「消費拡大 → 生産拡大」で花き産業の維持、拡大につなげる。

花き業界
 彼岸が過ぎ、漸く朝晩はジャケットを着用しても過ごしやすくなってきた。皆様はいかがお過ごしだろうか。寒暖差の発生によって花の品質や発色も向上し、生活者に喜んで花を飾っていただける環境が整い始めている。とはいえ、先週福岡で開催された「九州大田花き取締役会」に出席した折には、急激に曇が湧き上がり、スコールが10分ほど降ったかと思えば、すぐに青空が広がり、気温が再び30度近くまで上昇するなど、目まぐるしい天候の変化が頻繁に起きていると聞いた。生産や流通の現場にとっては、こうした不安定な気象も引き続き注意すべき要素である。

 生産の現場においては、10月は高冷地での反省会、西南暖地での出荷会議が集中する時期である。反省会ではシーズンを振り返り、課題の整理と次年度に向けた改善策の検討が行われる。一方、出荷会議は、出荷開始後の安定した販売に向けて、生産者・市場・小売(生花店)が具体的な目標を共有し合う場だ。こうした取り組みを通じて、花き業界の持続的な成長を図ることが欠かせない。

 小売現場では、秋彼岸を終えひと段落する時期である。関東の生花店からは、お彼岸商戦が好調であったとの声が届き、九州においても在庫が底をつく店舗が多かったと聞いている。これは、年中行事に対する生活者の消費マインドが、少しずつ回復基調にあることを示しているのではないか。特別な購買心理が高まっているわけではないが、行事に沿った安定的な需要は、堅調に推移しているといえよう。
 ただし、生活者の可処分所得が低下する中、生花店側では仕入れを抑えた計画を立てる傾向が強まっており、それが実際の需要とのミスマッチを招き、チャンスロス(在庫切れ)を生む場面も見られた。生活者の需要は確実に存在するものの、現場の判断が慎重にならざるを得ない現状が浮き彫りとなっている。

 卸売市場としても、生産量の減少をはっきりと実感している。今後、この減少に歯止めをかけていくためには、コスト積み上げの価格転嫁の仕組みも必要となるだろう。しかし、何よりもまずは「消費の拡大」が最優先である。健全な出荷と消費のサイクルを回し続けることこそが、花き業界の持続的な維持と発展に欠かせない。特に生活者と最も近い距離で接する生花店には、消費拡大の牽引役としての役割を期待したい。市場や生産者は、その後方支援体制を一層強化し、「花のある暮らし」をより日常のものとするための取り組みを継続していかねばならない。

 九州大田花き出張の際、「九州市場連青年部研修会」の懇親会に急遽参加する機会をいただいた。九州各地の生花市場、生花商、生産者、輸入商社など、50名を超えるメンバーが一堂に会し、活発な意見交換が行われた。 その場では、上期を振り返りながら、天候による入荷量の抑制や品薄感、それにも関わらず単価が伸び悩んだことに対する悩みが共有された。生花店も、高温下での品質不安や消費の鈍さに直面し、仕入れに慎重にならざるを得なかったことから、商売の難しさを口にしていた。
 しかし、話題は決して後ろ向きなものだけではなかった。例えば「スタンドに使う90cmの花を、60cmで代用できないか?」といった高温下での新たな売り方の工夫や、生産量が維持されている品目に対しては、国内での需要が飽和しつつある中で、海外の富裕層向けに輸出することはできないか、といった提案も飛び交っていた。また、福岡花市場では、利便性向上を目的に「夜ゼリ」の導入を検討するなど、時流に合わせた新たな取り組みが動き出している。こうした前向きな挑戦は、業界全体に良い刺激となるはずである。

 今回の出張や意見交換を通じて改めて感じたのは、「消費拡大 → 生産拡大」という順序で物事を進めることが、安定した維持~拡大に繋がるのではないかということである。需要に見合った供給体制を構築することで、無理のない、安定的な業界の発展が見込める。さらに、生産・流通・販売のすべての現場で、断続的にコストが上昇し続けている現状を踏まえれば、業界全体として「価格転嫁策」の検討が急務である。とはいえ、理由なき値上げは消費心理に悪影響を及ぼし、購買意欲を削ぐリスクがあるため、慎重な対応が求められる。実際、価格転嫁に踏み切れている生花店は少ないが、今後避けて通れない課題だ。

今後に向けた取り組みとしては、以下のような視点が求められるであろう。

•花の価値をどのように「見える化」していくか
•青果のように、トレーサビリティを導入するなど、安心と信頼を提供する情報開示の充実
•花を心の健康を支える「必需品」として、社会的な訴求活動 

 気づけば、今期がスタートしてから早くも半年が経過した。夏場の猛暑による流通量の不安は依然として残るが、こうした環境の中にあっても「明日へつながる取引」を着実に実現できるよう、下半期も皆様とのコミュニケーションを大切にしながら、花き業界の未来に向けて、力強く歩みを進めていきたい。

Canon EOS 6D MarkⅡ/SP AF 28-75mm F/2.8 XR Di LD Aspherical [IF] MACRO (Model A09)/ISO1000/35mm/1ev/f9/1/160s(撮影:福岡県 舞能ノ浜にて)

萩原 正臣 9:00