つまるところ「人」

大田花き
 先日、友人からオーダーメードのゴルフシューズチケットを頂戴した。年に3~4回しかラウンドしない万年ビギナーの筆者には少々贅沢な代物だが、せっかくのご厚意、ありがたく受け取ることにした。

 早速店舗を訪問。ゆったり到着・じっくり検討しようと向かったが、東京の道は相変わらず渋滞続きで、閉店10分前に滑り込むこととなった。店員にチケットを提示すると「少々お時間いただきますが、よろしいですか?」と丁寧に確認された。市販品の購入とは違い、時間がかかるのは当然だ。店員は一人だけ。閉店後の予定もあるだろうし「問題ありませんが、今度余裕持って再来店しましょうか?」と尋ねると、「全く問題ございません。どうぞこちらへ!」と爽やかな笑顔で奥のシューズエリアへ案内してくれた。

 シューズコーナーの一角には、オーダーメードのサンプルがずらり。オーソドックスなものからクラシックな正統派、バスケットシューズ風まで多彩なラインナップ。眺めるだけでも楽しいが、いざ自分で組み合わせを選ぶとなると、なかなかイメージが湧かない。 まずは足の実測からスタートした。アナログながら精度高い機器で筆者の幅広甲高な足型を忠実に再現していく。続いてデザイン選定である。革がレイアウトされた8種類のベースデザインから選び、後段で色や質感を決めていく。過去の本サービス利用者の声を参考にしながら「少し冒険するくらいがちょうどいい」と判断し、ベースデザインを確定させた。選択肢があるというのは、実に楽しいものである。
 そして本丸の工程、革の色と素材選びへ。100種類近い多様なサンプルが並んでいた。筆者が選んだベースデザインでは、8ヶ所の色や素材を自由に選べる。現在愛用している白地に赤のシューズを保有している事から、今回は青を基調にデザインすることにした。あっという間に1.5時間が経過し、冒頭で「お時間大丈夫ですか?」と聞かれた理由がよく分かった。
 最後はインソールの製作。ここもオーダーメードの真骨頂。一般的な後付けインソールとは異なり、衝撃吸収ラバーと反発力のあるプラスチック素材が組み合わさった疲れにくい構造。130℃で温めたインソールを専用ボックスにセットし、その上に一定時間立って足形を記憶させる。取り出すと、足裏の起伏がしっかり再現されており、早く履いてみたい気持ちがドンドン湧いてきた。 価格表を見て友人に申し訳なさを感じつつも、それ以上に「唯一無二の体験」が心に残った。担当スタッフのホスピタリティも素晴らしく、「楽しいですよね~」「これぐらい攻めちゃってもいいですね」「ゆっくり、思いっきり悩んで下さい!」など、終始寄り添ってくれたおかげで、本当に心地よい時間を過ごすことができた。
 完成まで約1.5ヵ月。出来上がったらブログで紹介したいと思う。

 そんな素敵な体験の翌日、筆者は羽田空港でこのブログを執筆している。誰もが知るメジャー航空会社2社が乗り入れているわけだが、筆者はそのうち一社と相性が悪いらしい。過去5回連続で出発遅延を経験しており、印象はあまり芳しくない。弊社では出張条件を管理本部に伝えると、最適なパックを手配してくれるが、今回は満席やら価格面で条件折り合わず、避けていた航空会社を利用するプランになった。「過去5回は偶然だし、幸運の持ち主かもしれぬ」と自分に言い聞かせて空港へ向かった。
 久しぶりのターミナルは新鮮で、会議の準備をしながらリラックスしていたところ、「ピーンポーンパーンポーン!」と、搭乗ゲート変更のアナウンスが流れた(嫌な予感)。羽田空港は広い。800mほど歩いて新しいゲートへ向かう。「やれやれ、すんなり行かないものだな」と思いながらコラムの続きを書いていると、再びアナウンス。今度は搭乗ゲート再変更と機体トラブルによる1時間15分の遅延。「何と!」と思わず声が漏れる。
 この出来事で強く感じたことがあるので、少々書き加えたい。

 1回目のアナウンスを聞き逃した筆者は、グランドスタッフに「変更後の搭乗ゲートはどちらですか?」と尋ねると、「こちらの通路をまっすぐ進み、突き当りを左折すると左手にございます。お手数お掛けして申し訳ございません!」と、爽やかな笑顔と丁寧な対応。その瞬間、ゲート変更の手間が苦ではなくなった。 しかし、2回目のアナウンス後、別のスタッフに「搭乗手続き開始まで時間はありますか?」と尋ねたのだが、そのときの対応は、正直残念だった。忙しかったのだろうが、筆者の問いかけには目も合わせず、2度繰り返してようやく反応があった。表情からは「忙しいのに話しかけないで」とでも言いたげな雰囲気が滲んでいた。事情は分かるものの、最初のスタッフの対応が素晴らしかっただけに、なおさら落差を感じた。

 昨日のゴルフショップ店員が提供してくれた金額以上のラグジュアリーな体験と、今日のグランドスタッフが似通ったコストで「二度と使いたくない」と思わせてしまった体験。 はたして何が違うのだろうか。社風や教育だろうか。それとも顧客との関係性か。はたまた個々人の感性や姿勢だろうか。 不可抗力で発生した航空機遅延と、それにより予定変更を余儀なくされる利用者の存在。もう一社では遅延経験がほとんどないのに、なぜこの会社ではここまで頻発するのか? もちろん、今回の遅延の根本原因は機体トラブルであり、それ自体は防ぎようのない事象かもしれない。しかし、企業の真価は、こうしたイレギュラーな場面においてこそ試されるのではないだろうか。 遅延発生に対するミーティング等を開催しているのだろうか?「いつものこと」「我々は悪くない」なんて判断で片づけているのではないだろうか?——そんな思いさえよぎる。

 対照的な二日間の体験を通じて、あらためて我が社がどうあるべきかを考えさせられた。外的要因に左右されるような状況でも、そこに心の余裕や、俯瞰する視座があれば、改善困難な課題すらも前向きに変えていけるのではないだろうか。

 最後に、評価するのは自分や身内ではなく、第三者である。

Canon EOS 6D MarkⅡ/SP AF 28-75mm F/2.8 XR Di LD Aspherical [IF] MACRO (Model A09)/ISO12800/28mm/-1.3ev/f11/1/80s

萩原 正臣 9:00