コンセンサス

その他
 10月も半ばを迎え、年末が視野に入ってきた。本年度もすでに半分が過ぎ、時の流れの早さに驚かされる。幼少期は何もかもが新鮮で、見るもの聞くものすべてが発見の連続であった。しかしジャネーの法則では「人が感じる時間の長さは年齢に反比例する」とされており、年齢が上がるほど1年はあっという間に感じられるという。年齢を重ねると経験が蓄積され、時間を短く感じるようになる。こうした話は心理学に近いのかもしれないが、筆者としてはとてもワクワクするテーマである。

 朝晩の空気が和らぎ、まごまごしていると季節がスキップして冬になってしまう。秋の紅葉をファインダー越しに切り取るため早く出かけねばならないが、紅葉は全国的に平年並みかやや遅めの見頃とされている。夏の猛暑や少雨の影響で色づきが遅れているようだ。

 さて、今回は「コンセンサス」について考えてみたい。何かを成し遂げるには、心が通じ合っていることが重要だ。個人でできることには限界があり、目的や手段、達成後の姿をチームで明確に共有する必要がある。人の思いや考え方は千差万別で、すべてが一致することは稀である。それでも、目的や意図を共有し、目指すべき成果をぶれることなくイメージ出来れば、得意を生かし、苦手を補い合いながら、目指すべき道を共に歩むことは充分出来るだろう。

 とはいえ、相手の価値観や考え方を理解していなければ、最大限の力を発揮するのは難しい。人となりを知る手段は様々だが、筆者のような昭和世代にとっては、やはり懇親会(飲みニケーション)が分かりやすいと感じている。ざっくばらんな会話から、相手が何を大事にしているのかが自然と見えてくる。一方、今どきの手法で言えば、エニアグラム診断のようなツールも有効かもしれない。筆者も試してみたが、自分の内面が潜在意識の中まで明らかになったような感覚を抱いた。ただし、こうした診断結果を他者と共有する場合には、本人の許可が必要である。また、このようなツールを用いて、適材適所の配置なども合理的に進められるかもしれないが、それに固執しすぎると、隠れた能力の発見を妨げてしまう。慣れない仕事に取り組むことで、思わぬ適性が見えてくることもある。

 話を元に戻すが、最も大切なのは「最終的にどうなりたいのか」を明確にすることではないか。目の前の課題にとらわれるのではなくUltimate Goal(究極の目標)を起点とし、Overall Goal(全体目標)、Project Goal(プロジェクト目標)へと段階的に落とし込む。言い換えれば長期目標・中期目標・短期目標ともいえる。筆者が今イメージするUGは「国民に幸せな暮らしを提供すること」と、少し大きめな設定をしている。そのためのOGは「花きの安定した生産と流通を維持しつつ、消費拡大を図ること」、PGとしては「必要な品目の生産拡大と、と安定購入に繋がる消費拡大を実現すること」である。

 たとえば、クリスマスに赤バラが求められる場面がある。しかし、重油や電気代の高騰により生産コストが跳ね上がっている中、適正な流通価格で取引できなければ、継続的な供給は難しいという現実がある。生活者側の購買意欲が不透明なままでは、適正な価格転嫁に踏み切れず、計画的な仕入れに二の足を踏む小売も多い。結果、見込が立たず高コスト下での生産を回避する事により品薄単価高になると、クリスマスに赤バラを使う事を諦める機運が高まり、出回り量が少なくても単価が安定しなくなってしまう。 豊かな暮らしの実現には、花のある生活を日常に根づかせることが重要であり、季節ごとの花を楽しむ文化が求められる。クリスマスにおいて赤バラは、ギフト用途だけでなく、ホームユースとしても生活を彩る“マストアイテム”となり得る。そのためには、「店頭売価設定で●●円が顧客ニーズを満たす最良な店頭売価設定となる事から、逆算して市場流通価格は▼▼円となり、その価格を実現して流通させていきたい。従って、生産者が再生産できるだけの環境を整えるには、安くなりがちな◆月の単価をもう数円底上げ出来れば、クリスマス前の生活者にとっての適正価格で流通させることが実現する」。このように、あらかじめ計画を立て、関係者が連携しながら実行に移していくことが重要である。

 足元から考え始めてしまうと、出来ない理由ばかりが聞いてもいないのに次から次へと浮かんでくる。そうではなく、「花で国民を幸せにするぞ!」というUG(究極の目標)から考え始め、そこから「何をすれば実現できるか」を考えていく。理念を固めて足元へ具体的方針を引き寄せてきて、具体的なプロジェクトゴールへと落とし込むことで、現場で実行可能な道筋が見えてくると筆者は考えている。協議の場では「なぜできないか」ではなく、「どうすればできるのか」を共通テーマに据えるべきである。

 「花を通じて国民を幸せにする」。このビジョンに異を唱える人はいないだろう。花には、人の心を癒す力がある。農研機構と筑波大学の研究では、花を観賞することでストレスホルモンである「コルチゾール」が約21%も低下することが実証されている。花が生活に与える好影響は間違いなくあり、それを暮らしの中に普及させていくことは、豊かさの本質に直結する取り組みである。そのためには適正な価格形成、安定した需給バランス、そして納得のいく売価設定を整えることで、効果的に花を流通させ、生活者が入手できる環境を構築すること大切だ。それと同時に「花は暮らしに潤いを与える商品である」というメッセージを、社会全体にしっかりと届けていく必要がある。

 これらを実現するためにサプライチェーン全体が「ワンチーム」となり、共通の目標に向かってコンセンサスを図る姿勢が欠かせない。理論や準備の段階も大切であるが、それ以上に、日々のコミュニケーションを通じて環境を整え、互いの想いを擦り合わせ、よりよい方向へと進んでいくためのコンセンサスを図ることが鍵となるのだ。企業においても、まずは社内でのガバナンスとコンセンサスをしっかり築き、良い取り組みを全力で推進していく体制づくりを目指していきたい。

Canon EOS 6D MarkⅡ/SP AF 28-75mm F/2.8 XR Di LD Aspherical [IF] MACRO (Model A09)/ISO8000/35mm/-1ev/f9/1/125s

萩原 正臣 9:00