当市場においても、午後から夜にかけて横殴りの大雨が続き、まさに傘の意味をなさない自然の猛威に翻弄された。その影響で、垂直搬送機のタッチパネルが雨水によりショートし、台車を上階に搬送する機能が停止する事態に陥った。対応には時間を要したが、隣接する大型エレベーターを活用することで、取引先各位にご不便をおかけすることなく業務を継続することができた。
筆者は当日外出していたが、帰宅の道すがら、都心部でよく見かける、半地下に駐車場と玄関を設けた三階建ての住宅において、6軒ほどが浸水被害に遭い、住人がびしょ濡れの家財を外に出して水を掻き出している姿を目にした。構造上の問題とはいえ、「まさかこんなことになるなんて……」という心の声が聞こえてくるような光景であった。自宅マンションに到着すると、今度はエレベーターが停止していた。聞けば、雨水が扉の隙間から滝のように流れ込み、地下のモーター類が浸水・故障したとのこと。本日時点でも復旧には至っていない。日頃気になっていたお腹まわりの引き締めには、5階までの昇降がちょうどよい運動になると前向きに捉えつつも、雪や地震だけでなく、雨にも弱い都心部の脆弱性を痛感した一日となった。
さて、当社が加盟する(一社)日本花き卸売市場協会には、全国の中央卸売市場(青森から沖縄まで16市場)が参加する「中央卸売市場部会」という組織がある。各市場が抱える課題を共有し、解決策を議論・検討する場として機能しており、先日の会議ではさまざまな意見が交わされた。中でも多かったのが、市場設備の老朽化に関する問題提起である。現在、全国の中央卸売市場の多くが開設から30〜40年を経過しており、老朽化が進行している。地球沸騰化とも言われる昨今の気候環境下では、コールドチェーン維持の為、冷蔵・冷凍設備を中心とした施設の更新が喫緊の課題となっている。
しかしながら、設備更新は容易ではない。必要とされるスペックで建て替え工事の見積もりを依頼すると、数百億円に及ぶ金額が提示される。見積書の有効期限は2ヶ月程度と短く、その間に地元自治体と協議を重ねるも、市場使用料に関する明確な返答が得られず、期限切れで再見積もりを依頼すると、200億円以上が上乗せされる事例もあるようだ。また、着工直前の段階で開示される市場使用料の改定案が、現行の2倍から3.5倍になるとの報告もあり、そのインパクトは計り知れない。果たして経営が持ちこたえられるのか、不安の声も相次いでいる。
別の日には、生産者から直接お電話をいただいた。例年並みの単価は確保できているものの、10年前と比べて販売単価はほとんど変わっていないという。変わったのは、物流コスト・資材・農薬・肥料・種苗・人件費のすべてが上昇している点である。加えて、集出荷施設の利用料も値上がりしており、「このまま生産を続けていけるのか。今の水準では正直難しい。将来的には産地が半減してしまうかもしれない」と、切実な訴えを頂戴した。これは、市場流通全体の持続可能性に直結する深刻な問題であり、安易な励ましや楽観的な言葉では応えられない。価格・品質・出荷時期・人手・物流──すべてが複雑に絡み合い、地域によって事情も異なる中で、冷静に、かつ現実的に課題と向き合わねばならないと強く感じる。
こうした状況下において、市場の役割はますます重要になっている。産地と生花店双方にとって、納得感のある流通体制の再構築が求められており、販売方法の再検討や、供給時期の調整、コストの最適化など、多角的な視点が必要である。
また、花き業界全体としても価格転嫁は避けて通れない。商品に見合った価値と増大するコストを適正に反映させた価格設定が求められるが、ただ単に価格を上げるだけでは、生活者の理解を得るのは難しい。価格を抑えるために本数を減らすような対応では、かえって花から遠ざかってしまう懸念もある。
今こそ、生産者、流通事業者、小売店、それぞれが「明日への投資」ができるかどうかが問われている。プロモーションの強化、業務の合理化、品質向上、優秀な人材の確保──そのための積極的な投資を行うには、まず目標を明確に掲げ、関係者間で目線を合わせ、実行に移すことが重要である。「何が必要か」「何が欠けているか」「いつまでにどうするか」。これらを一つひとつ確認しながら、地に足をつけた前進を図っていきたい。厳しい環境下だからこそ、立ち止まり、対話し、実行することが求められている。
•消費拡大施策
•生産量維持〜拡大施策
•従業員のやりがい向上施策
これらを具体的な目標に落とし込み、優先順位の高いものから結果を出す。その積み重ねこそが、花き業界の持続可能な未来を築いていく道であると信じている。

Canon EOS 6D MarkⅡ/70mm F2.8 DG MACRO|Art 018/ISO100/70mm/-1.7ev/f2.8/1/200s
萩原 正臣 9:00