揃い、業界の課題や消費者に喜んでいただくために何ができるかを、後段の懇親会まで含めて熱心に議論しました。秋の夜長に希望の花が咲いたような、充実した時間でした。

 講演では、現在の花き業界を取り巻く課題として、次のようなポイントを整理しました。

コスト上昇の影響
コロナ禍やウクライナ情勢の影響で、人件費や資材コストが大きく上昇しています。例年通りの流通単価では生産者所得が下がり、再生産の維持が難しいケースも増えています。高齢化と後継者不足が続けば、2045年には国内生産量がゼロに近づくと予測されるほど、急速な減少局面にあります。

社会・心理面の変化
凄惨な事件や災害が多く、人々の生活に余裕が薄れつつあります。花の購入や贈答といった行動にも影響が出ており、生活者の心理が大きく変化しています。

気候変動と生産への影響
夏の高温長期化や局地的な気象災害が顕著になり、生産のタイミングや消費パターンにも影響が出ています。

物流・流通の課題
地域によって集配送が難しくなるリスクや、生花市場の老朽化によりコールドチェーン維持の課題があります。

小売り・消費者の変化
生花店の需要は冠婚葬祭から日常利用へシフト。生活者は節約志向でも特別な時には贅沢を選ぶ「価値重視の消費」が増えています。

購入層の変化
50~70歳以上の従来のヘビーユーザーによる購入金額は減少傾向ですが、50歳未満は購入頻度や興味が増えています。SNSやオンラインで花に触れる機会が多いため、ライフスタイルに合わせた提案や情報発信が重要です。

これらの現実を踏まえ、改善策を具体例でお話ししました。現状の課題は重要ですが、目の前の困難だけにとらわれていては前に進めません。そこで有効なのが、「バックキャスト」の考え方です。これは、長期目標から逆算して現状に向けた計画を立てる方法で、計画立案に非常に役立ちます。

 大田花きでは、長期目標として「国民に幸せな暮らしを提供する!」を掲げています。この大きな目標を実現するために、中期目標として【消費拡大】【生産拡大】【良好なサプライチェーンの強化】を設定し、そのための従業員の育成や幸福も重要視しています。さらに、中期目標の一つである【生産拡大】を実現するには、短期目標として<ニーズに沿った生産供給体制>、<適正な所得の確保>、<後継者の確保>などが必要です。

例えば、猛暑の影響で定植時期が出荷に影響する場合、考えられる対策は以下の通りです。
1. 定植時期を後ろ倒し → 咲かない懸念あり → 厳寒期の加温が必要になる
2. ハウス内に冷却システムを導入 → 設備新設コスト・ランニングコスト増
3. 耐暑性の高い品種に転換 → 可能性あり ⇒ 生花店からは不安視される など


個別具体的な内容から真っ先に考え始めると出来ない理由が列記されがちです。より大きな事業目的を意識して、実現に近づけて行く方策・阻害要因を取り除く方策を考え、実行する順番が大切です。

少々こじつけに聞こえるかもしれませんが、「国民に幸せな暮らしを提供する!」という大命題は、多くの方にとって否定されない目標です。この思いが強ければ、改善策を考え、できることを探し、関係者とコミュニケーションを取りながら現実的な落としどころを見つけ出すことが出来ると考えています。

一方、足元の困難な状況も無視できません。例年通りの運用でうまくいっていたものが、今年の猛暑や豪雨でうまくいかなくなることがあります。人為的に変えられない現実に直面したときこそ、思考が止まりがちです。ここで大切なのは、心に余裕を持ち、高い目標から逆算して足元に向けた計画を立て実行することです。

 さて、講演の主題である「千葉県の花き生産に期待すること」ですが、以下をお伝えしました。

地の利の優位性
大消費地に隣接し、首都圏の一角を占めています。農業、商業、工業、観光業など、何でもできるのが千葉であり、最大のメリットでもある反面、極め辛いのがデメリットかもしれません(勿論極めていらっしゃる方も多数いらっしゃいますが)。

輸送コストの安さと鮮度保持の優位性
「充分高いよ!」と仰る生産者の様子が目に浮かびますが、明日から突然北海道や沖縄で突然生産出荷する事になったら、その運賃の高さに目が回るでしょう。また、遠隔地に比べて鮮度保持の観点からもそこまで悩まなくても済むエリアである事が考えられます。

物流インフラの優位性
高速道路(アクアライン)が整っており、成田空港・羽田空港にも近く、東京や地方都市へのアクセスも合理的な立地と言えます。

若手とベテランの連携
技術豊富なベテランがリタイアする一方、勢いのある若手も多く、技術承継や生産減少のカバーに期待できます。

生産者から経営者へ
ご自身の労働力を適正に計算し、積上げた生産コストに加えて損益分岐点を算出する事が重要となります。ご子息が就農するなど事業の継続性を考えた際に必要となり、出荷市場や取引先と予算を共有する計画的な運営が重要です。

多品種・少量生産の可能性
千葉は少量多品種の地域性があります。これはAmazonのロングテールビジネスのように、季節品目や少量多品種で飽きの来ない取り組みも今の時代にマッチするのではないでしょうか。千葉県の括りで見た時、多種多様な商品が出荷される面白味で捉える事も出来るかもしれません。

コミュニケーション
一人でできることは限られます。取引関係者や生産者仲間と継続的な連携をしていきましょう。花き業界のシンクタンクである当社子会社「株式会社大田花き花の生活研究所」では、業界に関連する情報が集まりあらゆる角度から業界の未来を予測しております。そのエッセンスを分かり易くまとめた【フラワービジネスノート2026】を販売しています。こちらも参考にしてはいかがでしょうか。

 講演会のあとの懇親会でも、千葉県の皆さんから色々なご意見をいただきました。「一輪挿しでもいいので、消費者が花瓶を持っていないのは良くないね、大田さん普及活動手伝ってよ!」という話や、「千葉の生産者は比較的一匹狼が多いけど、まとまれば結構いけそうだな~」という意見もありました。また、「出荷情報の電子化って生産者にとってあまりメリットないんだよな~」という方に、「通信料がなくなりますよ」とお伝えすると、「そうなんだ、知らなかった!」というやり取りもありました。「上位等級から下位等級まで上手く販売してくれてありがとう!」という感謝の声もありました。雑談では、「萩原社長、昔アメフトをやっていたんだね!見えないね~」なんて話も飛び出し、和やかに情報交換できました。千葉県の皆さん、貴重なご意見をありがとうございました。

 冷静な判断、パートナーとのコミュニケーション、現状を打破する強い心など、備えるべき武器が数多く存在します。「鳥の目」「虫の目」「魚の目」で多角的に物事を判断しながら、力強く進めていきたいと思います。

Canon EOS 6D MarkⅡ/SP AF 28-75mm F/2.8 XR Di LD Aspherical [IF] MACRO (Model A09)/ISO1000/53mm/0ev/f3.2/1.0s

萩原 正臣 8:53