花の力と業界の課題

花き業界
 北極やシベリア付近の強い寒気が、偏西風の蛇行によって日本付近まで南下し始めている。秋を飛び越えて冬の気圧配置となり、東京では最高気温が15℃に届かない日が今後増えてくると、気象協会などがコメントしている。仮説ではあるが、寒波への対応が遅れる産地では開花が鈍り、出荷量が数日遅れて減少する可能性が高い。市場としては産地の最新情報を的確に把握し、実需者へとつなげていきたい。

 さて、先週は二つの重要なイベントが開催された。
 1つ目はかながわ花フェスタ21 第16回フラワーデザインコンテスト クイーンズカップ@横浜市役所アトリウムだ。 今年で16回目を迎えるこの由緒あるフラワーコンテストでは、『花を想い、花と喜び、花に癒される。花の魅力を多くの人に感じてもらいたい。神奈川から花文化を発信する』という開催趣旨に共鳴する多くの生花店が、神奈川のみならず全国から集まり出展した。 今年のテーマは『Happiness』。会場では多くの来場者が足を止め、好みの作品に見入っていた。花の持つ可能性に触れ、笑顔や驚きが生まれ、花が仲介者となって会話が弾む光景があちこちで見られた。改めて、花の持つ癒しの力や、花と緑に囲まれた生活空間の大切さを実感した一日であった。
 

 2つめはFLOWER SUMMIT2025(花の国日本協議会 主催)@御茶ノ水ソラシティ。 本サミットは、生産者・生花店・輸入業者・市場・関連企業など、花き業界の関係者が一堂に会し、「花のある暮らし」をどう生活者に届けていくかを考える場である。パネルディスカッションでは活発な意見交換が行われ、懇親会では初対面同士が明日からの改善に向けて熱心に語り合う姿が印象的であった。

 今年のテーマは「生産を軸に、明日からの新しい花き業界の展望を描く」である。筆者は2年目の参加となったが、会場の熱気や前向きな姿勢には「共に協調して取り組めば新しい成果を生み出すことが出来る!」といった熱量を感じる事が出来た。業界関係者でまだ参加されていない方には、ぜひ来年参加されることをお勧めしたい。

 ここでは、気になったテーマに幾つか触れたいと思う。一部の内容に限った紹介ではあるが、各テーマに込められた本質が十分に伝わるかどうか、不安も残る。しかし、生産者や生花店が直面する課題と向き合い、生活者に選ばれる花き業界を築くための前向きな議論が行われていたことは、ぜひお伝えしておきたい。

1. 生産量減少問題
(ア) 我々に残された時間は20年。生産量の増減を表すと2045年には国内生産量が0本になる
(イ) 1965年(26億本) ▶ 1996年(58億本) ▶ 2024年(29億本) ▶ 2045年(0本)
(ウ) 上記節目となる生産量含め、毎年の数値をグラフに表すと1996年をピークに綺麗な二等辺三角形が見えてくる
(エ) そうならぬように、過剰品質や長すぎる丈を見直すなどの対策が必要
(オ) 愛知みなみや沖永良部・沖縄の小菊など、丈を短くして菊類全体で100億円のコストが低減している実情がある
(カ) コスト低減目指してもそれ以上のコストアップが発生しており、町のお花屋さんが元気出さないと生産者はやっていけない現実があると説明がなされた(価格転嫁含)
(キ) R6年60歳未満の農業従事者は20%しかおらず、60歳以上が80%を占めている
(ク) 収入が安定せず、後継者を後継ぎとして就農させられない現実がある
(ケ) 時間の経過とともに生産量の減少は加速度的に進んでゆく見込み
(コ) そうならないように、関係者が膝を交えてコミュニケーションを取り、未来を変える取り組みを実行する事が大切

2. GREENxEXPO 2027(園芸博覧会)
(ア) 来場者数実績と見込み
  大阪 1990年 2300万人
  淡路 2000年 700万人
  浜名湖 2004年 550万人
  愛知(万博) 2005年 2200万人
  大阪(万博) 2025年 2550万人
  横浜 2027年 1500万人の来場を見込む


(イ) 幸せを創る明日への風景 と題し
・一過性で終わらせない
・花好きも、そうでない方も来場するので、花のファンになってもらう
・若年層にも花の有る暮らしを味わってもらい花好きの裾野を広げて行く
・花や緑に触れる機会を増やしてゆく事が重要

3. 世界の生産実態
(ア) 世界も減っている
・気象変動・適地適作の減少で海外も生産量が減少している
・後継者がおらず廃業するケースも(デンファレのエクセル社など)

(イ) 世界では短茎商品を生産し、生産効率高め、長期予約相対で流通させている
・エチオピアのバラ産地は1軒で10億本を生産し、95%を契約栽培
・ホームユース主体に40cm~50cm生産(日本は1.7億本の生産量)

(ウ) 生産効率の違い(日本の生産能力を1.0倍としたとき)
・マレーシア 1.5倍
・ベトナム 2.0倍
・オランダ 3.0倍 の効率的経営を実現している

(エ) 輸入品は今後増えて行かない実態が有る
・円安もあるが、キャメロンハイランドのSPマムも減っている(地の利、栽培環境の問題が大きい)
・取引国が減り、バリエーションが減り続けるイメージ
・中国は国内経済問題もあり、日本への輸出が増えている17% ▶ 29%
・中国は特に菊類中心に単品目大量ロットで入荷が増え続けている

(オ) 需給バランスの安定化が必要
・短径での取引をもっと増やすべき
・面積当たりの生産効率が海外は高く、生産コストが日本の1/3となっている
・業務需要が減少し(40%を切った)、ホームユースが増加

4. 「作るプロ」から「儲けるプロ」へ
(ア) 農業コンサルタントのご講演
・農家の経営管理は予算管理や無駄な重複作業、在庫管理など改善の余地が無限にあるとのお話
・100の組織改善プロジェクトを立ち上げ、1分1秒1歩にこだわり対処した
・改善プロジェクトが進むにつれて従業員の意識が前向きに変わっていった

(イ) 劇的な夢のような改善はあり得ない
・小さな改善 ▶ 小さな最適化 ▶ 大きなチャレンジ に繋げていく
・ポイントは改善したら何分何時間短縮できたか?結果が大事!
・ルール化、結晶化、リーダーシップ、再現性をどのように担保するか?が極めて重要

5. 環境経営による業界のリブランディングを!
(ア) ヨーロッパの球根生産業者は周辺住人から毒をまき散らしていると非難されている
・除草作業は独自開発の除草機(レーザーで除草)で除草剤を使わない仕組み
・潅水は無駄な水を使わないように点滴チューブで高コストだが対処
・害虫防除も天敵蜘蛛や天敵鴨で対処
・オーガニック(ゼロエミッション)を5年で達成出来るよう目指している
・そうしなければ廃業に追い込まれる危険性が高まっている

(イ) 世界が目指している方向性
・ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)を保ち、幸福・健康的な暮らし・心身の充実を目指すステージに向かっている
・CO2を削減しよう
・地産地消で消費しよう
・シンガポールのグリーンプラン2030の紹介

 FLOWER SUMMITでの気付きの総括として、次のように感じている。
我々はしばしば変化を避けたいと考えるが、現実には環境の変化が急速に進んでいる。変化に適応し、進化していくことが業界の存続には不可欠である。関係者で等しくビジョン描き、切磋琢磨してゆく事が重要となってくる。

 筆者は、「花で生活者を幸せにしたい」と考えている。この考えに反対する人はいないだろう。花にはストレスを軽減し、生活に潤いを与える力がある。だからこそ、花のある暮らしを広く提供することが業界の最大の使命である。しかし、現実は厳しい。高齢化する生産者、不安定な仕入れに悩む生花店、気象変動、そして物価の高騰。これらに対し、来年に劇的な改善が起きることはないだろう。従って、「明日からできる小さな改善」で自助努力をすることが何よりも重要だ。そして変化の必要がある環境には、関係者との対話を通じて計画的に取り組まなければならない。

 花き業界が成り立つには、花の生産、物流、生花店、市場、すべてのプレーヤーの健全経営が不可欠である。また、耐暑性のある種苗開発や環境配慮型資材の導入も、あらゆる分野のあらゆるメンバーが最善を尽くし、取り組みを積み重ねていく必要がある。その根底にあるのは、「花や緑で国民を幸せにしたい」という思いである。この理想に向かって、関係者の知恵と努力を結集し、困難を乗り越えていきたい。

 誰もが気軽に花を手に取り、暮らしの中で楽しめるように。まずは農林水産省が掲げる「花き産出額4500億円目標」に向けて、業界全体で取り組んでいきたい。

Canon EOS 6D MarkⅡ/70mm F2.8 DG MACRO|Art 018/ISO4000/70mm/-0.7ev/f6.3/1/160s

萩原 正臣 9:00