皆様はこれらの用語について、どの程度ご存じであろうか。 筆者自身、漠然と理解しているつもりであったが、あいまいな部分も多いことに気づき、改めて整理する必要があると考えた次第である。
まず「DX(デジタルトランスフォーメーション) 」であるが、これは単なるIT導入を超え、デジタル技術を活用して業務やビジネスモデルを根本的に変革することである。 例えば、紙の書類を廃止し、クラウドでの一元管理に移行して場所を選ばず情報を活用できるようにすることや、AIによる顧客対応の自動化がこれに当たる。競争力強化のための重要な経営戦略として位置付けられている。
次に「AI(人工知能)」は、人間のように学習し、判断し、行動することが可能なコンピュータ技術である。 画像認識や音声認識、チャットボットなど、既に多くの場面で実用化が進んでいる。
そして「生成AI」である。これはAIの中でも特に文章や画像、音楽などのコンテンツを自動的に生成する技術を指す。近年ではChatGPTのようなツールを通じて、クリエイティブな作業においても活用が急速に拡大している。 教育、デザイン、マーケティングなど、多様な分野で期待されている技術である。
最後に「IoT(モノのインターネット) 」である。 家電や車両、産業機器など多様な「モノ」がインターネットにつながり、情報をやり取りする仕組みを指す。 スマート家電や遠隔操作可能な防犯カメラのほか、工場や農業における効率化にも寄与している。
世の中は日進月歩で進化し続けている。可能性や必要性にアンテナを張り、便利に使えば身の回りの効率化が進む技術に囲まれている。サービスや機器を利用する事により時間の創出が可能となり、生まれた時間で効率化や未来へのアプローチを考えることが出来るようになる(何に困っていて、どうなりたいか?のイメージが当然必要になってくるが)。 一方、これら先端技術に目を向けることなく、従前通りの伝統や慣習のみに着目し、大切にし続けた場合、ゲームチェンジが起こって予期せぬ角度から新規参入者が猛威を振るう可能性も否定できない。精度や技術を磨く事も大切だが、ダーウィンが提唱した通り、進化し続ける事が肝要だ(スローガン:『時代に乗り遅れない努力をする』でなかろうか)。
比較的小規模栽培が多い花農家は、大規模栽培の米農家に比べて、少量多品種生産であり、機械化による合理的経営を考える場面が今まで少なかっただろう。勿論様々な場面で機械が実装されているわけだが、大規模で機械の恩恵を得られる経営手法を取っている花き生産農家をイメージする事は難しい。機械化に適した栽培管理ではないケースが殆どではないだろうか。 現実的にはニーズに応じて開発する事になるため、メーカーも採算に見合わないと見て開発に注力する場面が少なかったのではないだろうか? 時代が移り変わり、各所で様々なお困りごとが顕在化し、生活環境も高度化が進んでいる昨今で、今後はアイディアが金に代わり、便利なサービスが増え、効率よく生産出荷が進んでいくことを切に期待したい。
販売サイドでは、生産者が出荷される段階から、生花市場を経由し、生花店が仕入れを起こすところまでは詳細なデータが一気通貫で流れている。環境の改善・合理性を高める上でデータ管理が不可欠であるわけだが、このデータが生活者に手渡される最終の販売時点で簡略化され、川上にフィードバックするには不適切な情報に変換されてしまっている。 スーパーマーケットのようなPOS管理で、管理する側もストレスなく作業を進行させることが出来る環境整備が大変大切であるが、異業種は商品毎にバーコード管理(RFIDなど)されている。一方生花店では、産地・品目・品種・等階級や仕入日などの条件が非常に多岐にわたり、生花店が単品毎(花1本ごと)にバーコードシールを貼付する光景は考え辛く、花瓶単位で分けて店舗内管理する光景ですら想像する事が難しい。 「友達の誕生日に、華やかな感じで5千円の花束を作ってくれる?」などのオーダーに対し、芸術家であるフローリストが店頭にある花材を用いて即興で製品を製作して行く作業が「花屋」の真骨頂である。これが特に困難にさせる要因の一つだろう。個体差のある花をボリューム感に応じて使い分けたり、本数を増減させたり、二つとして同じものが存在しない実情がある。 原価●●円の花を何本+△△円の枝物を何本+デザイン料〇〇円+ラッピング代が※※円=合計で税込5,000円になります。などと計算している場面を見かけぬことから、既存のシステムで上手く賄う事は困難が伴うだろう。
問題はここである。 生産現場でも販売現場でも、システム化を考える事が本業ではない事から、自助努力できない事は凍結され、進化することなく今に至っているわけだ。それも至極当然の歴史的背景である。
製品に含まれる商品情報・ご購入頂いた月日・時間帯・天候・気温・曜日・六曜・性別・年齢層・用途・店頭売価設定・商品品質・店舗立地・消化率・周辺イベント他、様々な情報を便利に分析できる仕組みが整っていれば、生花店店頭の販売データを共有し、より利益率の高い商品を産地に生産していただけるのではないか。生産者も歩留まりが向上し、より利益が出せる構造になれば、後継者も入りやすくなるのではないだろうか。このような好循環を生み出すためには、デジタル化でPOS情報を共有する仕組みを作り上げる必要性がある。力強く検討を進めていきたい。
前段でも触れたスーパーマーケット業界に目を向けてみると、店舗規模にもよるが100人程度の従業員が勤務しており、その時間帯ごとの作業指示書を以前は管理者が考えていた。出勤メンバーのスキルなどを考慮しながら、誰がどの業務を何時~何時まで従事するといった具合で、ベテランの「経験」を頼りにExcelで作成していたようだが、いまではAIを用いて瞬時に作成する事が可能となっている。多店舗展開している企業では年間数千時間・数千万円の削減効果を得ることが出来ているようだ。 また、夜になると値下げシールが貼られた生鮮品などを目にするが、天候や時間帯・来店客数やそれまでの売れ行き、在庫の多少などをベテランが肌感覚で把握し、適正であろうディスカウント価格を考えていた。こちらも現在ではAIが計算し、廃棄ロスを最小限にし、且つ利益をなるべく損なわない見切り価格を計算して、「50円引」「30円引」などのシールが自動発行される仕組みが実装されているという。
あらゆるものが進化し続けている今、何かその道のプロ達と意見交換し、アイディアを出し合えれば花き業界も変革することが出来るのではないか?と信じてやまないわけである。
今後のポイントは、花き中間流通業者が川上と川下の無駄や課題の全体像を把握し、システム開発等で、それぞれの現場が上向くサービスを提供してゆく事が出来れば、まだまだ業界改善の余地があるのではないか。関係者が今までよりも運営し易くなれば、役割を一定程度満たしたことになるのではないか。何を生み出せればブレークスルー出来るのか。このように考え実践する事が重要だと考えている。大田花きは「SolutionとValue Creationで、花が身近な未来を創造します」を事業領域の一つに位置付けている。課題解決と価値創造を提供し、花が身近な生活環境へと推移させることを目指している。生産サイドのデジタル化と共に、特に難易度の高い生花店店頭での売れ行きを、適切に情報化出来る仕組みを実装したい。 そして高価なシステムインフラとならぬよう、全国に導入出来るようなハードルの低い仕組みを考え、店員も煩雑な管理でストレスなく運用でき、売り易い商品を生産者に生産し続けて頂けるサプライチェーンを構築していきたい。
昨今、耳を疑うような事件が連日報道されているが、首謀者が花を購入して飾ったりする光景を想像する事は難しい。心に癒しと潤いを届ける花や緑を普及させることが、巡り巡って社会貢献にも繋がっていくことを願い、業界のイノベーションに全力で取り組んでいきたい。

Canon EOS 6D MarkⅡ/70mm F2.8 DG MACRO|Art 018/ISO4000/70mm/-0.7ev/f5.6/1/160s
萩原 正臣 9:00