言語化と仕事の本質

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 先日、作家と広告制作者による雑誌の対談記事を読んでいると「言語化」がブームになっているとあった。「今年の新語2024」の大賞に「言語化」が選ばれたことも理由の一つだという。作家と広告制作者は、今の風潮として「分かりやすく伝えること」が重視されすぎており、「どう伝えるか?」ばかりに偏っていると感じているようだった。筆者は「それで良いのではないか?」と感じた。今までそうして生きてきたし、今後もコミュニケーションを重視して、相手へ分かり易く伝える事に重きを置いて生きていくだろう、と思っている。

 更に読み進めると、自分自身の中にある言葉になっていないもの を言語化することが重要であり、出発点であると記されていた。 実に難解であるが、非常に興味深い話でもある。場の空気に流されて本質を見失い、その瞬間の合意形成が出来さえすれば本質に到達しなくとも良いといった風潮に、違和感を覚えるからだ。先ずは自身の気持ちを整理すること。そして同時に、それをきちんと伝える努力も必要だ。そう強く感じた次第である。

 対談の後半で取り上げられていた話題のひとつに、究極の言語化はアイザック・ニュートンの運動の第2法則ではないかという話があった。筆者はこう見えても理系出身なのだが(笑)、実は物理が最も苦手である。今になって何となく理解出来る心の余裕が出てきたが、当時はまったく歯が立たなかった。お恥ずかしい限りである。
 ここで少し、「ニュートンの運動の第2法則」について簡単に説明したい。

F=ma

この方程式は以下の通りである。

・ F(力:Force) 単位=ニュートン(N)
・ m(質量:mass) 単位=kg
・ a(加速度:acceleration) 単位=m/s²

つまり、「物体に加わる力は、その質量と加速度の積に等しい」。言い換えれば、重いものを速く動かすには、それだけ大きな力が必要ということだ。このように、ニュートンは自分の中にある抽象的な思考を、方程式という形で見事に言語化し、その結果として多くの人々が「力の仕組み」を理解できるようになった。これは言語化の成功例だと語られていた。

この一節を読んで、自身の心に生まれた思いがあった。既に似た解釈があるのだろうが、物理ではなく“仕事”の視点で、以下のようにF=maを置き換えてみたい。

成果=(経験・スキル・知識)×(熱意・行動力・スピード感)

経験やスキルの高い担当者が、熱意と行動力が高ければ、成果は最大化するだろう。
経験やスキルの高い担当者が、熱意や行動力が低い場合、成果は低くなるだろう。
経験やスキルの低い担当者が、熱意や行動力が高ければ、成果が高まる可能性あり。
経験やスキルの低い担当者が、熱意や行動力が低い場合、成果は最小化するだろう。

この相関関係を当事者自身や上司が理解して関わる事により、より確実に成果に結びつけられるのではないだろうか。苦手だった物理の方程式が、こうして日常や仕事にも応用できるものだ。 また、せっかく言語化するなら、自分の思いをただ表現するだけでなく、「なぜそう考えたのか」を相手に理解してもらうことを大切にしたい。もし良い発想であれば、チームとして採り入れていけるよう、対話を重ねていきたいと強く思っている。 たとえば今回のような式にしても、メンバーと一緒に「経験」「熱意」といった言葉の定義をしっかり固めていくことが不可欠だ。 「10の経験 × 10の熱意 = 100の成果」とは、具体的にどのような状態なのか?言葉のイメージだけで理解した“つもり”になるのではなく、共通認識を持つ必要がある。定義が曖昧なままでは分かりづらく、思考停止に陥る可能性が高い。その結果、成果は半減してしまうだろう。 だからこそ、「立ち止まって考え抜く姿勢」が重要なのだ。

 ところで、ニュートンの運動の第2法則というからには、第1法則・第3法則もある。

第1法則(慣性の法則)
内容:外力が加わらない限り、物体は静止または等速直線運動を続ける
これを仕事に置き換えると、「人は変化を好まず、環境が変わらなければ、これまでやってきたことを続けようとする傾向がある」と解釈できる。変化を起こすためには、外からの“力”が必要なのではないか。

第3法則(作用・反作用の法則)
 内容:すべての作用には、それと等しく反対向きの反作用がある
これも仕事において通じるものがある。 すべての取り組みに対して、必ずしも歓迎される反応ばかりではない。ときに反対意見が出ることもあるが、それはネガティブなだけでなく、リスクヘッジや多角的な視点として役立つこともある。全員でベクトルの向きを揃えつつ、反動的結果を予測しながら運営する事も重要ではないだろうか?決して悪いことばかりではない。

 このように、今回は雑誌記事の一節をヒントに、筆者自身の思いを言語化(整理)してみた。自身と向き合う事が何よりも大切であり、出発点だと感じている。

 人は一人では生きていけない。 特に仕事ともなれば、関係者に喜んでもらえない限り事業継続が困難になる事だろう。 事業継続するためには成果を高め、従業員に還元し、遣り甲斐を感じてもらう。お取引先様に満足していただけるサービスを常に強化・刷新する事が大切である。 経営の原動力となる従業員の遣り甲斐や満足度向上については、ダイバーシティ(多様性)に焦点がよく当たる昨今、一概に経験則で決めつける事が難しい世の中になりつつある。確りと対話をもって足元を分析し、相手の気持ちを察し、到達目標を明確にして、差分を埋める取り組みを続けていきたい。

 そのためにも、一度シンプルに原点回帰して、本質を見つめ直しながら、必要な工夫や改善を段階的に加えていくことが欠かせないのではないだろうか。筆者は、「人のために働くこと」にやりがいを感じ、それがとても心地よいと感じている。いわば化石燃料ではなく自然エネルギーで、ニュートンの運動の第1法則のような持続的な状態を目指しているのかもしれない。

Canon EOS 6D MarkⅡ/SP AF 28-75mm F/2.8 XR Di LD Aspherical [IF] MACRO (Model A09)/ISO100/35mm/0ev/f32/20.0s



萩原 正臣 9:00