代替されない価値とは何か

花き業界

 先日、異業種の来訪者を迎え、応接する機会があった。会話はいつものように、とりとめのない世間話から始まり、徐々にビジネスの話題へと移っていく。そうした雑談のなかで、ふとしたことから異業種の裏話を聞くことができる場合がある。「そういう仕組みだったのか」と驚かされることもしばしばであり、自社に応用できないかと興味を持って話を伺うよう心がけている。業界内にいると常識が固定化され、柔軟な発想ができなくなるが、そんなときこそ異業種の視点が新たな気づきを与えてくれるものである。

 今回の雑談のなかで特に印象に残った話題が、「最近ガムが売れなくなってきている」というものであった。一見するとどうでもよい話に思えるかもしれないが、筆者はこうした変化に大変関心がある。調べてみると、ガム市場は2004年をピークに縮小を続け、2024年には売上・生産量ともに約60%も減少しているという。なぜガムはここまで衰退したのか。来訪者と共に、さまざまな仮説を立てながら議論を交わした(当然本来の目的ではないが)。ガムを噛むシーンとしては、リフレッシュ目的(仕事中や運転時など)や口臭対策、集中力の向上、「なんとなくの暇つぶし」などが挙げられるだろうか。しかし、そう言われてみれば筆者自身も、最近ガムを口にしていないことに気づかされた。
 ガムの代替商品の筆頭としては「グミ」が挙げられる。硬さ・食感・味・パッケージの多様さにより、老若男女問わず支持を得ている。また、機能性やフレーバーの面で優位性を持つ「タブレット菓子」も勢力を伸ばしている。ミント系タブレットは、かつての仁丹をルーツとしつつ、今では眠気覚ましや口臭ケアに効果的な商品として、幅広い層に受け入れられている。
 更に、ガム衰退の大きな要因のひとつとして、噛み終えたあとの処理が煩雑である点が挙げられるだろう。グミやタブレットと違い、ガムは紙に包んでゴミ箱に捨てる必要がある。捨てる場所が見当たらないときはポケットに一時保管し、そのまま洗濯してしまった経験がある人も少なくないのではないか。
 このように、どんな商品であれ、競合や代替品を見据えつつ、現状を見直し、改良を重ねていかねば、やがて市場から淘汰される時が来る。ガムにしかない利点――たとえば「噛むことによって脳の血流が増加し、集中力が高まる」などのエビデンスに基づくPR強化などが重要だったのだろう。

 この話題から、筆者はふと、過去の事例を思い出した。かつて写真フィルムで世界を席巻したコダックと、今も存続するフジフイルムの対照的な運命である。
コダックは、現像するネガフィルム写真全盛期において圧倒的な存在感を放っていたが、デジタル化の波を前に、既存のフィルム事業を守るためにデジタル化への進化を遠ざけて来た過去があり、その結果2012年に倒産した。
一方のフジフイルムは、フィルム市場の縮小をいち早く察知し、化粧品・医療・バイオといった新たな分野に自社技術を転用。ゼロックスとの提携を含め、多角化経営に成功した。

 どの業界・どの商品であっても、代替リスクを見極め、生活者視点からの変化に柔軟に対応する必要がある。突飛な発想では、旅行とリフォームが競合関係になるなんて話も以前伺った。生活者の「非日常を求める気持ち」と「居心地のよい空間で快適に過ごしたい気持ち」が共存しているという点で、十分に成り立つ話である。

 さて、では「花」の代替商品は何だろうか?癒しという観点からは、フレグランスやインテリア、アロマキャンドルなどが考えられる。ギフトという目的から見ると、贈り手の気持ちを伝える手段としては、花以外にも多くの選択肢が存在する。しかし、「水を替え、少しでも長く楽しむ」という行為そのものを愛している層が一定数存在するのもまた事実であり、花にはストレスホルモンであるコルチゾールを下げる効果があることも、科学的に証明されている。
だからこそ、花を「波及」させるためには、代替リスクを正しく理解しつつも、花にしかない価値を明確に訴求する必要がある。例えば「手間が少なく、長く鑑賞できる花」の方がより望まれるし、花を手に取り易いと考える方が自然だろう。

 そこで、先週のコラムにも記載した通り、筆者は事務所のデスクで簡易的な実験を行ってみた。

実験は8月4日(月)から8月11日(月)までの一週間、水替えを一切行わず、以下の3条件でバラを飾ったものである。
• 左:水質改善剤入りの水
• 中央:水質改善剤入り、13.5℃に保冷
• 右:ただの水





この実験の背景には、「共働きで昼間に在宅できない家庭では、水が温まりやすく、花の寿命が短くなるのではないか」という仮説があった。水質改善剤でバクテリアの繁殖を抑え、さらに水温を低く保つことで、鑑賞期間を延ばし、手間を最小限に抑えることができる。そうなれば、初心者でも花のある暮らしを気軽に楽しむことが可能になるだろう。

今回の実験ではロゼット咲きのバラを使用したため、花弁の多さゆえに劇的な差異は見られなかったが、それでも花弁や葉の質感に違いが見て取れ、特に真水では導管がバクテリアで詰まりやすく、ベントネックを起こす傾向が確認できた。事務所内の筆者デスクでチャレンジしたので、比較的クーラーが効いた冷涼な環境であった影響はあるとは思うが、同じ環境下でここまでの差異を確認する事に成功している。

ちょっとした試みではあるが、今後もさまざまな花を通じて、生活者のニーズに寄り添うアイデアを探っていきたいと考えている。

話題が多岐に渡り恐縮だが、本日は以上としたい。


追伸:2025.07.02のコラム「つまるところ『人』」でご紹介したオーダーメイドのゴルフシューズが、ついに完成しました。 仕上がりについては好みが分かれるかもしれませんが、ひとつの話題として楽しんでいただければ幸いです。


Canon EOS 6D MarkⅡ/70mm F2.8 DG MACRO|Art 018/ISO160/0mm/-1.7ev/f3.2/1/125s

萩原 正臣 9:00