熊本市内に滞在していた10月31日は、ちょうどハロウィン当日です。定食屋でチキン南蛮を頬張りながら窓から外を見ると、仮装した若者たちが笑顔で通りを歩いていました。仲間と同じ目的で盛り上がる時間は、やはり楽しいものですね。行き過ぎれば渋谷のように規制の対象となることもありますが、節度を持って楽しみながら、これからも地域のイベントとして盛り上げていければと思います。(そういえば昔、かぼちゃ大市でレーザーラモンのコスプレをしてセリをしたことを思い出しました(笑))
最終日はアポの関係で時間が取れたため、阿蘇郡南小国町のマゼノ渓谷を少し散策しました。春と秋の年2回だけ一般公開される“秘密の渓谷”で、静かに流れる水や木々の色合いに、時間が止まったような心地よさを感じました。管理人さんは「紅葉の見ごろはもう少し先やね」と笑顔で話してくれました。マゼノ渓谷は筑後川の源流で、熊本から大分、福岡へと名前を変えながら流れ、最終的には有明海に注ぎます。次に訪れるときは、紅葉に染まる滝の姿をぜひ見てみたいと思います。
さて、今回の熊本訪問は、JA熊本経済連主催の冬春花き生産販売対策会議に出席するため、そしてその前後にお取引いただいている産地様に出向き、御礼や意見交換のためスケジュールを組みました。生産販売対策会議では出荷計画や生育状況が報告され、市場側からも要望をお伝えしました。会議後半では、宇木・菊池・天草地区のカスミソウ生産者が共通の黒バケツをリサイクル出来る素材に切り替える取り組みなどが議題となりました。極論は環境に配慮しつつ輸送効率を考えて乾式輸送の選択肢は無いのか?取り組むとしても日持ち試験による実証や、実需者の理解が必要など、多くの意見が飛び交いました。生産コストや環境対応など課題は山積ですが、産地・市場・小売が一体となって課題解決に取り組むことの重要性を改めて感じた会議でした。
翌日には、本年8月の記録的な豪雨(線状降水帯)災害により、腰くらいまで水に浸かり、定植予定の苗が流され、ボイラーや燃料タンク、ご自宅まで被害に遭われた生産者のお見舞いにJAやつしろを訪れました。被害は県全域に広がっておりますが、特にJAやつしろは主力のトマトなども甚大な被害を受けており、お見舞いしきれない状況が広がっていました。用水路から水が溢れるレベルではなく、道路や畑、ハウスほか見渡す限りの日常が水没して、ボートでも無いと行き来できないレベルであったと生産者の方は肩を落としておりました。
しかし、それでも「今年は出荷を断念するけれど、来年は従前通りのスペックに戻す!」と前向きに話していただきました。本年は時間をかけてハウスのメンテナンスや品種選定、PR活動、消費者にどう花を買っていただくかを徹底的に検討する年にすると、悲壮感とやる気が混ざった真っ直ぐな目で見つめられました。業界関係者として、必要なときに必要な商品を適正価格で供給できる環境を一日も早く取り戻せるよう、全力で取り組むことをお誓いし、固く握手してまいりました。
続いて、なかなか足を運べていなかった天草の個人生産者を訪問。九州大田花き経由でご出荷いただいており、九州大田花きの畑中課長と訪問し、日頃のお取引に感謝をお伝えして、現状の取引環境や産地の生産実態に関して意見交換を行いました。非常に若手の多い地域で、ほとんどの方がご子息に代替わりされ、カスミソウ、輪菊、グラジオラス、金魚草ほか多品目を精力的に出荷されています。離島で遠隔地ゆえ輸送環境で課題もありますが、定期的な情報共有を行い、秋から初夏まで継続安定した出荷と販売を共通目標にして、現地を後にしました。
最後は阿蘇全体の部会長として熊本県や花き業界の発展に尽力されている、白石さんを訪問しました。お付き合いは20年近くになります。当時、大田花きは熊本県の取扱いが限定的であり、阿蘇を伸ばそう!と新規出荷のお願いを続けていたことを思い出します。当時は輸送が課題でなかなか新規出荷に合意頂けませんでしたが、継続的に訪問を重ね、農協担当者や白石さんとの人脈が広がり始めた矢先に九州大田花きへ出向となりました。九州から東京へ5年前に戻り、久しぶりに白石さんとお会いし、是非大田花きに出荷して欲しいと改めてお願いしたところ、既に宅急便で関東に出荷しているというではありませんか!その後ご出荷頂けるようになったことは言うまでもありませんし、近隣の生産者をご紹介いただくなど、今では阿蘇がトルコを中心とした夏秋期の重要な産地になっています。
お伝えしたいのは、この白石さんです。同年代の好青年で、まるで「もののけ姫」の舞台のような人里離れた高標高地で、トルコギキョウやストック、ラナンキュラス、金魚草などを生産されています。山に囲まれ、思うように日照量を確保できない厳しい気象条件の中、物流の難易度高く、資材や燃料・人件費などあらゆるものの高騰にもかかわらず、会うたび笑顔で前向きなお話しか出てきません。
白石さんらしいのは、考えたことや話し合ったことをすぐに実行に移す行動力です。人の和を何より大切にされ、ご自身の苦労もあまり苦労と思われません。地元が高齢化し議員に立候補する人がいなくなると、自ら立候補して地域振興に尽力。収入減少への対応としては、関係者と連携し高齢者でも出来るドライフラワー事業を発案したり、化粧品ブランドとのコラボやストックを使ったドレッシング開発するなど、地域活性化の取り組みを次々に実現しています。関係者のためにアイデアを出し、仲間と相談して形にする――その姿勢には圧倒されます。
お会いすると、決まってハウスで立ち話。前向きな話題が多岐に渡り、あっという間に2時間ほど話し込んでしまいます。今回は、帰りの飛行機が迫ってきたため残念ながら話は打ち切りとなりました。白石さんと巡り合えたこと自体が大きな財産です。今後もお会いして対等に議論できるよう、私自身も世のため人のために命を燃やしていこうと改めて確認できた、非常に貴重な時間でした。
Canon EOS 6D MarkⅡ/SP AF 28-75mm F/2.8 XR Di LD Aspherical [IF] MACRO (Model A09)/ISO800/28mm/0ev/f11/1/160s
萩原 正臣 9:00
