アイディアが価値を生み出す

花き業界
 先日、JA全農ふくれん主催による「福岡県青果・花き振興大会」が、26年ぶりに大規模に開催された。行政、全農、農協、部会役員、主要取引市場など関係者が一堂に会し、福岡県産の野菜・果実・花きの生産振興と消費拡大に向けて、コミュニケーションの強化や改善策の抽出、ブランド戦略の強化を目的とした会合が設けられた。各方面の関係者による建設的な意見交換が活発に行われた。

 会場は、消費地であると同時に生産地としても発展してきた福岡県産の花き・花木で華やかに彩られていた。福岡県は日本海側の降雪地域から日照時間が宮崎県を上回る地域まで、また海抜0mの平地から英彦山周辺の高地まで、多様な地理的環境が広がっている。この恵まれた環境を活かし、県内各地で野菜、果物、花きが一年を通して生産・出荷されている。

 大会は令和7年7月7日の七夕に開催され、「777+7」という縁起の良い数字が並ぶロマンチックかつ粋な演出のもと盛大に催された。 市場代表挨拶として、青果市場の方からお話いただい際、26年前の前回大会を振り返られ、イチゴの品種についての言及がなされた。当時はイチゴ品種「とよのか」が主流だったが、市場の要望を受けて県内で研究開発が進められた結果、全国的な知名度を誇るブランド「あまおう」が生み出された。「あまおう」は「甘い・丸い・大きい・美味い」の頭文字から命名され、贈答用としても人気が高い。生食はもちろん、加工用としてもジャムやアイスなど多様な用途に対応できる万能品種である。平成28年に完成した福岡大同青果の最新鋭コールドチェーン設備を通じて、東南アジアを中心に高鮮度のままで輸出が行われている。

 翌日は時間の制約から2つの産地のみを表敬訪問したが、将来的には改めて各産地を訪問したいと考えている。訪問で特に印象に残ったのは「サプライチェーンの重要性」と「アイディアが価値を生み出す」という二点だ。

 サプライチェーンに関しては、気候変動の影響が大きい。生花店の店頭はもちろん、生産地の栽培環境も激変している。ハウス内は平気で40度を超え、例年通りの生産サイクルが維持できず、立ち枯れや生育障害、秀品率の低下が著しい。加えて高齢化、資材費や燃油、人件費、輸送コストの高騰も重なり、1.3倍の価格で販売できても収益は減少している。 消費の側面でも厳しい状況が続く。賃上げが物価上昇を上回ることはまれであり、一刻も早く経済の好循環実現が求められている。 筆者は生産者に対し、年中行事の必要な場面で多くのご出荷をお願いした。需要期を過ぎると出荷量は急減するが、生花店はイベント後も花を並べ続ける必要があるため、一定量の継続的かつ安定的な出荷が不可欠である。生産者と生花店は単なる取引先ではなく、共に支え合う「パートナー」であるとの認識のもと、生産・出荷体制の強化を強く求めた。

 食料・農業・農村基本法では生産の維持・発展が食料安全保障に繋がるとされているが、これは花きにも当てはまる。生産の維持発展は欠かせない一方、実需・消費の拡大も滑らかに進める必要があり、産地・市場・小売が一体となった“ワンチーム”の取り組みが不可欠である。 こうしたなかで、「顔の見える取引」がますます重要になる。無理のない数量を無理のない価格で無理のない期間に安定的に生産、供給し、販路を広げていく努力がサプライチェーン強化に繋がる。

 市場は消費の実態を的確に捉え、適切な品種や最適な価格を把握し、生産者と生花店双方にメリットある条件を提案・交渉する役割を担う。気候変動により品質・サイズの安定が困難な現状では、幅を持たせた契約条件で産地・生花店双方に過度な負担がかからないようサプライチェーンを構築する必要がある。これも市場の重要な役割である。 また、国内未流通の新たな品種導入や、使い勝手が良く価格とのバランスに優れた商品を生産いただくことで、適正価格での供給と生産者の収益向上を両立させる方法も模索している。試行錯誤を重ね、より良いサプライチェーンの構築を目指す。

 表敬訪問時、ある組合長から「暑さのために出荷できず、廃棄する花が3割近い」との深刻な声を聞いた。青果でも形が不揃いで出荷できないものが2割近く存在し、廃棄は生産コスト回収の障壁となっている。この課題に対し、「何とか経営が成り立つ方法はないか」と考え、その組合ではイチゴやブドウを使った“ジン”の試作が行われていた。訪問時は昼間であったが、試飲を勧められ、利き酒をさせていただいた(もちろん仕事である)。試飲したところ果物の風味がしっかり感じられ、大変フルーティーであった。お酒が得意でない方でも、濃度を調整すれば楽しめると思われる。評判が良ければ今後の製品化も検討中とのことだ。

 同組合長は以前、大田花きにご来社の際「インバウンド向けにホテルへ花をサブスクリプション形式で提供することはできないか?」というアイディアも示されていた。最近では、外国人観光客も高級ホテルより割安なビジネスホテルを利用する傾向が強まってきている。それならば、「ビジネスホテルで花を売れ!」という発想で、早速飛び込み営業をかけている(現時点ではなかなか良い返事はもらえていないが、引き続きチャレンジを続けたいと考えている)。

 聞いた話であるが、博多駅前で花の露店を開いた際、外国人観光客が切り花を購入する事例もあったという。既成概念にとらわれない自由な発想が商機拡大に重要である。例えば熊本県のカスミソウ産地では、花のエキスを用いた日本酒製造など、自らの資源を活かした新たな価値創造の取り組みが進んでいる。

 では、大田花きはどう対応していくか。現在、鮮度保持のためにコールドチェーンが途切れないよう、低温管理が可能な施設を建設し、すでに運用している。そして物流の「2024年問題」により、物流が寸断する場面が増えてきた。そこで当社の商流を経由しない「中継物流のみの利用」も可能として、費用対効果に見合う体制を整え、必要な方には提案している。ご興味のある方は是非ご相談いただきたい。

 現在、いくつかの新規取り組みも準備中であるが、共通のキーワードは「相手の利便性を高めること」である。その結果として、満足の対価がこちらに跳ね返ってくる。このようにシンプルに捉えることが、何よりも重要だと感じている。

 長くなったが、今回、新たな取り組みにチャレンジしてみたい。このブログの読者には、生産者・生花店・市場関係者など、花き業界の皆様が多いと思うが、異業種の方も中にはおられるだろう。「アイディアはあるけど、実現は難しいよな…」と、アクションを起こさずにいる方も多いのではないか。 大田花きも、すべてを自社で実現することは難しいが、情報を共有し、得意分野を持つ方へ委託するなどして、マッチングを進めることが大切だと考えている。花の卸売業とともに、ソリューションビジネスも、今後の重要な役割として推進していきたい。

 「実現したい!相談にのってほしい!」という方がいれば、大きなことでも、小さなことでも、下記お問合せフォームよりぜひご相談いただきたい。



情報は協議のうえ適切に共有し、共により良い未来を築いていきたい。

Canon EOS 6D MarkⅡ/70mm F2.8 DG MACRO|Art 018/ISO2500/70mm/-0.3ev/f6.3/1/160s



萩原 正臣 9:00